20●●年某日。その日彼女・スカイは念願のアーティストのライブに来ていた。
 そのアーティストは彼女の住む場所とは遠い出身のアーティスト。スカイの県に来るなんて8年ぶりの話だった。
 喜び勇んで参加したスカイは会場でアーティストの曲が流れた時点で既に号泣。ライブ中も感激で号泣しながら泣き疲れて終了を迎えた。
 ぼんやりする視界と頭。その中で目に入ってきたのは……

スカイ

……クレジットカード? 
え、このアーティストのクレジットカードが存在するの!?

 幼い頃よりクレジットカードはお金を使い過ぎるから危ないと教えられてきたスカイだったが社会人としてクレジットカードを持つのはステータスという気もしている。そこに好きなアーティストの物があると知ったら……考える事は一つだった。

スカイ

このカード契約しよう!

 久々にアーティストと出会えたライブの高揚感しか無い今、自制する気持ちなんてどこかに行ってしまっていた。
 更にスマホ一台で契約が出来てしまうという事実。スカイはもう止まらなかった。

スカイ

へぇカード作るのに上限とか定額制とかあるのか。特にこの“リボ払い”にするとどんだけ使っても月々5千円? しかもリボ払いにしておけば年会費も掛からない……これはお得

 カードの設定を選ぶ中でスカイの目に留まったのはそう、リボ払いだった。
 この時スカイはリボ払いにすると月々定額払えば使えるのだと大きな勘違いをしてしまったのだ。

 定額? そんな筈は無い。
 カードはそのまま借金にもなる。その事実にスカイは気付かないまま……その日のうちにカード審査に必要な情報を入力し、送信したのだ。

 スカイは本当の意味でカードの危険性を理解していなかったのだ。

 カード審査はすぐに通ったが、最初の頃はカード決済は滅多に利用していなかった。
 カード払いに潜む危険性……その正体を正しく理解出来ていなかったスカイだが危ないという事だけは思っており、クレジットカード決済以外が出来る場面では使わなかった。
 しかし長くカードを持つにつれ、危険という認識が薄れてしまったのだろう。ある時何の前振りも無く思ってしまった。

スカイ

ネットショッピング全部クレジット決済にしたら楽だよなぁ

 これこそが落とし穴だったのだ。しかしスカイはまだ気付かない。
 思ったままクレジット決済のヘビー利用者になってしまったのだった。
 そうしてクレジット決済を使い続けたスカイ。その末路は……。

スカイ

あ、この商品今すぐに手は出せないけど……分割払いにしたら数か月で払い切れるよね? 月で割ったら大した額じゃないもんね

 そう、リボ払いだけでは飽き足らず、分割払いにもついに手を出してしまうのだった。

スカイ

やった、あの商品届いた!

 そのネットショッピングサイトは商品が届いてから支払いが始まる。
 しかしリボ払いで定額だから月々5千円程度だとスカイはまだ勘違いをしていた。
 今度妹がカードを持つらしい。それを聞いた時

スカイ

リボ払いにすると月々定額でお得だよ!

 そんなように教えた。

 それから1月1月と時間が過ぎていった。そんな時……

スカイ

あれ、何で?

 スカイはクレジットカードの明細を見ながら戸惑った。
 おかしい。月々5千円だった筈なのに8千、9千、1万と……どんどん金額が上がっていくのだ。

 そんな時ツイッターを見たスカイはとある漫画を見つける。
 それは……

スカイ

リボ払いにして失敗した漫画? え、どういう事!?

 スカイは驚きながら必死で漫画を追った。それで衝撃の事実を知る事になる。

スカイ

リボ払いは月々定額と言いながら手数料を取る事で収入にするカード会社のやり方? 返済期間が長い程手数料は上がっていく……そんな……!

 もう一度スカイはクレジットカードの明細書を見た。
 そして『リボ手数料』という項目が月々上がっていっているという事実を知った。

 理解した瞬間スカイは秒速で定額リボ制度を解約し、妹に言った言葉を撤回した。

 その後スカイは月々上がるリボ手数料に悩まされる日々を送る。
 リボ払いの制度を解約しても今まで使った分は無くならない。当然だ。

 今まで出来ていた貯金が瞬く間に出来なくなった。
 お金が心配で精神を病んだ。うつ病が悪化して仕事もままならなくなってきていた。

 そんなある日再び事件が起こる。
 その日スカイは年金を払わないといけないと父から言われ、役場に手続きをしに行く事になる。
 しかしリボ手数料に悩まされているスカイに貯金は出来ていない。年金が払えなかった。
 そして貯金が出来ていないという事実がついに家族に明るみになる。

 緊急家族会議が開かれた。
 当然貯金出来ていない理由を訊かれる。

スカイ

……クレジットカードの支払いが高くて。今は解除したけど定額リボ制度を使っていて……

 力ない答えを返す。

 怒る両親、呆れる声……そんな中静かに聞いていた祖父が言った。

祖父

リボ払いはかなりの手数料を取られる。調べてみたら14パーセント取られているよ、今

スカイ

…………!

 言葉が出なかった。感情も消え失せているような気持ちだった。
 祖父が続けた。

祖父

でも今はもう解除したんだよね。
失敗は誰にでもある。年金や諸々のお金についてはこれからおじいちゃんが管理する。一先ず年金はお父さんに払って貰って今後返済するようにしよう。リボ払いの分はおじいちゃんが肩代わりするから今後毎月返してくれれば良いよ。それから来年の年金は自分で払えるように貯めていくようにしよう。
その代わりこれ以上クレジットカードの借金は増やさないように約束して

 失った物は大きかったが、幸いスカイの家族は面倒を見てくれると言ってくれた。
 お金の心配から悪化していたうつ病が多少落ち着いた。

 現在――
 スカイは毎月祖父と相談しながらお金の管理をしている。少しずつ父や祖父に借りた分も返している。

今クレジットカードの明細にリボ手数料は無い。リボ払いに振り回されたスカイの面倒を見る事を決めてくれた祖父がその月のうちに一括でリボ払い分を肩代わりして払ってくれたお陰だ。
 それからはクレジットカード払いは滅多に利用しなくなった。利用する時も一括払い以外は利用しない事に決めている。しかし未だにクレジットカードの代金は月々掛かっている。
 残っていたのは分割払いにした分だった。

祖父

分割払いでも8パーセント手数料が取られている

 つい先日祖父からそう聞いた。
 スカイが再びうつ病で働けなくなった頃だった。

祖父

スカイちゃんがお金の心配で精神を病んだりしないようにこの分もおじいちゃんが一度肩代わりして、カード会社に払うんじゃなくておじいちゃんに返すようにしようか

 お金の心配でスカイは病む。その事実を知った祖父からの提案だった。
 それだけではない。休職して無収入になった時、払えなくなると判断したからだ。
 スカイは再びお願いする事を決めた。

 提案のタイミングで祖父は分割払いの方も手続きを済ませたのだという。クレジットカードの明細書に反映されるのはこれかららしい。
 祖父の機転によりスカイのクレジットカードへの借金は一先ず無くなる筈だ。翌月になったら恐らくカード会社に支払うのは年会費だけになるだろう。

 クレジットカード……それは大人の象徴のような憧れ。
 しかし実際は落とし穴が多いと今回の件でスカイはかなり遅れて理解する事となった。

 もしリボ払いの危険性を教える漫画に出会わなかったら?
 クレジットカードについて正しい知識を持ち理解がある祖父が居なかったら?
 クレジットカードの誤った使用法によって貯金が出来なくなっている事実が明るみにならなければ?

……今でもスカイはリボ払いの正体に気付かずカードの危険性に対する本当の知識も知らぬまま……数10年後に路頭に迷ったかも知れない……。
 その事実を思うとこの体験は恐怖体験でしかない。

 今クレジットカードを持っているあなた。あなたは正しくクレジットカードを使えていますか?
 クレジットカード制度に潜んでいる危険をご存じですか?

 もし正しく使えていなければ……
 あなたの明日は……来ないかも知れません

見えないお金“クレジットカード”の恐怖

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