ルルー

グレータ?大丈夫?

 閉じこもってしまったグレータを心配しながら、ルルーはドアをノックする。

 しかし、部屋からは何の返事もない。

ルルー

……まあ、色々ショックだっただろうし、もう少しそっとしておこうか……

 一度にあんなに沢山の事実を聞かされたのだ、パニックになっても仕方がない。

もしルルーが同じ立場でも、同じことになっていただろう。

 一方、グレータはベッドの中でシーツにくるまり、亀のように丸まり固まっていた。

グレータ

うう……

 朝、目が覚めてから知らされた事実はそう簡単に飲み込めるものじゃなかった。

 自分が実は魔女だったというだけでも驚きなのに。レオがイケメンで人間で魔法使いとか……

 正直、レオが手を握って色々言っていた意味もわからなかった。

グレータ

う……うう……せめてもうちょっと小出しにしてくれれば………

グレータ

……いきなり魔女とか言われてもな……

 今までそんなこととは無縁の生活をしてきたのだ、むしろルルーに会うまで本当に魔女がいることさえ知らなかった。

グレータ

魔法の仕組みもよく知らないのに、どうしたら……

グレータ

それに、レオのこと……
頭のいい猫だし普通の猫とは違うとは思ってたけど……

グレータ

でも、魔女が飼ってる猫だしそんなものなのかと……

グレータ

それが実は人間で、あんな綺麗な顔をした男の子だったなんて

グレータ

あれは、無理だよ……

 グレータは特に人見知りなわけではないが、一応女の子だ。
 この家に来てから自分が喋った事をあんなイケメンに聞かれていたと思うと、全身がみるみる真っ赤になる。

ルルーは年上で、ヘルフリートは兄妹だ。
 グレータはその関係に甘えて、暴言を吐いていたところがあった。

 女心は複雑なもので、同年代のしかも男の子にはそういう姿はあまり見られたくないものだ。

グレータ

そういえば昨日、どや顔で男女関係の事をレオに話してた…………

グレータ

うわ〜〜〜〜バカバカ!〜〜〜〜私のバカーーーー!!!

 グレータはシーツにくるまったままベッドの上を転げ回る。

その他にも、きっとわからないだろうと思っていた数々の独り言を思い出してプルプルと震える。

 穴があったら入りたい、いやむしろできることなら今すぐにでも家出したいとグレータは思った。

 もちろん1人で。

グレータ

うう……だめだ、落ち着いて。頭を整理しよう……

グレータ

……

グレータ

っ……だめだ!どうしてもレオの顔を思い出して落ち着けない!

 そうして無駄に時間が経っていく。

 そうすると今度はお腹もすいてきてグレータはだんだん腹が立ってきた。

グレータ

よく考えたらルルーもレオも酷いよ。ずっと人間だって黙ってるなんて。
話してくれても怒ったりしないのに……

グレータ

それとも猫だと思って話しかけてた私を陰で笑っていたの……?

グレータ

知ってたら、あんな変な独り言とか変な鼻歌を言ったりしなかった!

グレータ

私、一人でバカみたい……

グレータ

そもそもレオの顔が綺麗すぎるのよ!綺麗すぎて直視できなかったもん!
肌は陶器みたいにすべすべだし、髪の毛は光っているのかと思うぐらいキラキラだったし、あんな綺麗な白銀見たことない!
まつ毛も長くて目も大きくて、女の私よりよっぽど綺麗ってどういうこと!

グレータ

あんなにかっこよくなかったらここまで恥ずかしくなかったのに!

 グレータがそんな理不尽な考えに至っていた時、部屋のドアがまたノックされた。

ルルー

グレータ?お腹すかない?何か食べた方がいいわよ?

 ルルーのその言葉にグレータのお腹がグーっと鳴った。
 時間はもうすぐお昼になろうとしていた。

 街で暮らしていた時は貧乏で、1日一食しか食べれないこともあった、だから一食くらい抜いても大丈夫だったのに、ここで生活し始めてからはあっと言う間にお腹がすくようになった。

グレータ

……もう!こんな時なのにお腹は空くなんて!

グレータ

気まずいけど……出るか……

 我慢しきれなくてレータは渋々、ベッドから出た。

 ドアを開ける。

ルルー

良かった、お昼はグレータの好きなシチューだよ。みんなで食べよう

グレータ

う……うん…………

 時間を置いたお陰か、朝よりは気持ちは落ち着いてきていた。
 それでも、すこし気まずい気持ちをかかえながら、グレータはテーブルについた。

ヘルフリート

グレータ、大丈夫か?

グレータ

う、うん

 その時、向かいにいたレオと目が合う。

レオは当然のように人間の姿で、何年もそこにいましたとでも言うように座っていた。

しかし、よく考えたらグレータたちが来るまで、ずっとそうやって座っていたのだから、当たり前だ。

レオ

……

グレータ

……!!

 じっと見つめられて、グレータは慌てて目を逸らした。

 やっぱりまだ気恥ずかしい。

ルルー

はい、グレータ。シチューよ

グレータ

い、いただきます……

 ルルーが作る食事は相変わらず美味しかった、ルルーが言った通り大好物のシチューは具もたくさんであっという間にお腹がいっぱいになる。

グレータ

美味しかった……
気持ちも少し落ち着いてきたかも……

グレータ

もう終わった事を考えてもしかたない……
そうだ私が魔女だってことをもっと考えないと……

ルルー

そういえばグレータ、足をくじいたの腫れてない?なんだかうやむやになって、ちゃんと確認してなかったわ

グレータ

あ、そういえばそうだった……忘れてた

ルルー

まあ、歩いたり走ったりしてたし大丈夫だと思うけど、一応みてみるね

 グレータも自分で動かしたり歩いてみた。

 一晩寝たのも良かったのか少し痛みはあるが歩くのに支障はなかった。

グレータ

ちょっと痛いけど、それくらいだよ

ルルー

じゃあ、念のために冷やすために湿布をしておきましょう

 ルルーはそう言って、薬草を擦って作ったものを、くじいたところに貼り付けて包帯を巻いてくれた。

グレータ

ちょっと、大げさじゃないかな……

 さっきから手取り足取り世話されて、なんだか幼い子供に戻ったみたいでグレータは照れる。

そう思うとなんだかさっき子供みたいに叫んでしまったことが、逆に恥ずかしくなってきた。

ルルー

やっと落ち着いてきたみたいね。良かった……

ヘルフリート

まあ、なんにせよグレータが無事で良かったよ

ヘルフリート

昨日グレータが帰って来た時は驚いたよ。気を失ってるしなにがあったのかわからないし……

ヘルフリート

妹が魔女だなんてきいて、まだちょっと複雑だけど……

ヘルフリート

それより問題はグレータとレオの関係だ!

ヘルフリート

恋人なのか?いつの間にそんな関係になったんだ、俺はまだ認めんぞ

グレータ

だ、だから違うって!レオとは別にそんな関係じゃないし。あれはな、なんていうか言葉のあやっていうか、そもそもそういう意味じゃないし

グレータ

わ、私は猫のレオに言っただけで……そ、その、か、駆け落ちとか全然そんなつもり……

レオ

え?駆け落ちしないの?

グレータ

あ、当たり前でしょ!こ、この状況で駆け落ちなんてできるわけない……っていうか私は猫だと思ってたから言ったのであって、人間のレオに言ったんじゃないの!

レオ

どっちも僕なのに

グレータ

で、でも私はし、知らなかったし……

ヘルフリート

まあ、レオはかなりのイケメンだから気持ちはわかるが、顔だけで選ぶとろくなことがないぞ。お兄ちゃんくらい中身も外見もいいならいいが。男は慎重にえらべよ

グレータ

だ、だから。ち、違うって!

グレータ

レ、レオもちゃんと否定してよ。それに顔だけとか言われてるんだから、言い返しておかなきゃダメでしょ

レオ

僕はグレータの顔好きだよ

グレータ

そ!そう言うことは言ってないでしょ!!!……そ、それにす、好きとか……

レオ

じゃあ、グレータはどんな人がタイプなの?

グレータ

……う

 真面目な顔で聞くレオにグレータは言葉を詰まらせる。

ルルー

そういえばグレータのそう言う話は聞いたことないわね、私も気になるわ

グレータ

そ、それは……ええっと……

 全員に注目されてグレータは焦る、今までそんなこと考えたことがなかったのだ。

グレータ

!………わ、私は。そのもっと強そうで、私の言うこと何でも聞いてくれて……えっと……あと……なんていうかお金も地位も権力もあって。……それでもって……えっと……

グレータ

白馬の王子様みたいな感じの人がいいの!

 グレータはとりあえず、この場をやり過ごすために適当な男性像を口にする。

 なんだかゲスい我儘女みたいな感じになったが、グレータは必死だった。流石にここまで言ったらレオも流石に引くだろう。

レオ

あ、そうなんだ。じゃあこれでどう?

グレータ

え?……うわーー!

レオ

これでどうかな?王子様ではないけど、実はこれでも昔は貴族だったんだよ

レオ

グレータ好きだよ。僕の恋人になってください

グレータ

っ……っっっ!!!

ルルー

きゃー、こらレオ!こんなところで、馬に変身するのはやめなさい!

ヘルフリート

ギャー!

 馬は結構大きい、テーブルはひっくり返って周りにいた人間は、パニックにおちいる。

グレータ

わ、私が言ったのは白馬に乗った王子様であって、白馬そのものじゃない!

グレータ

もう知らない!!!

 そしてまたもやいっぱいいっぱいになったグレータは、叫びながらもう一度部屋に駆け込んで、閉じこもってしまった。

ガラスの靴をはいた猫 1

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