エンジンの音、波の音、カモメの鳴く声。


晴れ渡った空の下、
俺はとても心細い気持ちで船上に立っていた。



中島 陽太(なかじま はるた)

はあああ〜っ

中島 陽太(なかじま はるた)

(あぁ島が遠ざかってくよ。
本当に島を出ちまったんだな……。
俺、本土でやっていけるのか?)



ため息をついた俺は、
出てきたばかりの島に目をやる。


遠ざかっていく住み慣れた島。

中島 陽太(なかじま はるた)

(じーさんばーさんばかりで
過疎化が進んだっていっても、
俺にとっては大事な島なのに。
それを離れるなんてな……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(しかも、
2年の2学期から
新しい高校に通うなんて……
憂鬱だぜ)



ポケットに手を入れて、スマホを確認する。


親友の優斗からメッセージがきていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(『本土にはかわいい女の子が
いっぱいいるぜ~。
懐かしい奴もいるし、
待ってるぜ~』……か)

中島 陽太(なかじま はるた)

(優斗の奴あいかわらずだな。
島にいるときからの悪友で親友)




不安と寂しさでナイーブになっていた顔が、
若干緩むのを感じた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(懐かしい奴かぁ……。
うちの島から本土に
移住した奴といえば……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(もしかして、
あいつに会えるかな。
俺の初恋の女の子、
来栖 珠來(くるす みらい)に……)

だらしのない顔をしおって……
まったく

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(誰だ?
こんなかわいい子……
島にいたっけ?)

中島 陽太(なかじま はるた)

(……あれ?
でも、この子どこかで……?)

中島 陽太(なかじま はるた)

あ~……っと。
どちら様でしたっけ?

…………


見知らぬ少女はムスッとして、
遠くを指差した。


つられてその指の先を見る。

中島 陽太(なかじま はるた)

何……島?
どういうこと??




ご神木がそびえ立つ島の方を見てから、
視線を少女に戻した。


だが、すでに少女の姿は消えていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんだ? 見間違い?
でも、あの子……絶対にどこかで
会っている感じがしたけど?)

中島 陽太(なかじま はるた)

(そういえば、昨日の夢に
出てきた女の子に
似てたような気が……)



昨夜は、島で過ごす最後の夜……。


それは丁度、島の守り神の祭祀である
『尊惚弁天祭り』の夜だった。


俺が住んでいた本島を始め、
周囲には全部で七つの島があった。


そのすべての島民が一斉に集まり、
ご神木に祈りを捧げに来る。


という昔から伝わる風習を盛大にやるのが、
年に一度の『尊惚弁天祭り』だ。


何でも、ご神木には子孫繁栄の
力があるらしい。


その夜、俺は祭りの代表者として
しきたりに従い、ある部屋で眠っていた。


その時に、不思議な夢を見たのだ。


細かいところは覚えていないが、
それはひどくリアルで、
そして刺激的な夢だった。


着物の美少女が顔を
近づけてきたかと思えば……


唇にしっとりとした、
柔らかな感触が……

中島 陽太(なかじま はるた)

はっ

中島 陽太(なかじま はるた)

(やばい、やばい。
こんな晴天真昼間から
キスの妄想なんて……
欲求不満か俺は?)

中島 陽太(なかじま はるた)

(さっきの子も
幻だったのかもな。
島には女の子なんて
いなかったから……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(そういやあ
優斗が言ってたな。
本土にはかわいい女の子が
いっぱいいる、って……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(明日は転校初日だし、
新たな出会いがあるかも?
これは優斗を頼るしかない!)




そうして俺は、行き先の方へ視線を向けた。





朝を知らせる、アラームが部屋に響く。

中島 陽太(なかじま はるた)

(……ん~、もう朝か。
でもまだ、
もうちょっとだけ……)

起きよ!
テンコウショニチ☆
デアイガアルカモ☆
ではないのか?

中島 陽太(なかじま はるた)

わかってるから。
きっといい子と出会うから……
あともうす……

中島 陽太(なかじま はるた)

えぇぇぇぇ!




アラームの音を打ち消すような
大きな悲鳴がこだまする。


なぜならベッドの上に
見知らぬ美少女が鎮座していたのだ。



…………

中島 陽太(なかじま はるた)

っっっっ??

中島 陽太(なかじま はるた)

(ここ、俺の部屋だよな?
昨日ようやく引っ越しが完了して、
自分の部屋を片付けて……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(転校初日に遅刻しちゃならん
と思って早い時間にアラームを
セットして、すぐに寝て……)

中島 陽太(なかじま はるた)

もしかして都会では、
ご近所の世話焼き美少女が
起こしにくるのが
はやりなのか?

何をたわけたことを
ぬかしておるのじゃ?

中島 陽太(なかじま はるた)

ちがうのか?

ちがう。
ものすごくちがう

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ、お前誰だ?
いつからここにいる?
どうしてここにいる?




少女は一瞬きょとんと首を傾げ、
それからさも当然のように話し始めた。

華胡(かこ)

我が名は華胡。
おぬしらの言う、神様じゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

なっ……どういうっ

華胡(かこ)

まぁ、聞け。
わらわは一昨日の晩からずっと
おぬしの近くにおったぞ、陽太

中島 陽太(なかじま はるた)

おとといだって!?

華胡(かこ)

ここにいるのは、
都会のはやりではない。
おぬしについて来ただけの話じゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(どうしたんだ俺。
まだ夢の中にいるのか?
頬をつねれば……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(イテテッ!
夢じゃない……。
絶望的だぜ)



大きく深呼吸をして、
いったん気持ちを落ち着かせる。

中島 陽太(なかじま はるた)

(落ち着いて、この子を
よ~く観察するんだ。
この子、よく見ると……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(すっごく可愛い!!)

中島 陽太(なかじま はるた)

(……じゃなくて。
昨日、船で会った子じゃないか!)

華胡(かこ)

理解したか?

中島 陽太(なかじま はるた)

理解し……てない。
なんで俺について来てるんだ?

華胡(かこ)

一昨日の夜。
そなたは契約者と
なったではないか?

中島 陽太(なかじま はるた)

契約者?
そんなものになった
覚えはねえぞ

華胡(かこ)

我が神木の樹液を
杯(さかずき)にて
飲み干したではないか

中島 陽太(なかじま はるた)

……あっ

中島 陽太(なかじま はるた)

(一昨日の尊惚弁天祭の
儀式のことか。
あの時に飲んだ、ご神木の樹液……
あれのせいなのか?)


一昨日の祭の儀式は、
本来なら代表者を二人立てるものだった。


ご神木から出る樹液には、
古来から命が宿るとされている。


『尊惚弁天祭り』には17歳になる男女が
一人ずつ代表として選ばれ、
ご神木の樹液を使ったお酒を
祭りの参加者に振舞うのがきまりだった。


その後で……


その男女が一晩同じ部屋で、
島の子孫繁栄を願うというのが通例だ。


爺さんが神主のために、
俺がその代表に選ばれた訳だが……


過疎化が進んでいることもあってか、
相方となれる年齢の女子が
島には一人もいなかったのだ。

華胡(かこ)

思い出しおったか?

中島 陽太(なかじま はるた)

お前……本当に?
神様なのか?
ご神木の? 子孫繁栄の?

華胡(かこ)

じゃから、最初から
そう言っておるだろう。
にぶい小童じゃ

華胡(かこ)

本来、わらわの役割は
夫婦となる二人の契約者の
幸福を支援し、司ることじゃ

華胡(かこ)

その契約者たちが例え、
島から移住しようとも……
わらわは遠き島から
見守り続けていた

華胡(かこ)

しかし!
今回はおぬしのせいで不測の事態が
起こったのじゃ!!
そこへ直れ!

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、はい。
正座すればいいでしょうか?

華胡(かこ)

それでよし

中島 陽太(なかじま はるた)

で、何が俺のせいなん?

華胡(かこ)

おぬしが一人で契約を交わし、
海を渡ってしまったために、
あろうことかわらわが
引きずられてしまったのじゃ!

中島 陽太(なかじま はるた)

そっ、そりゃあ大変だ!!
島の神様を連れて来ちまうなんて
どうすりゃいいんだ!?

華胡(かこ)

まったく、迷惑な話じゃ!
晴天に舞うカモメをながめ、
爽やかな潮風に吹かれながら
優雅な船旅を満喫するなんて、
初めての体験じゃったぞ!

中島 陽太(なかじま はるた)

楽しんでんじゃねーか!

華胡(かこ)

たわけが!!
これが非常に困ったことに
なっておるのじゃ!!

中島 陽太(なかじま はるた)

なんで?

華胡(かこ)

本体であるご神木から離れると、
わらわの神としての力が
弱まってしまうのじゃ……

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ……。
そ、それはゴメン

華胡(かこ)

しかし、幸いなことが
一つだけある

華胡(かこ)

力が弱まっているというのに、
おぬしとこうして目を合わせ、
話すことができる

華胡(かこ)

その原因は恐らく、
おぬしの腰布じゃ。
腰布から強い波動を感じるぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

腰布?
俺、腰に布なんか着けてねえけど

華胡(かこ)

着けておるではないか。
ここにな!!

中島 陽太(なかじま はるた)

いやああああ!!
ズボンを下ろさないでえええ!!
チカンよおおお!!

華胡(かこ)

やかましい。
ほれ見よ、腰布を着けて
おるではないか



華胡の指先は、俺のパンツに向けられていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(確か……このパンツは、
優斗から移住祝いに送られてきた
KURUSUブランドの
モテパンツ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(これを履くと、
本土でモテモテになるぜ……って、
優斗らしい手紙と一緒に……)

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだ。
腰布ってパンツのことか

華胡(かこ)

ぱんつ?



首を傾げ、あどけない感じの表情で言う。

中島 陽太(なかじま はるた)

(かっかわいい……!
神様のくせに無知!)

華胡(かこ)

そのぱんつとかいう腰布が、
大変わらわと相性が良い

中島 陽太(なかじま はるた)

パンツと相性がいい?
どういう神様だよ!

華胡(かこ)

どうやらぱんつの生地が
わらわの本体と近い
性質のようなのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

本体ってことは、
島にあるご神木と?
このパンツがねえ……?

華胡(かこ)

なぜだかわからぬが……
わらわはパンツと
同化しやすいようだ



華胡は俺のパンツに顔を近づけて、
すりすりと頬ずりした。

中島 陽太(なかじま はるた)

☆▽×□!

華胡(かこ)

んっ、どうした?
布地が膨らんでおるぞ?

中島 陽太(なかじま はるた)

き……気にするな!

華胡(かこ)

むっ?
その反応……
さては何かを隠しておるな?

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そんなことより!!
お前は契約者の幸せを
支援して司る神様なんだよな?

華胡(かこ)

まあ、そうじゃな

中島 陽太(なかじま はるた)

それってつまり、
俺を幸せにしてくれる
神様ってことでいいのか?

華胡(かこ)

その通りじゃ。
おぬしを幸せにするのは
わらわの義務でもある

中島 陽太(なかじま はるた)

義務……?

華胡(かこ)

おぬしも知っての通り、
儀式には二人の契約者が必要じゃ。
つまり儀式は未完のままじゃ

華胡(かこ)

おぬしが伴侶を見つけ、
無事に儀式を終えるのを
わらわは見届けねばならぬ

華胡(かこ)

おぬしの恋情が実るように、
力を貸そう

中島 陽太(なかじま はるた)

(美少女の神様に幸せにして
もらえるなんて、こんなに
うまい話があっていいのか?)

華胡(かこ)

と、言う訳でわらわは
おぬしの元を片時も離れないために
そのぱんつと同化しようと思う

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ?

まばゆい光が部屋に満ちる。


今朝、2度目の悲鳴がこだました。


今度は少し嬉しそうな叫びであったが。




華胡との話をまとめ上げた俺は、
学校へ急いだ。

中島 陽太(なかじま はるた)

(校門にいる人数だけで、
島民全体と同じくらいだよなあ。
さすが都会の学校だ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(うっ、急に不安になってきた。
俺、この学校で
うまくやってけるのか?)

華胡(かこ)

おぬしの不安な気持ち、
股間からも伝わるぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

どういうシステムになってんだ
俺のパンツは?

華胡(かこ)

安心せい。
おぬしには、ぱんつに姿を変えた
わらわがついておる

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだか頼もしいな

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

よっ!
は~るたっ!

中島 陽太(なかじま はるた)

おっ、優斗じゃねえか!
ひさしぶりっ!
相変わらず元気そうだな!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

相変わらずぅ?
残念ながらもう昔の俺とは違うぜ。
都会で開花しちゃったからな

中島 陽太(なかじま はるた)

都会で開花ね~。
そりゃあさぞかし素敵な彼女を
紹介してくれるんだろうな!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

すいません。
嘘つきました

中島 陽太(なかじま はるた)

…………

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

…………



数秒の間、見つめ合う。


そして関を切ったようにお互い吹きだした。

中島 陽太(なかじま はるた)

やっぱり相変わずだな~。
まだ写真は撮ってるのか?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

あぁ、もちろん!
最近は女の子を撮るのに忙しくて。
一番新しいのはこれかな



そう言って優斗が差し出した写真には、
一人の女の子が写っていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

……これ、
隠し撮りじゃねえか?
顔がよくわかんねえぞ

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

でも、うちの制服って
ことくらいはわかるだろ?

中島 陽太(なかじま はるた)

隠し撮りしたくなるほどの
美少女が、
この学校にいるってことか?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

その通り!
この子は俺らと同じ学年で、
しかも……

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

おっと!
ここから先は
会ってからのお楽しみだな

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだよ、気になるな

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

まあまあ。
始業式が終わったら
教えてやるよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、どうせ美少女が
俺なんか相手にしないだろ。
どうでもいい──

中島 陽太(なかじま はるた)

アイタッ!




急に股間がパンツに締め付けられて、
その痛みでしゃがみこんでしまった。

華胡(かこ)

何を血迷っておるのだ!

中島 陽太(なかじま はるた)

ちょっ、お前!
俺の急所をつぶす気か??

華胡(かこ)

先ほどのおなごを
一刻も早く見つけ出し、
心を掴むのじゃ!

中島 陽太(なかじま はるた)

なんでさっきの写真の子?

華胡(かこ)

そのおなごからは、
おぬしのぱんつと同じ波動を
感じたのじゃ……

中島 陽太(なかじま はるた)

はい?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

おい……大丈夫か?

中島 陽太(なかじま はるた)

(まずい!
パンツと話してるなんて
知られたら、変態扱いされる!)

中島 陽太(なかじま はるた)

あっ、えっと!
この声は俺が出してる
裏声なんだよ!!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

裏声?
なんの話だ?

中島 陽太(なかじま はるた)

聞こえてないのか?
女の子の声……

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

なに言ってんだ?
しゃがんだと思ったら
一人でブツブツ言って、
おかしいぞお前……?

中島 陽太(なかじま はるた)

(そうか、華胡の声は
他の奴には聞こえないのか)

中島 陽太(なかじま はるた)

な、なんでもないから
気にすんな!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

お、おう?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

そういやお前、
クラスはどこなんだ?

中島 陽太(なかじま はるた)

学校から送られてきた書類だと、
2-Cになってたな

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

俺と一緒じゃん!

中島 陽太(なかじま はるた)

そりゃ心強いな。
よろしく頼むぜ!


ぶおんっ!

ぶろろろろろろろろろ…

きっきー!


エンジン音とブレーキ音が鼓膜を直撃する。


振り向いた先には高そうな車が、
学内にばーんと偉そうに乗り付けていた。


そこから降りてきたのは、
とんでもない美少女だった。


つやつやの髪をなびかせて、
つんとした表情で優雅に車から降りて来る。

中島 陽太(なかじま はるた)

あの、いかにも大金持ちの
ご令嬢って感じの美少女は、
何者なんだ?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

変わりすぎてわかんねえだろ?
あいつがさっきの写真の子!
来栖 珠來(くるす みらい)
だよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

あれが、珠來……?
すごく綺麗になったな。
最後に会ったのは小6の時か

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

小6の時はみんなで
仲良くやってたよな。
でもさ、今のあいつは……

中島 陽太(なかじま はるた)

ちょっと声かけてくる!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

あっ、おい!!

中島 陽太(なかじま はるた)

おーい、珠來!
俺だよ、中島陽太!

来栖 珠來(くるす みらい)

…………!

中島 陽太(なかじま はるた)

久しぶりだな!
俺もとうとうこっちに
移住することになってさ!
……これからよろしくな!




ポンと珠來の肩に手を置く……

来栖 珠來(くるす みらい)

気安く触らないでよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ……?
俺のこと覚えてないのか?


珠來は俺を叩いた手を、
気まずそうに引っ込めた。

来栖 珠來(くるす みらい)

……覚えてるわよ。
でも、同じ島出身っていうだけで
なれなれしくしないで欲しいの



その時、華胡の宿ったモテパンツが
股間でモゾモゾと動き始めた……。

中島 陽太(なかじま はるた)

っうひゃっ!

来栖 珠來(くるす みらい)

う……ひゃ……?

中島 陽太(なかじま はるた)

おいコラ、華胡!

来栖 珠來(くるす みらい)

かこ……?

中島 陽太(なかじま はるた)

(しまった。
華胡と話したら珠來に
変に思われる)

華胡(かこ)

安心せい。
わらわと話したいと念ずることで、
声に出さずとも会話ができるのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(そんな便利な機能が有るなら
最初に教えてくれ……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(それより!
なんで今動いたんだ!!
変な声が出ちまったじゃないか!)

華胡(かこ)

黙っておれ。
我が力、そなたに貸与しようぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

???




股間の辺りがまばゆく光ったと思うと、
その光は珠來に吸い込まれて行った。


すると、珠來の表情が
心なしか柔らかいものになっていた。

来栖 珠來(くるす みらい)

ところであんた、
どこのクラス?

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ?
2-Cだけど……

来栖 珠來(くるす みらい)

ふーん、あたしと一緒じゃない。
もし気が向いたら、
話してあげても……

中島 陽太(なかじま はるた)

(昔の珠來に戻った……?)

来栖 珠來(くるす みらい)

やっぱりなんでもないっ



珠來は恥ずかしそうにそっぽを向き、
校舎へ向かって走り去ってしまった。

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

来栖は島を出てから
変わっちまったんだよ。
元々ツンツンしてたけど、
あそこまでキツくなかったのに




振り向くと優斗が立っていた。

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

一番仲が良かったお前なら、
ひょっとして……と思ったけど、
相変わらずの態度だな

中島 陽太(なかじま はるた)

でも、ちょっとなら
話してもいいって……

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

えっ?
なんか言ってたかあいつ?

中島 陽太(なかじま はるた)

いや……何でもない

中島 陽太(なかじま はるた)

(華胡が動いてから、
珠來の反応が変わった。
……どういうことだ?)




優斗が校舎の時計を見上げて、
大きく口を開けた。

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

やべっ、始業式がはじまる!
体育館へ急ぐぞ!

体育館に到着すると、
すぐに始業式がはじまった。


校長の長いあいさつを聞いている内に、
退屈になった俺は華胡に話しかけた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(さっきは華胡が力を使ったから、
珠來がちょっとだけ
優しくなったのか?)

華胡(かこ)

そのようじゃな。
わらわも半信半疑ではあったが、
先ほどの効果を見て確信に至った

華胡(かこ)

わらわと同化したぱんつを
身に着けることで、
運気が良いほうへ変わるのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(ということは、
華胡パンツを履いている俺は
無敵状態ってわけか!)

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

お~い陽太!
ホームルームまで時間あるから
学校の中を歩こうぜ

中島 陽太(なかじま はるた)

おうっ、行こ……

中島 陽太(なかじま はるた)

あっ、やばい。
ホームルームの前に職員室に
行かなきゃいけねえんだ

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

そうか?
じゃあ俺が
連れて行ってやるよ

おーい、何やってんだ堀川!
新聞部はこれから撮影だぞ!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

あっ、そうだった

中島 陽太(なかじま はるた)

何の撮影だ?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

壇上に出てる校章や垂れ幕とかを、
片付けられる前に
撮んなきゃいけなくてさ

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

なんでも学校の資料として
残すらしいぜ。
新聞部がその役目を
まかされてんだ

中島 陽太(なかじま はるた)

へえー、お前って
新聞部だったんだな。
んじゃ、一人で行ってくるよ

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

ホームルームまで……
30分くらい時間はあるな。
職員室の行き方わかるか?

中島 陽太(なかじま はるた)

ああ、確か……
1年生の教室の近くだよな?
あれ?
3年生の教室だっけ?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

……大丈夫。
ホームルームが始まっても
帰ってこなかったら、
迎えに行ってやるよ

中島 陽太(なかじま はるた)

はははっ!
迷ったりしねえよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

(すっかり迷ってしまった。
どうしよう……。
このままでは一生かかっても
辿り着けないぞ……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(お~い、華胡……。
お前の力で職員室を
見つけることはできるか?)

華胡(かこ)

ショクインシツ……じゃと?
わらわが下穿きであることが
そんなに不満か?

中島 陽太(なかじま はるた)

(は?
何と勘違いしてんだ?)



華胡が力を使い、
漢字をビジュアルで伝えてきた。

華胡(かこ)

ショクインシツとは、
こうじゃろ?



触 陰 湿

中島 陽太(なかじま はるた)

…………




俺には上級すぎるボケなので、
無視することにした。

中島 陽太(なかじま はるた)

(うっ、実りの無い
会話をしている内に
急に尿意が。
トイレトイレ~!)



廊下の先にトイレの表示が見えたので、
急いで駆け込む。


そしてズボンのチャックをおろすと、
華胡が話しかけてきた。

華胡(かこ)

ふうー、やっと
のびのびできるな

中島 陽太(なかじま はるた)

やっぱりズボンを履いてると
窮屈なのか?

華胡(かこ)

まあ、気分的にな。
自分では外に出れないからのう

中島 陽太(なかじま はるた)

でも、始業式の最中に
話していた時には、
華胡が隣に立っている
ように見えた気が……

華胡(かこ)

おぬしの集中力によっては
心のイメージが具現化され、
さも隣りにいるように
感じることもあるのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

まぁ……よくわからないが、
つまり他の奴らに対して
華胡の存在に気を遣う必要は
ないんだな




ふと華胡が、こちらをまっすぐと見てきた。

華胡(かこ)

ところで……おぬし、
門の近くで会った
来栖珠來というおなごについて
どう思ってるのじゃ?

中島 陽太(なかじま はるた)

どう思ってるって……
すごく綺麗になってたとは思う。
だいぶきついこと言われたけど

華胡(かこ)

ほうほう。
ならば、あのおなごを
伴侶にするのじゃな?

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、そりゃ無理だろ。
このパンツを履いてなきゃ
お前の力は借りれないし

華胡(かこ)

あきらめるのか?

中島 陽太(なかじま はるた)

いや……また昔みたいに
仲良く出来たらいいな、
とは思う……

華胡(かこ)

……了解した。
では、わらわはぬしと彼女の
祝福を司ろうではないか

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ?
ちょっと待ってくれよ!
他の女の子との出会いもある
かもしんねえだろ!

華胡(かこ)

たわけ!
これだから男というものは……。
初恋の想い人ではないのか?
はっきりせい!!

中島 陽太(なかじま はるた)

な、なんで珠來が
俺の初恋だって知ってんだ?

華胡(かこ)

適当に言ったのだが、
当たっていたのか

中島 陽太(なかじま はるた)

お前……。
ま、まあ珠來とのこと
よろしく頼むよ




こうして波乱万丈な、
華胡パンツと俺の生活が始まった。


明日からどんな毎日なのか。


島を出るときの憂鬱もどこかに、
期待に胸が高鳴っている自分がいた。

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