廃墟島の6日目《 中編④ 》

美崎 耀(みさき あかる)

(コイツ……ッッ!!!)


姫乃の死の真相を聞かされた俺は、
はらわたが煮えくり返るような思いだった。


爪が食い込むほどに力強く拳を握り、
なんとかして怒りを抑えようとする。

美崎 耀(みさき あかる)

(まだだ……!
もう少し我慢するんだ。
亜百合はすべてを話すと
約束したんだから)



そうしたときに、一つの疑問が浮かんだ。

美崎 耀(みさき あかる)

一つ聞きたいことがある

雲母 亜百合(きらら あゆり)

なあに?

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴を殺したのも、
お前なのか?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ふふっ、お兄ちゃんは本当に
先生(さきお)先生を
信じてるんだね

美崎 耀(みさき あかる)

どういう意味だ?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

だって、私は言ったよね。
先生先生は自殺したんじゃないの?
……って

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴は自殺じゃねえ!
崖の柵が壊れてるのを
若葉と確認した!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ああ、そうだったね。
ステンレスは紫外線や塩害で
ボロボロになるんだっけ?

美崎 耀(みさき あかる)

お前……
その話も隠れて聞いてたのか?

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴はたぶん、
ここから突き落とされたはずだな

日良 若葉(ひら わかば)

みさき先生が転落した
場所だね……

美崎 耀(みさき あかる)

みさき先生の時は、柵が無かった。
だけど兄貴の時は、柵が有った

日良 若葉(ひら わかば)

だから玲也くんは、
自殺だと推理してたよね

美崎 耀(みさき あかる)

問題は、その柵なんだよ。
希島から人が消えてから5年の間、
一度も整備されてなかったはずだ

日良 若葉(ひら わかば)

あっ……!
柵が、壊れてる!?

美崎 耀(みさき あかる)

やっぱりな。
この柵はステンレス製だ

美崎 耀(みさき あかる)

ステンレスは紫外線や塩害で
ボロボロになるって
聞いた事がある。
今となったら、ここには柵なんて
無かったのと同じだ

日良 若葉(ひら わかば)

じゃあ……じゃあ!
先生先生は……!

美崎 耀(みさき あかる)

少なくとも、自殺じゃないな。
事故か、他殺だ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

うん、ずっと聞いてたよ。
その時に限らず、
お兄ちゃんが話してたこと全部

雲母 亜百合(きらら あゆり)

わかちゃんと楽しそうに
話してるお兄ちゃんを黙って
見てるのは辛かったけど……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

でも、そんなの平気。
長い間、ずっとお兄ちゃんに
片想いしてきたんだもん。
たった数日間のことくらい
耐え切れるよ



そう言った時の亜百合の顔といったら、
恋をする純粋な少女そのものだった。

美崎 耀(みさき あかる)

(背筋がゾクゾクとする)

美崎 耀(みさき あかる)

(さっきからコイツは
おかしなことしか言ってないのに、
唇から、髪から、仕草の全部から、
甘い香りがする気がして……)

美崎 耀(みさき あかる)

(──俺、いま何を考えてた!?)

美崎 耀(みさき あかる)

正気に戻れ!!



俺は自分の頬を叩いた。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

……正気?
なんの話?

美崎 耀(みさき あかる)

いや、なんでもねえ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ねえ、それより
別の所に行かない?
他の場所にも行きたいな

美崎 耀(みさき あかる)

なんでその辺を
散歩しなきゃなんねえんだよ。
デートでもあるまいし……



俺がそう言うと、
亜百合は俺の手を強く握った。


雲母 亜百合(きらら あゆり)

デートだよ!

美崎 耀(みさき あかる)

…………ッ!

亜百合に手を引かれて辿り着いたのは、
子供の頃によく通った市民プールだった。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

あーあ!
水着も持ってくれば良かった。
そうしたら泳げたのにね!

美崎 耀(みさき あかる)

馬鹿言うなよ。
こんな汚い水の中で誰が泳ぐか

雲母 亜百合(きらら あゆり)

だったら水を抜いて、
二人で掃除でもする?
それで裸で泳ぐとか……

美崎 耀(みさき あかる)

どこまで本気で言ってんだ?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ふふっ!




亜百合はプールサイドに膝を突き、
水面をながめている。

美崎 耀(みさき あかる)

ところでお前の話だと、
俺を好きだった奴をこの島に
おびき寄せたんだよな?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

そうだよ。
さっきも言ったけど、
お兄ちゃんと私の間にノイズは
要らないから

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴は自分から
来ただけなのに、
なんで殺したんだ?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

先生(さきお)先生は
お兄ちゃんの家族だから、
殺すつもりはなかった

雲母 亜百合(きらら あゆり)

おとなしくしてれば、
生きて島から
帰してあげたのに……

美崎 耀(みさき あかる)

おとなしくしてれば……?
どういうことだ?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

私は先生先生には島に
来て欲しくなかった。
だけどね、先生先生のほうが
私に用があったみたいなの

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴からわざわざお前に
何かを仕掛けたっていうのか?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

そういうこと

雲母 亜百合(きらら あゆり)

わかちゃんから
先生先生が来るって聞いたとき、
すごく焦ったんだよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

でも、先生先生を拒む理由が
思いつかなかった。
だから島に招き入れたけど……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

先生先生は私に言ったの。
『お前にずっと聞きたい
ことがあった』って

雲母 亜百合(きらら あゆり)

だから……。
ここに来て二日目に、
お兄ちゃんがお風呂に入ったとき。
私と先生先生はあの崖へ行った

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ふうー。
いいお湯だったね☆

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

はい……。
お湯加減が
丁度よかったです……

日良 若葉(ひら わかば)

温泉に浸かったのなんて
ひさしぶりかも

美崎 先生(みさき さきお)

おい、亜百合

雲母 亜百合(きらら あゆり)

あれ、まだいたの?
お兄ちゃんたちはもう
お風呂に行っちゃったよ

美崎 先生(みさき さきお)

俺は後で入る。
話があるから来い

雲母 亜百合(きらら あゆり)

話……?

日良 若葉(ひら わかば)

亜百合ちゃん。
あのこと、先生先生に
相談したんだね?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

えっ?
う、うん。
まあね……

日良 若葉(ひら わかば)

先生先生ならきっと
解決してくれるはずだから、
安心して全部話しちゃいなよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

全部………

美崎 先生(みさき さきお)

ふたりでなに
コソコソしてんだ?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

なんでもないよ。
話があるんでしょ?
早く行こう

美崎 先生(みさき さきお)

5年前、みさきはここで死んだ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

そうだね。
……だから?

美崎 先生(みさき さきお)

あの日、みさきは急に
姿を消した。
俺にも行き先を言わずにな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

へえ……

美崎 先生(みさき さきお)

耀と若葉にも聞いてみたが、
誰もどこへ行くかは聞いちゃ
いなかった

美崎 先生(みさき さきお)

みんなに聞いて回ろうかと
思ったとき、みさき以外にも
いない人間がいることに気づいた

美崎 先生(みさき さきお)

亜百合……。
お前だけがな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

何が言いたいの?

美崎 先生(みさき さきお)

結論から言う。
お前がみさきを突き落としたんじゃ
ないかと疑ってんだ

美崎 先生(みさき さきお)

だけどな、俺の中で
その考えが浮かぶたびに
打ち消してきた

美崎 先生(みさき さきお)

あんな小さな子供が
人殺しなんかするわけが無い、
と思ってな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

なるほどね……

美崎 先生(みさき さきお)

亜百合に、あの日どこへ
姿を消したのか聞こう。
何度そう思ったか

美崎 先生(みさき さきお)

その内にお前は
国民的アイドルにまでなって、
話すことが難しくなっちまった

雲母 亜百合(きらら あゆり)

だから、今回のお別れ会は
長年の疑念を晴らすチャンスだと
思った……ってわけ?

美崎 先生(みさき さきお)

まあ、そういうこったな。
お前に本当のことを
聞きたかったんだ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

あのとき私が見当たらなかった
っていうだけで、犯人扱いするの?
それは無理があるんじゃないかな

美崎 先生(みさき さきお)

それだけだと……な。
だがな、ずっと前からみさきは
お前のことを気にかけてたんだよ

美崎 先生(みさき さきお)

『雲母さんはいつも私を避ける。
みんなの前ではあんなにいい顔で
笑うのに、私の前では笑ったことが
ない』ってな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

あの人はお姉さんぶって
しつこくお兄ちゃんにベタベタ
してたんだもん。
そりゃ嫌いにもなるよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

自分は耀くんのこと
な~んでも知ってる~
なんて顔しちゃって、
マウント取ってくるし!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

お兄ちゃんの好意にも
気づいてたくせに
しれーっとしちゃって!
とんだ魔女だったよあの女!!

美崎 先生(みさき さきお)

お前はみさきを
嫌いだったのかもしれねえ。
でもな、みさきはいつもお前を
心配してたんだ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

父親に捨てられた
可哀想な子供だったから?
それこそ余計なお世話!

美崎 先生(みさき さきお)

それもあるけどよ……。
亜百合、お前みんなの前で
心の底から笑ったことあるか?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

……っ!?

美崎 先生(みさき さきお)

情けねえ話だが、そのことに
俺は気づけなかったんだ。
教師失格だな

美崎 先生(みさき さきお)

でも、みさきは気づいたんだ。
『あの子は寂しい子だ』って、
いつも言ってた

美崎 先生(みさき さきお)

耀がお前と仲良くやってる姿を見て
俺とみさきは安心してたんだ

美崎 先生(みさき さきお)

希島が閉鎖されて、みんな
離れ離れになっちまっただろ?
耀の代わりになる人間が、
お前の側に居てくれればいいと
思っていたが……

美崎 先生(みさき さきお)

お前の耀への執着っぷりを見ると
残念ながらそういう奴は
現れなかったみたいだな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

先生先生は私のことを
見てるようでいて、
なんにもわかってないね

雲母 亜百合(きらら あゆり)

どんなに完璧な人が現れたって、
私のお兄ちゃんへの気持ちが
変わることはないよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

お兄ちゃんと一緒に居られるなら
アイドルの地位もいらない……。
私に必要なのはお兄ちゃんだけ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

私にとってお兄ちゃんは、
命より大切な存在なの。
お兄ちゃんのためなら
神様を敵に回したっていい

美崎 先生(みさき さきお)

あ、亜百合……。
お前な……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

なあに?

美崎 先生(みさき さきお)

いくらなんでも
愛が濃厚すぎるだろ。
うちの耀には荷が重いぜ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

先生先生にはわかんないよ。
私の愛の深さなんて

美崎 先生(みさき さきお)

お前のそういう所も、
みさきは心配だったんだよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

さっきから心配、心配って
なんなの!?
あの人が私に何かしてくれた
ことなんてあった!?

美崎 先生(みさき さきお)

心配していたからこそ、
みさきはお前の力になりたいと
言っていた

美崎 先生(みさき さきお)

みさきから差し出された手を
拒み続けたのは、
他の誰でもない……お前だ

美崎 先生(みさき さきお)

みさきが崖から落ちた、
あの日……。
みさきはお前の相談に
乗ろうとしてたんじゃないのか?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

…………

美崎 先生(みさき さきお)

黙ってないで答えろ!
亜百合!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

……ご名答

美崎 先生(みさき さきお)

!!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

さすが先生先生、名推理だね。
私から『今日で島を出るから、
相談に乗って欲しい』と言ったの

雲母 亜百合(きらら あゆり)

相談したことを他の人に
知られたくないから、
こっそり崖に来て欲しいとも
お願いした

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ぜんぶ先生先生の言う通り。
私がみさき先生を
突き落とした犯人だよ

美崎 先生(みさき さきお)

やけに素直に認めるな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

だって証拠の無い話で
私を追い詰めたつもり
らしいから、
お望み通り認めてあげたの

雲母 亜百合(きらら あゆり)

こんな茶番を続けるのは
無駄だからね

美崎 先生(みさき さきお)

無駄じゃないっ……!
無駄じゃないんだ!
亜百合っ!!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

何が無駄じゃないの?
私に復讐でもする気?

美崎 先生(みさき さきお)

違う!

美崎 先生(みさき さきお)

俺はみさきを愛してたからわかる!
みさきがお前にどうして
欲しいかってことが!!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

みさき先生が、私に?

美崎 先生(みさき さきお)

お前は許されないことをした。
でも、悲しいがそれは
もう過ぎたことなんだ

美崎 先生(みさき さきお)

お前に復讐した所で、
みさきが戻って来るわけじゃねえ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

何なの?
私にどうしろって言うの?

美崎 先生(みさき さきお)

罪を認めて、自首しろ。
それがきっと、みさきの望みだ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

望み……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

(崖っぷちに柵が有るけど、
かなりボロボロになってる。
あそこに体重をかけたら、
きっと……)

雲母 亜百合(きらら あゆり)

(でも行動に移すには
周囲の見通しが良すぎる。
暗くなるまで待つか……)

雲母 亜百合(きらら あゆり)

素敵だね、先生先生

美崎 先生(みさき さきお)

あ?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

この世にいない人のことを
今でも想い続けてるんだね。
そういうの憧れるな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

愛を受け止めてくれた人を唐突に
失って、本当に悲しかったよね。
私、本当にひどいことしたよね

美崎 先生(みさき さきお)

亜百合……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

でも、自首するかは
まだ迷ってる。
もう少し考えさせて

美崎 先生(みさき さきお)

ああ、もちろんだ。
焦らなくてもいい

雲母 亜百合(きらら あゆり)

そろそろ戻らないと、
お兄ちゃんたちが
お風呂から上がっちゃうよ。
話の続きは夜にしよ?

美崎 先生(みさき さきお)

わかった。
待ち合わせ場所は……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

この崖がいいな。
みんなにはナイショで
こっそり会いたいの

美崎 先生(みさき さきお)

それならあいつらが
寝静まった頃がいいな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

うん、それがいいね!

佐伯 玲也(さえき れいや)

すう……すう……

ゴロッ

美崎 耀(みさき あかる)

うーん……

美崎 耀(みさき あかる)

……んっ?

美崎 先生(みさき さきお)

…………

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴……?
どっか行くのか?

美崎 先生(みさき さきお)

悪りぃ、起こしちまったか。
ちょっとトイレに行ってくるわ

美崎 耀(みさき あかる)

んー……?
そっか……

美崎 耀(みさき あかる)

ぐう……

美崎 先生(みさき さきお)

(……寝たな)

美崎 先生(みさき さきお)

おーい!
亜百合ぃー!!

美崎 先生(みさき さきお)

(まだ来てねえみたいだな。
一服しながら待つか)



先生先生が背を向けた、その瞬間──。


私は岩陰から飛び出して、
全速力で先生先生の方へ走った。



美崎 先生(みさき さきお)

!?

私はただ一心に、
先生先生を目がけて走った。


例え自分が落ちてしまっても構わない。


その覚悟で、先生先生に体当たりをした。







柵まで破壊する勢いで
全身を預けた私に対して、
先生先生に抗う術は無かった。



美崎 先生(みさき さきお)

……ッッ!!



私の思惑通りに柵は壊れて、
先生先生の身は投げ出された。



落ちる瞬間に身体を半回転させて、
こちらを見た気がする。

美崎 先生(みさき さきお)

耀ううううう!!!








──それが、先生先生の
この世で最期の言葉だった。










みさき先生の時と同じように、
私は確認作業に移る。


崖の縁に手を突き、恐る恐る下を覗き込んだ。


そこには波打つ海が広がり、そして……。




遥か遠くの岩場に、ぐったりと横たわる
先生先生の姿があった。


その姿は小さく、辺りは暗かったけれど、
月明かりに照らされた“それ”は
先生先生に違いはなかった。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

…………



それでも私は、
みさき先生にしたのと同じように
確認作業を進める。


それは一つの儀式のようでもあった。


雲母 亜百合(きらら あゆり)

先生先生ーーっっ!!

大きな声で呼びかけてみるも、
返ってくるのは波の音だけだ。


頭から血を流している先生先生は、
ピクリとも動かない。




その時の私は、高揚感に満ちていた。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

先生先生、最高だよ!
最期に最愛の弟の名を叫んで、
愛する奥さんと
同じ死に方をした……!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

みさき先生、ごめんね。
私……みさき先生のこと
誤解してたみたい

雲母 亜百合(きらら あゆり)

みさき先生は生きてるときも、
死んでからも、
ずっと……ずうーっと!
先生先生だけを愛してたんだね!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

そうでなくちゃ、
先生先生が同じ死に方を
するはずが無いもん!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

みさき先生の愛が、
先生先生を冥府に
呼び寄せたんだよね?
そうだよね?















そうだよね? みさき先生。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

最初の殺人がやっぱり
思い入れが深くてね。
同じ殺し方をもう一度出来て、
私は本望だったよ

美崎 耀(みさき あかる)

!!



俺は考える間もなく、
亜百合の頬を力強く引っ叩いていた。



亜百合の華奢な身体は簡単に横へと吹っ飛び、
コンクリートの地面へと強かに打ち付けられた。



雲母 亜百合(きらら あゆり)

…………


亜百合は地に手を突いたまま、
眼球のみをキョロリと動かして
こちらを見ている。


俺は亜百合の上に馬乗りになり、
襟首を掴み上げた。


美崎 耀(みさき あかる)

ふざけんなクソ野郎が!!
死ね! 死ね!

美崎 耀(みさき あかる)

何が最初の殺人だ!!
何が思い入れが深いだ!!
人を殺した畜生が
口を利くんじゃねええええ!!



怒りに任せて平手打ちを繰り返すと、
亜百合の白い頬が見る間に
朱色へ染まっていく。


亜百合は口の中を切ったのか、
唇の端から鮮やかな色をした血を流した。


それでも俺が叩き続けようとすると、
亜百合がポツリと言った。



雲母 亜百合(きらら あゆり)

お兄ちゃんだって、
人を殺したくせに

美崎 耀(みさき あかる)

!?



俺は亜百合を叩く手を止めた。


美崎 耀(みさき あかる)

俺が……人殺し……?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

そうだよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ちゆちゃんを
殺したでしょ?

廃墟島の6日目 《 中編④ 》

facebook twitter
pagetop