おお 真っ暗だ

たまに目の前に光が明滅して、星みたいだなあなんて思う。でも星じゃないな。カラフルな光。なんだろう?

なにかがはじける音。拍手の音だ。
四方八方から拍手を受ける経験はなかなか無いな。

だんだん大きく、でもぼやけていく音。
何か これからを暗示しているような…… ……

う……ん?

あー もう朝か……

ステージに立つ俺が皆から褒められる夢を見た。悪くない。実現しそうにない非日常感がまさに夢ってカンジだ。

ベッドから降りるとぎしりと音がした。リアルな音。半端に開いたカーテン、中途半端な掃除のあとが見える机……

……まあ、自室を堪能する時間はなさそう。

学ランのボタンをほどほどに留めて、ちょっと気分の良いまま日常に馴染んでいく……。

つもりだった。

学校に行く。
冒険しない、当たり障りのない選択。

通学路の終わり、つまり校門の前。
生徒の談笑だけじゃない、妙なざわつきに気づいた。

先生と生徒がモメているようだった。
あれは……トキコⅢだ。

トキコⅢは芸能人。さらに言えばアイドルだ。
ロボットでもあるらしいがよく知らない。
ロボットなのに学校に通うのか? まぁいいや。

遠目で見ても可愛い。スタイルもいい。しっかり眺めておこう。
……
…………おっと、そろそろ先に進まなきゃ。

……数学の授業はよく出席していると聞きました わざと体育だけ休んでいるんでしょう!

誤解です 先生
プロデューサーおよび担任に相談した通りのスケジュールです

私は生活指導担当だぞ! 私に相談するべきでしょうが!

芸能活動がなんだ!
授業に出て全体のチームワークを高める方がよほど大事でしょう!

怒鳴り声だけでなんとなく事情がわかった。

アイドル活動と学業のバランスがどうこう……部活を特別頑張っている生徒たちとさほど変わらない。珍しくもないだろう。

みんな先生なんて無視して脇を通り抜けていく。
俺もそのうちの一人になれた筈なんだが……

どうしてか? と聞かれればノリだ。
有名人に関われるいいタイミングかもしれない。あるいは、もっと先を期待してみるか。
……なんて適当な思考で二人の間に割って入る。

っはよーございまーす

あ? ああ……おはよう

おや? あなたは同級生の……どうかしましたか?

用事があるので『トキコさん』借りていきますね

……俺についてきて 走って

? はい

ちょっと君たち! 待ちなさ……おい!

走りっぱなしだけど つかれてないか?

問題ありません 私はロボットですから

息切れもせずしっかり話しかけてくる。
なんだか本物のロボットみたい。なんつって。

まわりの生徒たちをよけながら階段を昇り続けているわけだから 当然こう尋ねられる。

疑問……こんなに階段を昇ってどちらに向かうんですか?

決めてねえや

用事があったのでは?

ねーよそんなもん

……おっ いいね 屋上が見えてきた

駆け上がる勢いのまま屋上の扉の取っ手をつかむ。思いっきり引かないと重くて開かない筈だから……

しかし 屋上は最近封鎖されたとのデータがあります……

えっ!?

開くかと思った扉がしっかり固定されてガチャン! と大きな音をあげる。

俺はつんのめって後ろから来るトキコⅢに思い切りぶつかってしまう。

やべえ! 落ち……!

う……ん?

起きたか! 良かった……
このままライブ中止かと思ったぞ

あ? どこだここ? あんただれ?

えっ
どうしたんだ? トキコⅢ

トキコⅢ? 何言ってんだ
俺は……!?

待て。
確かに違和感がある。俺の喉から出ているはずの声が、俺のものじゃない。

自分の姿を見下ろす。
まぁまぁ露出度の高い恰好と華奢なのに出るとこ出ている身体。全然知らない。やわらけー……って

んなバカなことがあってたまるか!?

おわーっ!?

どうしたいきなり!? キャラ変は事務所の偉い人に相談してから……

ちげーよ! 信じらんねーけど 俺とトキコⅢが……

入れ替わっています

俺だーっ!?

なにーっ!?

~つづく~

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