元気な子供の声がワイワイと響いている、晴れた日のテーマパーク。レストランのテーブルで向かい合う僕達は、深刻な顔を浮かべていた。
「もう、これでお終いにしよう」
僕は向かいに座る里子(さとこ)に封筒を渡した。中には一万円札が十枚。十万円が入っている。
「太一(たいち)。お終いって、どういうこと?」
里子は怪訝な顔を浮かべたけれど。僕はキレぎみに答えた。
「別れようって言ってるんだ」
これはもう、キレぎみどころかキレても良いところなのだけれど……僕は兎に角、自分の感情を抑えていた。
すると、彼女はまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、途端に慌て始めた。
「どうしてよ? だって、もう田舎のおばあちゃんを結婚式に招待したし、会社も寿退社したし……」
「だから。本当にもう、お金がないんだ」
これももう、何回も言っていることなんだけど……僕はその言葉を噛み殺した。
僕は元カノの静香(しずか)と別れて傷心の時に、里子と出会った。そして程なくして告白されて、半ばヤケぎみに付き合い始めた。
そこまではまだ良かったのだけれど……こいつのお金のかかること、かかること。
まずデート費用は全額、こちら持ち。そして、事あるごとに高額なものを買わされる。
付き合いから一ヶ月の記念日ということで三十万円の指輪。クリスマスには十万円の財布、そしてこの間、彼女の誕生日には十五万円の腕時計を買わされた。まぁ、これは僕が断れない性格なのが悪いのだけど……。
さらには僕がそういう性格なのを良いことに……かどうかは分からないのだけれど、勝手に結婚式場を予約されてその予約金を払わされた。
そして今日。会社を寿退社したために彼女の携帯代やら美容代やらの支払いができない、とのことで、十万円払えとのメールがきたのだ。