京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩!

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ! 秋生くん。
そんなに慌ててどうしたの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

最近、空き教室に来なく
なりましたよね。
今度王子先輩を見つけたら、
捕まえなきゃと思って

美家 王子(びいえ おうじ)

連絡もしないでゴメン。
俺、新しくバイト始めたんだ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

本屋のバイトの他に?

美家 王子(びいえ おうじ)

うん。
小説家のアシスタントを
やってるんだ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

小説家……

美家 王子(びいえ おうじ)

大好きなラノベの原作者なんだ。
まだ一回しか行ってないんだけど、
採用されたことが未だに
信じられないよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩は、
作家になりたいんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

ちっ、違うよ!
俺が小説を書くのなんて無理無理!

美家 王子(びいえ おうじ)

ほら、アシスタントって言っても
弟子とかじゃなくて、
家政夫みたいなもんだからっ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

家政夫って、掃除や洗濯をしたり、
料理を作ったり……?

美家 王子(びいえ おうじ)

そうだよ。
料理はまだやってないけど

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ふうん……

美家 王子(びいえ おうじ)

なんでそんなに暗い顔してるの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

暗い顔なのは元々です

美家 王子(びいえ おうじ)

いや、秋生くんは暗くないよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

わかりますよ、
秋生くんの気持ち……

美家 王子(びいえ おうじ)

藤吉さんが出てくると
ややこしくなる予感

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

では、私は下がった方が
いい予感?

美家 王子(びいえ おうじ)

いや、藤吉さんに
秋生くんの心境を解説して欲しい
気持ちもある予感

京漆 秋生(きょうしつ あき)

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生くんなんか喋ってよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

二人が楽しそうに話しているので、
黙っていた方がいい予感

美家 王子(びいえ おうじ)

俺と藤吉さんは、
キミの話をしてるんだよ?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

新たな男性が現れたせいで、
BL王子の気持ちが
揺り動かされないか
心配なんですよね?

そういうんじゃないでしょ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

いえ、それで大体合ってます

美家 王子(びいえ おうじ)

合ってるの!?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩が憧れている作家なんて、
俺に勝ち目が無いな……と思って

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

しかも身の回りの
お世話をしているなんて、
まるで奥さんみたいですよね

奥さんじゃないから。
ハウスキーパーって言葉、
藤吉さんは知ってる?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

じゃあ逆に聞きますけど、
通い妻という言葉を
知っていますか!?

美家 王子(びいえ おうじ)

何の意味を持つ質問なのそれは

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

秋生くんは、BL王子が
ベル先生の通い妻のようだと
言っているわけです

美家 王子(びいえ おうじ)

確実に言ってないよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

この際だから秋生くんも、
Uber Eatsとしてベル先生の
お宅へ行ってはいかがでしょうか?

美家 王子(びいえ おうじ)

Uber Eatsの配達員は
そういう目的で登録するものじゃ
ないからね?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

俺に構ってくれないのは
少し寂しいですけど、
王子先輩のお仕事を
邪魔するつもりはありません

京漆 秋生(きょうしつ あき)

でも、たまには空き教室にも
顔を出してくださいね

美家 王子(びいえ おうじ)

うん……。
最近行ってなくて、ごめんね。
今度の休みに遊びに行こうか?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

嬉しいなあ。
それってデートですよね?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、いやっ。
そういうんじゃなくて、
普通に遊びにっっ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、わかってますよ。
ちょっと冗談を言っただけなのに、
可愛い反応してくれますね

美家 王子(びいえ おうじ)

か、可愛いって!
秋生くん、あのねえ!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

そろそろ昼休み
終わっちゃいますね。
それじゃあ王子先輩、また

美家 王子(びいえ おうじ)

ま、またね

京漆 秋生(きょうしつ あき)

連絡待ってますね!

美家 王子(びいえ おうじ)

(風のように去って行った……。
あんなに爽やかなら、
そりゃあ女の子にモテるはずだよ)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

秋生くんってば、
なんて聖人君子なのでしょう

美家 王子(びいえ おうじ)

いきなり何?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

海岸沿いで抱き合って
愛を伝え合った仲だというのに、
未だに煮え切らないBL王子に
ここまで我慢してるんですよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

ふ、藤吉さん……。
恥ずかしいこと思い出させるの、
やめてよ……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

恥ずかしくなんて
ないです!(私は)
いい加減、秋生くんの気持ちを
受け入れてください!
それからベル先生とも
付き合ってください!

美家 王子(びいえ おうじ)

藤吉さんは、支離滅裂という言葉が
服を着て歩いているようだね

御曹 司(みぞう つかさ)

一方その頃、
雷殿鐘(らいとの べる)は
俺に悩みを相談していた

雷殿 鐘(らいとの べる)

うむ。何に対する一方なのかは
わかりかねるが、漫画によくある
読者に話しかけるパターンだな

御曹 司(みぞう つかさ)

……で、悩みとはなんだ?

雷殿 鐘(らいとの べる)

美家くんを好きになって
しまったかもしれない

御曹 司(みぞう つかさ)

そうなのか……。
だが、そんなつもりで彼を
お前の所に行かせたつもりは無いぞ

雷殿 鐘(らいとの べる)

わかってる。
だからお前に相談しているんだ。
もう美家くんを雇わないほうが
いいのかもしれないな……

御曹 司(みぞう つかさ)

美家をクビにするというのか?
あいつはお前の所へ通うのを
あんなに楽しみにしてるんだぞ

御曹 司(みぞう つかさ)

あいつがお前のファンという
気持ちも汲んでやってくれ

雷殿 鐘(らいとの べる)

まさかお前も
美家くんが好きなのか?

御曹 司(みぞう つかさ)

何を馬鹿なことを!
そんなわけあるか!

雷殿 鐘(らいとの べる)

それもそうか。
大切な従業員に手を出したら、
お前が親父に何を言われるか
わからないよな

御曹 司(みぞう つかさ)

えっ。
美家に手を出したら、
親父に怒られると思うか?

雷殿 鐘(らいとの べる)

あ、うん。
たぶん

御曹 司(みぞう つかさ)

そうか……。
それは困ったな

雷殿 鐘(らいとの べる)

やはり好きなんじゃないか

雷殿 鐘(らいとの べる)

(結局、司に相談しても
何の結論も見出せなかった
わけだが)

雷殿 鐘(らいとの べる)

(しかし、司も美家くんを
好きだったとはな)

雷殿 鐘(らいとの べる)

(美家くんは誰からも
好かれそうだとは思っていたが、
まさか司がライバルに
なってしまうとは……)

雷殿 鐘(らいとの べる)

(ハッ!
司に相談することによって、
悩みが増えているじゃないか!)

雷殿 鐘(らいとの べる)

……はい

こんにちは、美家です

雷殿 鐘(らいとの べる)

ああ、悩みが解決しないままに
美家くんが来てしまった

な、悩み?

雷殿 鐘(らいとの べる)

なんでもない。
今開けるから入ってくれ

美家 王子(びいえ おうじ)

こんにちは。
お仕事は進んでますか?

雷殿 鐘(らいとの べる)

それが困ったことに、
あまり進んでいないんだ

美家 王子(びいえ おうじ)

そうですか……。
さっき悩みと言ってましたけど、
もし俺で役に立てることがあれば
何でも言ってください

雷殿 鐘(らいとの べる)

何でも?

美家 王子(びいえ おうじ)

はい!
ベル先生の作品作りに
協力させて欲しいんです!

雷殿 鐘(らいとの べる)

キミは本当に俺の作品を
好きでいてくれるんだな。
それだけで勇気づけられるよ

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、いや、
俺なんかまだまだですよ。
俺より熱狂的なファンが
沢山いるじゃないですか

雷殿 鐘(らいとの べる)

ファンがいるのは嬉しい。
だが、美家くん。
キミが俺の作る物を好きだと
言ってくれることが、
何より嬉しいんだ

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、そうですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

(まだ出会ってから
一ヶ月くらいしか経ってないのに、
なぜこんなにも
俺に感情移入をしてるんだ?)

美家 王子(びいえ おうじ)

(これが他の人なら、
またいつものパターンで俺を
好きになったんじゃないかと
疑う所だけど……)

美家 王子(びいえ おうじ)

(ベル先生に限って、
俺に恋することなんて
有り得ない!)

美家 王子(びいえ おうじ)

(きっと俺に
気を遣ってるんだろうな。
やっぱりベル先生は、
神様みたいな人だ)

雷殿 鐘(らいとの べる)

話を戻すが、
さっき何でもしてくれると
言ったよな?

美家 王子(びいえ おうじ)

もちろん!
俺に出来ることであれば、
何でもします!

雷殿 鐘(らいとの べる)

では、俺と付き合ってくれ

美家 王子(びいえ おうじ)

わかりました!

雷殿 鐘(らいとの べる)

驚いた。
意外にすんなりと
承諾してくれるんだな

美家 王子(びいえ おうじ)

そりゃあベル先生の頼みですから。
断るわけないですよ

雷殿 鐘(らいとの べる)

ありがとう。
これで俺も精力的に
仕事へ取り組むことができる。
美家くんも、いつも通りに
作業を始めてくれ

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、はい!
力になれて良かったです!

美家 王子(びいえ おうじ)

では、掃除や洗濯が
一通り終わったので、
失礼しますね

雷殿 鐘(らいとの べる)

ああ。駅まで見送ろう

美家 王子(びいえ おうじ)

いえ、いいですよ。
筆が進んできたでしょうから、
そのまま続けてください

雷殿 鐘(らいとの べる)

そうか。
気を遣わせてすまないな。
気をつけて帰ってくれ

美家 王子(びいえ おうじ)

はい!
失礼します!

美家 王子(びいえ おうじ)

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

(そう言えばベル先生は、
俺にどこへ付き合って
欲しかったんだろう?)

美家 王子(びいえ おうじ)

(何か会話が噛み合って
いなかったような、
この得体の知れない
違和感は一体……?)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

BL王子!
かつてない大進歩ですね!

美家 王子(びいえ おうじ)

藤吉さんは、
ずっと近くに居たの?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

はい、もちろん。
そろそろ慣れてください

美家 王子(びいえ おうじ)

いや藤吉さんが唐突に
現れることには
もう慣れてるんだけど、
聞きたいことがあって

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

なんでしょう?

美家 王子(びいえ おうじ)

今日の俺とベル先生の会話で、
何か変わったことが無かった?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

ありませんでしたよ。
BL王子とベル先生が
付き合うことになったという以外は

美家 王子(びいえ おうじ)

それなんだよね。
その後どこへ行くわけでもないし、
一体どこに付き合って
欲しかったんだろう?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

それ、本気で言ってるんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

本気も何も、
あれは何だったのかなって。
ベル先生は何かの
冗談で言ったのかな?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

どう見ても本気でしたよ。
だって眼差しが真剣でしたもの

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

まあ、ムードも作らず告白なんて
ちょっと軽いかな~
とは思いましたけど、
それもイマドキって感じですよね

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、近くにイオンモールが
出来たって話してたな。
きっとそこに付き合って欲しいんだ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

それにBL王子の気持ちが
盛り上がるまで待ってたら、
いつまでたっても
恋人になんてなれませんから

美家 王子(びいえ おうじ)

ベル先生はラノベ界の神だから、
どんな物を買うのか
見当もつかないよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

とにかくカップリングが
成立して、
本当に良かったです!

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

お、お前ら……。
さっきから聞いてたら、
会話が噛み合ってなくて
すげー怖いんだけど

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、暮男。
こんな所でどうしたんだ?

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

こんな所も何も、
ここは俺んちの前だからな。
お前こそ、こんな遅くまで
何やってたんだ?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

BL王子は、
アルバイトの帰りなんですよ

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

バイト!?
聞いてないぞ!

美家 王子(びいえ おうじ)

言ってないからね

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

いつから始めたんだよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

えーと、
本屋のバイトはかなり前からで、
ベル先生の所は一ヶ月前かな

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

どこの本屋だよ?
しかもベル先生ってなんだ???
また新しい男の影か!!

美家 王子(びいえ おうじ)

しまった。
暮男に話したら面倒くさいことに
なるんだった

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

おい、テメエ……。
藤吉には話して、俺には
話さないなんてどういう了見だ

美家 王子(びいえ おうじ)

藤吉さんは
俺が話したわけじゃないよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

はい。待っているだけでは、
誰も教えてはくれません。
私は自ら情報を収集しました

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

そうか……。
俺も少しは藤吉を見習わなきゃな

美家 王子(びいえ おうじ)

いや、見習う必要ないでしょ

雷殿 鐘(らいとの べる)

そういうわけで、
美家くんと付き合うことになった

御曹 司(みぞう つかさ)

……は? コ○スぞ

雷殿 鐘(らいとの べる)

ココス?

御曹 司(みぞう つかさ)

おいしくたのしいレストランの
話は、今していない!
コロ○と言ったんだ!!

雷殿 鐘(らいとの べる)

コロ助……!?
キテレツ斎様の元へ
帰ったんじゃなかったのか!

御曹 司(みぞう つかさ)

仮に俺がコロ助と
言ったとして、
そこそんなに盛り上がる所か?

雷殿 鐘(らいとの べる)

すまない。
友人からのダイレクトな
殺害予告を受け止めきれずに、
つい現実逃避をしてしまった

御曹 司(みぞう つかさ)

そうか。
ちゃんと伝わってたんだな

御曹 司(みぞう つかさ)

それにしても、美家から見て
ポッと出のお前に
かっさらわれてしまうとはな……。
どうやって美家をものにしたんだ?

雷殿 鐘(らいとの べる)

付き合ってくれと言ったら、
アッサリ承諾してくれた

御曹 司(みぞう つかさ)

そんなシンプルなことで!?

雷殿 鐘(らいとの べる)

ああ、すごくシンプルだった

御曹 司(みぞう つかさ)

そんなことは有り得ない!
美家は俺を好きなはずだ!

雷殿 鐘(らいとの べる)

まさか……
司とも付き合っているのか?

御曹 司(みぞう つかさ)

そうだ、付き合っている。
美家から申し込んできたんだ

雷殿 鐘(らいとの べる)

そ、そうだったのか。
じゃあ俺はもしかして、
からかわれているのか?

雷殿 鐘(らいとの べる)

いやしかし、美家くんが人を
からかうような子には思えない。
かといって二股をかけるような
子にも思えないし

御曹 司(みぞう つかさ)

はっきり言おう。
美家がお前の告白をOKしたと
思ったのは、お前の勘違いだ

雷殿 鐘(らいとの べる)

なにぃ……!?

御曹 司(みぞう つかさ)

ご愁傷様です

雷殿 鐘(らいとの べる)

そんな馬鹿な……。
今日は美家くんが来る日だから、
二人でイオンモールへ行って
初デートをしようと思っていたのに

御曹 司(みぞう つかさ)

イオンモールで初デートって、
中学生のような初々しさだな

雷殿 鐘(らいとの べる)

どうやら美家くんが
来たようだ。
電話を切るぞ

御曹 司(みぞう つかさ)

お前……。
美家と遊んでないで、
ちゃんと原稿を仕上げろよ……

雷殿 鐘(らいとの べる)

わかっている。
締め切りまでの
タイムリミットも近いしな

美家 王子(びいえ おうじ)

ベル先生、
今日はキッチンを借りても
良いでしょうか?

雷殿 鐘(らいとの べる)

どうしてだ?
夕食ならUber Eatsを
頼めばいいだろう

美家 王子(びいえ おうじ)

いえ毎回デリバリーっていうのも
身体に悪いと思って。
今日は何か作りますよ

雷殿 鐘(らいとの べる)

美家くんが、手料理を?

美家 王子(びいえ おうじ)

はは。
手料理って言うほど
大したもんじゃありませんけどね

雷殿 鐘(らいとの べる)

何を作ってくれるか楽しみだな。
期待してるよ

美家 王子(びいえ おうじ)

本当に期待するような
物じゃないですって!
ただのピーマンの肉詰めですから!

雷殿 鐘(らいとの べる)

俺の大好物だ。
しかも美家くんのエプロン姿が
見れるなんて、嬉しいよ

美家 王子(びいえ おうじ)

ベ、ベル先生……!
からかってるんですか?

雷殿 鐘(らいとの べる)

俺が美家くんをからかう?
なぜ?

美家 王子(びいえ おうじ)

だってベル先生なら
エプロンを着けてくれる女の子
なんて沢山いるじゃないですか

美家 王子(びいえ おうじ)

男の俺なんかがエプロン
着けてるの見ても、
別に楽しくないでしょう?

雷殿 鐘(らいとの べる)

キミはいつも沢山のファンや、
沢山の女の子がいると言うな。
だが俺にとって必要なのは
キミだけなんだ、美家くん

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……。
お、俺だけ?

雷殿 鐘(らいとの べる)

いや……。
こんな未練がましいことを
言っては駄目だ。
司と付き合っているキミを
困らせてしまうだけだな

美家 王子(びいえ おうじ)

は?

雷殿 鐘(らいとの べる)

だから、
司と付き合っているキミを
困らせてしまうと……

美家 王子(びいえ おうじ)

付き合ってませんよ

雷殿 鐘(らいとの べる)

なにっ?
いやしかし、司からそう聞いたぞ

美家 王子(びいえ おうじ)

あの人、何を勝手なこと
言ってんだ。
そんな事実ありませんよ

雷殿 鐘(らいとの べる)

なんだ、そうだったのか。
それを聞いて安心したよ

美家 王子(びいえ おうじ)

安心……?

雷殿 鐘(らいとの べる)

改めて言う。
美家くん、俺と付き合ってくれ

美家 王子(びいえ おうじ)

付き合う……。
ベル先生と付き合う……?

美家 王子(びいえ おうじ)

はっ、そうか!
イオンモールに行くのを
付き合えばいいんですね?

雷殿 鐘(らいとの べる)

いや、結果的には
そうなんだが……

美家 王子(びいえ おうじ)

良かった~!
そうですよね、
ちょっと勘違いしちゃいました!

雷殿 鐘(らいとの べる)

何を勘違いしたんだ?

美家 王子(びいえ おうじ)

いや、恥ずかしいことに
ベル先生が俺のことを
好きなのかと思っちゃって

美家 王子(びいえ おうじ)

ラノベ界の神である先生が、
俺なんかを好きになるわけ
無いですよね

雷殿 鐘(らいとの べる)

美家くん……。
キミは間違っている

美家 王子(びいえ おうじ)

はい?

雷殿 鐘(らいとの べる)

俺は神なんかじゃない。
一人の男だ

雷殿 鐘(らいとの べる)

キミが俺の作品を好きだと言って、
俺を尊敬してくれる。
本来ならば、
それは喜ぶべきことなんだろう

雷殿 鐘(らいとの べる)

だが、キミが俺を神聖視するたびに
遠ざけられているようで
悲しい気持ちになるんだ

美家 王子(びいえ おうじ)

遠ざけてるつもりなんて……。
でも、そう見えたのなら
すみません

雷殿 鐘(らいとの べる)

いや、悪いのは俺だ。
キミの優しさに甘えてしまって
気持ちを押し付けてしまった

雷殿 鐘(らいとの べる)

恋人になって欲しいという話は
一度忘れてくれ。
キミという優秀なアシスタントを
失いたくないのでな

美家 王子(びいえ おうじ)

ベル先生……。
俺、どうすれば……

雷殿 鐘(らいとの べる)

とりあえず
ピーマンの肉詰めを作ってくれ

美家 王子(びいえ おうじ)

へ?

雷殿 鐘(らいとの べる)

作ってくれるんだろ?
子供の頃からの大好物なんだ。
早く食べさせてくれないか?

美家 王子(びいえ おうじ)

は、はい!

美家 王子(びいえ おうじ)

締め切り前なのに
駅まで送ってもらっちゃって、
すみません

雷殿 鐘(らいとの べる)

美味しい料理を食べさせて
もらったことへのお礼だ。
可愛いエプロン姿も
見せてもらったしな

美家 王子(びいえ おうじ)

可愛いって……。
男にいう言葉じゃないですよ

雷殿 鐘(らいとの べる)

ははは、すまない。
それじゃあ、気をつけて帰れよ

美家 王子(びいえ おうじ)

あのっ、ベル先生!

雷殿 鐘(らいとの べる)

どうした?

美家 王子(びいえ おうじ)

俺にとって、ベル先生は
やっぱり神様です!
でも、それは遠ざける
意味じゃなくて……

美家 王子(びいえ おうじ)

面白い作品を世に送り出して
くれたことへの感謝の気持ちが
こもってるんです

美家 王子(びいえ おうじ)

だから……うーんと……。
上手く説明できないんですけど、
あまりネガティブにとらえて
欲しくないって言うか……

雷殿 鐘(らいとの べる)

……ありがとう。
やはりキミは優しいな。
だからキミを好きになったんだ

美家 王子(びいえ おうじ)

ううっ……。
その、ベル先生が俺を好きって
いう言葉が恐れ多いんですよ

雷殿 鐘(らいとの べる)

うむ、今はそれでいい。
美家くんの気持ちが俺に傾くまで
ゆっくり待つことにするよ

美家 王子(びいえ おうじ)

は、はい……

美家 王子(びいえ おうじ)

(憧れの神様が俺に
好意を持ってくれて、
しかも答えを待ってくれるなんて……)

美家 王子(びいえ おうじ)

(俺には荷が重いよ……)

第31話 恋するラノベ作家 - 後編

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