ちょっとだけホラーです。

スフォーク

……あれ、ないな

ここは、緑豊かな山に囲まれた田舎にある高校。放課後、俺は廊下に設置されているロッカーの中にしまったはずの世界史のノートを取りに来たのだが、なぜか見当たらない。

スフォーク

バッグの中に入れたんだっけ?

今日の世界史の授業が終わったあと、資料集と一緒にロッカーの中に入れたと思っていたのだが、もしかして無意識に机かバッグの中に入れてしまったのだろうか。

スフォーク

いや、確かにこっちに持ってきたはずなんだけどなあ……

俺はいつも教科書しか持ち帰らないから、ノートをロッカー以外に入れることはないはずなのに。

スフォーク

もう一度ちゃんと探してみるか

俺はもう一度ロッカーの中をガサゴソし始めた。

スフォーク

っ……!!

突然、背筋がゾクッとした。

寒いわけでもないのに全身に鳥肌が立つ。背筋をゾワゾワと這い上がってきた感覚が気持ち悪くて、なんとなく嫌な予感する。直感だが、振り向いてはいけない気がしてピクリとも動けなくなってしまった。

俺は霊感なんてないし、今までそんなものを見たこともないが、なぜか今誰かが背後を通ったんだと分かったし、本能がここを早く離れたほうがいいと警報を鳴らしている。

ノートを探すのはあきらめて、俺は一度教室に戻ることにした。

焦っているからか、ロッカーの扉を閉める勢いが強くて激しい音が廊下中に響いた。

かすかに震える指でロッカーのダイヤル錠をかけて、教室に戻ろうと振り返った。

スフォーク

っ、!!

ひゅっ、と喉が鳴った。ドクッと一度だけはねた心臓が痛い。

藤原

……

藤原が、教室のドアから顔を覗かせていた。

あんなことがあったあとだからだとしても、まさかクラスメイトにこんなに驚かされる日が来るとは思わなかった。よかった、悲鳴をあげたりしないで。

藤原

あのさ、

なんだ。おれのびっくりした顔がバカみたいだった、とか言うつもりなのか?

藤原

今ドア開けた?

スフォーク

…………は?

藤原

いや、いきなりドアが半分くらい開いたから。廊下にお前しかいないし

スフォーク

…………開けてない……

藤原

そうか。建てつけが悪いのか?

スフォーク

…………

さっきのは俺の気のせいだった、ということにしようと思っていたのに、なんでこの男はこんなことを言ってくるんだ。もう俺は幽霊で怖がるような年齢じゃないのに。というか、昔からお化けにビビるような子どもではなかったのに。前にこゆびと七瀬と三人で、とある遊園地にある日本で一番怖いお化け屋敷に行ったときは終始真顔だったし、スタッフさんが出てきても1ミリも驚かなかったから二人にドン引きされたというのに。

藤原

また開いたら嫌だから全開にしておくか……というか、お前は廊下で何やってるんだよ

スフォーク

……えっ、ああ、世界史のノートを取ろうと思って

藤原

……手ぶらじゃねぇか

スフォーク

見つからなくて

藤原

なくしたのかよ。よく探した?

スフォーク

……いや

藤原

なんでだよ、探せよ。手伝うから

怖くなって……じゃなくて、嫌な感じがしたから中断した、ということは言わないでおいた。藤原が怖がったらかわいそうだからな。

教室から出てきた藤原が俺の隣に来た。

俺はもう一度ロッカーを開ける。

藤原

……なんというか、すごく男らしいな

スフォーク

正直に汚いって言えよ

藤原

いや別に汚いわけではないけどよ……

なんでこんなに藤原に気を遣われないといけないんだ。

まあ確かに、俺のロッカーの中は綺麗とは言えない。だけどゴミが入っているとか、ぐちゃぐちゃのジャージが入っているとか、そういうわけではない。しかし、本みたいに立てて入れているノートや問題集の高さがバラバラで、壁から離れるほど斜めになっていたり、たたんだジャージの上には適当に急いでしまったファイルや電子辞書などが置いてあったり、なんとなく見た目が汚い。

スフォーク

そういうお前のロッカーはどうなんだよ

藤原

俺は別に普通だけど……

そう言いながら、俺のロッカーの右隣を開けた。

スフォーク

……えっ、めちゃくちゃ綺麗なんだけど

開けた瞬間なだれでも起きるんだろうなって思っていたのに、ありえないくらい綺麗だった。中に入っている参考書の高さが、右から左に行くにつれて高くなるように揃えてある。ジャージもきちんとたたんで手前に置いているし、その上には何も乗せていない。ほぼ俺と同じものを入れているのに、なぜこんなにも違うのか。

スフォーク

その見て呉れなのに……

藤原

うるせぇよ

スフォーク

俺いつも思ってたんだけど、ごちゃごちゃになったロッカーの中を隠すための、綺麗に整頓されたロッカーがプリントされてる布とかあったらいいのに。そうしたら暖簾みたいに取り付けられるから、中の汚さを見られずに済む

藤原

お前賢いのに変なところでバカだよな。あとここにノートあるじゃん

そう言った藤原が、俺のジャージの下から微妙に角を覗かせていた世界史のノートを引っ張り出した。

スフォーク

なんだ、そんなところにあったのか。ありがとう

藤原

おう

無事に見つかってよかった。七瀬がノートを見たいと言っていたので、これで貸せる。

ロッカーを閉めて、藤原と教室に戻ろうとした。そのとき、

こゆび

……、……!

遠くからこゆびの声がした。何を言っているのかはっきりとは聞こえないが、誰かと楽しそうに話しているようだ。

職員室に行くと言って、ホームルームが終わってすぐに教室を飛び出していた。今戻ってきたのか。

スフォーク

相変わらずよく響く声だな

そう思いながら声がした方に顔を向けた。しかし、そこには誰もいなかった。念のため廊下の反対側も見たが、やはり誰もいなかった。

スフォーク

……? 空耳か? まあ、いつも一緒にいるもんな。ふとしたときに声がした気がすることもあるだろ

藤原

どうした?

スフォーク

いや、別に

今度こそ教室に入ろうとしたが、同じクラスの河原が教室から出てきた。

あれ?

キョロキョロと左右に首を振っている。

スフォーク

どうした?

うーん? 今こゆちゃんの声しなかった?

スフォーク

っ!

藤原

はあ? 何言ってんだお前

スフォーク

したよな!?

藤原

うお、びっくりした。お前大きな声出せたのかよ……

俺の気のせいだと思っていたが、河原にも聞こえていたのか。

スフォークくんにも聞こえた? こゆちゃん戻ってきたのかな?

スフォーク

いや……それが、いないんだよな

藤原

俺は何も聞こえなかった

しんちゃんは耳がおじいちゃんなのね

藤原

ちげーよバカ。あとそのしんちゃんっていうのやめろ

スフォーク

河原にも聞こえたのに誰もいないの……?

じゃあ、あれは誰の声だったんだ?

先ほどのできごとを思い出して、一瞬クラッとした。

二人で同じ空耳するなんてありえないよね。なんだか怖いねぇ

藤原

何かいるのかもな。とりあえず教室戻ろうぜ

スフォーク

……

どうしてこの二人はこんなに冷静なんだ。いや、二人は「あれ」を経験していないんだもんな。そりゃそうか。別にものすごく怖い体験をしたわけではないが、あのときの嫌な感じがいまだに頭に残っているからちっとも落ち着かない。

もうこれ以上廊下にいたくなくて、俺は二人に続いて急いで教室に入った。

ドアを閉めたことで廊下と教室の間に壁ができたので少しだけホッとできた。

そこそこ遅い時間だからか、教室には俺たち三人しかいなかった。

スフォークくんはまだ帰らないの?

俺が帰りの支度をせずに窓際の一番後ろにある自分の席に座ったからか、河原がそう聞いてきた。

スフォーク

こゆびが、トランプを使ったちょっとしたゲームをしたいって言ってきたんだ

ゲーム? どんな?

スフォーク

さあ……

この時間はいつもウミガメのスープをしているから、違うことをするのは久しぶりだ。

前に一度ババ抜きをしたとき、こゆびはすぐに顔に出ていたからものすごく分かりやすかった。そしてこゆびと七瀬いわく、俺もソワソワしていたからものすごく分かりやすかったらしい。自覚はないが、そんなにソワソワしていたのだろうか。

突然、教室のドアが開いた。

マヨちゃん

あれ?

教室に入ってきたのは七瀬だった。

スフォーク

どうした?

マヨちゃん

こゆちゃんの声が聞こえたから、もう戻ってきたのかと思ったのに

スフォーク

……

藤原

……

……

マヨちゃん

……え、何?

私とスフォークくんも、さっきこゆちゃんの声なんてしてなかったのに聞こえたような気がしたんだよね

マヨちゃん

えっ……何それ。怖いね

藤原

楢山(ならやま)って、もしかして呪われてる……?

楢山というのは、こゆびの苗字だ。

マヨちゃん

こゆちゃんって好奇心旺盛だからすぐいろんな場所に近づくし、いろいろ拾ってくるから、ありえなくはないね

藤原

子どもか

ということは、さっきの廊下のやつもこゆびが連れてきたのかもしれないということか。ちょっと距離を置かせてもらいたいな。

マヨちゃん

スフォーク険しい顔してどうしたの? 怖いの?

スフォーク

…………お腹空いて

藤原

子どもか

スフォーク

そうだ、七瀬

もうこの話題について話していたくなくて、俺は無理やり話を変えることにした。

マヨちゃん

マヨちゃんって呼んで

スフォーク

これ、世界史のノート

マヨちゃん

おっ、ありがとう! やー、自分が書いたところと教科書に書いてあることが違ってたから確認したかったんだよね。助かる! 今度、意外とマヨネーズが合う食材トップ3を教えてあげるね!

スフォーク

結構です

マヨネーズ本当に好きなのねぇ

藤原

ちょっと気になるな……

マヨちゃん

へー、まさかお前が興味を持つとは。意外だな

口が悪い七瀬なんて初めて見た。

藤原

お前って……

人を「お前」と呼んだりしない七瀬にそう呼ばれたからか、藤原もびっくりしている。

マヨちゃん

葵ちゃんに意地悪ばっかり言うんだもん

藤原

いやそれは、まあ、別に……

マヨちゃん

好きな子にちょっかいかけてる小学生男児にしか見えない

藤原

は!? 何言ってるんだよ、やめろよ!

もー、しんちゃんったら

藤原

おい、お前も否定しろ。まじでいい加減にしろよ

突然、勢いよく教室のドアが開いた。

こゆび

ちょっと聞いてよ! 秀治郎先生がさー! ……って、今日は葵ちゃんと藤原もいるのね

ねえ、こゆちゃんってさ、呪われてる?

こゆび

……びっくりした。「犬飼ってる?」みたいなノリで聞いてくるから私の聞き間違いかと思ったんだけど

スフォーク

じゃあ、今までどこにいた?

こゆび

ずっと職員室だよ。提出する書類を学年主任に渡したあと秀治郎先生としばらくおしゃべりして、それからまっすぐここに戻ってきたよ

秀治郎先生というのは、俺たちの担任の先生のことだ。明るく優しい性格なので生徒からよく慕われていて、下の名前で呼ばれている。

マヨちゃん

じゃあ独り言は? 一人で大声でしゃべってた?

こゆび

そんなことしないよ! 変な人じゃん! たまに歌なら歌う!

あのね、なぜか分からないけど、さっきみんなこゆちゃんの声が聞こえたんだよね

こゆび

えっ……? でも私職員室にいたよ……?

そう。だから不思議だねーって

こゆび

……何か憑りついてるのかな……?

マヨちゃん

かもね

こゆび

じゃあ……テストのときに答えをこっそり教えてもらえるかな?

わあ、いいなあ

スフォーク

……いや、おかしいだろ

気味悪がったりしないのか? こゆびに関しては、もっと怖がるかと思ってたのに。誰一人怖がっていない。あまり幽霊とか信じていないのか? それにしてもだろう。

こゆび

そうだ、スフォーク。私はね、やっと君に勝てそうなゲームを見つけたんだよ

スフォーク

あー……

だからトランプか。

こゆびはいつもいろいろなゲームで俺に負けているから、俺が賭け事が苦手なことを知って、今日ここで俺を負かそうと思ったのか。

スフォーク

やってみよう

こゆび

よし!

こゆび

あ、学校にトランプを持ってきちゃいけないから、今手元にないんだよね。今適当に紙で作るね

藤原

真面目だな

スフォーク

トランプじゃないじゃん

こゆび

細かいことは気にしなくていいの! 何か紙一枚ちょうだい

こゆびは俺の前の席に勝手に座り、イスをくるっと俺の席の方に向かせた。俺が渡したルーズリーフを10等分し、そこに何やら書き始める。

こゆび

はい、こっちはスフォークのね

渡されたのは5枚の紙。そこには1から5までの数字が書かれていた。

こゆび

ルールは簡単。合図したら紙を一枚出すの。数字が大きい方が勝ち。それを五回繰り返して、最終的に相手よりも多く大きい数字を出してた方が勝ち

スフォーク

わかった

こゆび

じゃあ出す紙決めて

どれにしよう。まだ初手だし、どれでもいい気がする。だけど5はもったいないよな。後半にとっておこう。それなら……

こゆび

決めた? いくよ、せーの

二人同時に机に紙を出した。俺が2で、こゆびが5だ。

マヨちゃん

いきなり5を出しちゃうの?

藤原

一番大きい数字なのに、もったいなくないか?

俺も同じことを思ったが、こゆびはニヤニヤしているのでこれも作戦なのだろう。

いったいどういう作戦なのだろう。というか、俺にはまだ5があるから、むしろ俺が有利じゃないか? 後半に4や5の大きい数字を出せば俺が勝てるじゃないか。

なんだかあっさり勝てそうで、逆に不安になってきた。

こゆび

せーの

次に出した紙は、俺が3で、こゆびが2だ。

こゆび

……ちょっと待って

こゆびの顔が険しくなる。

スフォーク

何?

こゆび

いや……3かあ……

スフォーク

なんだ? どうしたんだ?

俺はただ、自分が勝てそうだし適当に真ん中くらいの数字を出しておくか、としか思っていなかったのに。

なんだかよく分からないが、こゆびにとって予想外なことを俺がしたのは確かだ。

今俺が一勝したし、やっぱり最後に4と5を出せば勝てるんじゃないか? でも同じタイミングで4を出されたら引き分けになってしまうし、それだと困るな。今こゆびが持っている紙の中で一番大きい数字は4だから、たぶん最後に出してくるだろうと予想したら……

こゆび

せーの

次は俺が4で、こゆびが1だ。

こゆび

ねえ、ちょっと待っ……んふふっ

こゆびが自分の負けを確信したからか、謎に笑ってしまっている。

こゆび

せーの

俺が1で、こゆびが3。

こゆび

……せーの

最後は俺が5で、こゆびが4。

3対2で俺の勝ちだ。

こゆび

あれー? おかしいな。私が勝てるはずだったのに

どういう作戦だったの?

こゆび

はじめに5を出されたら、焦って次は1か5の数字を出してくるはずだったのに、まさかど真ん中の3を出されるとは……

スフォーク

焦ると思ったの?

こゆび

うん

スフォーク

俺ね「あ、これ、勝ったな」って思ってた

こゆび

えー!? ちゃんと頭使った!?

スフォーク

使ったよ、失礼だな

こゆび

もう一回やらない?

スフォーク

なんか腹立つから嫌だ。

こゆび

ちぇー

しんちゃんやってみたら?

藤原

なんでだよ

こゆび

藤原ってこういうの得意?

藤原

あまりやらないから分からねぇな……

こゆび

藤原には勝てる気がする

藤原

……本気でやる

俺は席を立って、そこに藤原が座る。

こゆび

出すもの決めた?

藤原

決めた

こゆび

せーの

二人は同時に紙を出した。こゆびが2で、藤原が4だ。

こゆび

あれ……?

藤原

ちょっと待て

こゆびと藤原が、頭を抱えてクスクス笑い出した。

スフォーク

何?

マヨちゃん

どうしたの?

なんで笑ってるの?

俺も七瀬も河原も、なぜこの二人が笑っているのか分からず、二人を交互に見ることしかできない。

こゆび

いやあの……ねえ、藤原も同じこと考えてた?

藤原

たぶん……

マヨちゃん

どういうこと?

こゆび

私ね、はじめに2と4どっちを出そうかなって考えてたの

藤原

俺もだ

じゃあ次はどうなるかな?

藤原

やってみよう

こゆび

せーの

次に出したのは、藤原が4で、こゆびが2だ。

こゆび

ねえ、なんで4出したの!?

藤原

楢山こそ2を出してるじゃねぇか

スフォーク

こんなことあるんだ……

こゆび

絶対同じ作戦考えてたじゃん!

藤原

まだ二回目だから! これからはどうなるか分からないだろ

こゆび

じゃあいくよ、せーの

次に出したのは、なんと藤原もこゆびも3だった。

こゆび

ねえ、嫌だ!

藤原

嫌ってどういう意味だよ

スフォーク

すごいな。これ引き分けで終わる可能性もあるぞ

こゆび

嫌だああ!

藤原

だから嫌って言うなよ、傷つくだろ

しんちゃん意外と繊細だもんね

藤原

お前は本当に黙れ

こゆび

よし、出すよ! せーの!

全員の期待通り、二人とも1を出した。

マヨちゃん

ということは最後は決まったね

二人はラスト一枚の5を出した。

こゆび

なーんで被るの、嫌だなあ

藤原

さっきからめちゃくちゃ嫌って言うじゃん

こゆび

だって葵ちゃんに意地悪ばっかり言うんだもん

藤原

それさっきまったく同じことを言われたな

マヨちゃん

私が言いました。

こゆび

好きな子にちょっかい、

藤原

それも言われたんだよ、まじで勘弁しろって

こゆび

実際二人はどういう関係なの?

藤原

どうって……別に……

マヨちゃん

えっ、ちょっと何よ?

いとこだよー

こゆび

いとこ!?

マヨちゃん

いとこ!?

こゆびと七瀬の声が重なった。

こゆび

そうだったの!? スフォーク知ってた?

スフォーク

うん

こゆび

なんで教えてくれなかったの!

スフォーク

知ってると思ってた

特にこゆびは、藤原と河原とは中学も同じだったからすでに知っているものだと思っていた。まさか知らなかったとは。

こゆび

藤原もなんで言わないのよ!

藤原

いやコイツと血縁ってことをあんまり言いたくないんだよ……アホだし

こんなこと言ってるけど、しんちゃんってすっごく優しいんだよ。あと部屋の掃除してくれるし

さきほど見た、藤原の綺麗なロッカーを思い出した。意外と綺麗好きなんだな。

マヨちゃん

秀治郎先生の机もどうにかしてあげてよ

職員室に行くと、プリントが山のように積まれた我らが担任の机がよく目立つのだ。いつかなだれが起きてほかの先生に迷惑をかけそうで、生徒である俺たちがヒヤヒヤしてしまう。

藤原

ぶっちゃけ、掃除したい

スフォーク

したいのかよ

こゆび

あ、そうだ、秀治郎先生で思い出した。さっきなんか言われたんだよね

スフォーク

なんて?

こゆび

学校の裏にある祠が壊されてたんだってさー

こゆびのその発言に、すべての音が消えた。教室の温度が下がった気がする。

今日起こった数々のできごとが脳裏をよぎる。散らばっていた点が一気に繋がって線になったことに嫌な想像をしてしまい、頭から血の気が引く感じがした。

こゆび

……何? みんなして黙っちゃって

さっきみんなが聞いた声って……

マヨちゃん

そういうことなのかな!?

こゆび

えっ、ちょっと待って。ということは、つまり、この学校には……

こゆび

怨念がおんねん、ってこと?

マヨちゃん

くだらない

藤原

ためて言う必要あったか?

わあ、本当だ!

藤原

本当だじゃねえ

スフォーク

帰ろう

あんなに怖がっていた自分がバカみたいだ。いや別に怖くないけど。警戒していただけだ。

こゆび

なんで!? だってそうでしょ!? ねえ、みんな!

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