郵便局員A

俺は一介の郵便局員だ。

郵便局員A

この物語に出てくる解説は
すべて個人の見解であり、
日本郵便(株)様の
公式見解ではないということを
覚えておいてくれ

 


 


あのー……

郵便局員A

いらっしゃいませ!
ご用件をお伺いします

すいません、
この手紙を出したいんですけど

郵便局員A

封が開いておりますが

とじてませんからね

郵便局員A

封緘(ふうかん)もせずに
出すと……!?

フーカンってなんですか?

郵便局員A

封緘とは、手紙や文書などの
封をとじることです。
または、そのとじた物を指します

封緘をしないで出したことの
何が駄目なの?

郵便局員A

封をしなければ、
中身が外へ飛び出す……。
そんなデンジャーかつ
常識的な光景を
想像したことはありませんか?

思いもよりませんでした

郵便局員A

いや思えよ

じゃあお前が閉じろよ

郵便局員A

ここに一本のア○ビックヤマトが有る。
好きに使え

商品名はいいから普通に
糊(のり)って言えよ。
ていうか、封を閉じるくらい局員さんが
やってくれないわけ?

郵便局員A

封緘には責任が伴う!
それぐらい知っておけ!

責任ってなんだよ。
ただ閉じるだけでしょ

郵便局員A

俺がこのア○ビックヤマトを駆使し、
華麗に封をしてしまうとする。
すると、この俺が封筒の中身を確認し、
問題なく送れると見なしたのと
同義になってしまう

郵便局員A

この意味がわかるか!?

大体わかったけど、
俺、さっき指を怪我しちゃったんだわ。
だからうまく封をできなくて
困ってて……

郵便局員A

それを先に言え!
そういう理由ならば、
この俺が代わりに閉じてやる!

ツンデレなの!?
ていうか責任はどうした!?

郵便局員A

この俺が全責任を持つ!

郵便局員B

いや全責任を持つのは
おかしいでしょ

郵便局員A

いくら先輩だからと言って、
頭を叩くな貴様!

郵便局員B

あなたも後輩なら
敬語を使いなさいよ

郵便局員B

それはそうとお客様、
大変失礼しました

いえ。
ようやくつっこむ人が
出てきて安心しました

郵便局員B

お客様が怪我などの
何らかの理由で封緘を
することが難しい場合、
郵便局員が代わりに
封緘をいたします

郵便局員B

ただしその場合、
お客様から委任していただいたとして、
必ず封緘のご了承を得ております。
私どもが代わりに封を閉じて
よろしいでしょうか?

別にいいけど、
なんでそんなに慎重に
確認するわけ?

郵便局員A

実は過去に、それはそれは
悲しい出来事があったんだ……。
どうだ? 聞きたいか?

いや別にいい

郵便局員A

あれは俺が、
郵便局に入ったばかりの頃の話だ

別にいいって言ってんのに
話し始めてんじゃねーよ

郵便局員A

お前のように、
封が開いている郵便物を
差し出したお客様がいたんだ

郵便局員A

あの時の俺は、
それを親切心で糊で閉じた。
お客様は『出す』と
言ったのだから、
もう未練は無いのだろうと思ってな

郵便局員A

しかし、お客様は怒り出したのだ。
『郵便局員が勝手に閉じた!
まだ入れる物が有ったのに!』
……とな

ははは、バカだなあそいつ

郵便局員A

いやお前も同じレベルだろ

郵便局員B

まあ、我々も人間ですし、
お客様も人間です。
一度出すと心に決めた物で
あっても、
『本当に閉じちゃってもいいの?』
と確認すると、大切なことを
思い出すきっかけにもなります

郵便局員B

単純に責任を問うという事だけでなく、
お互いに気持ちよく過ごすためにも
コミュニケーションは大切ですよね

郵便局員A

我々は同じ星に住む人間だ。
悪い政治家のように責任を他者に
なすり付け合うのではなく、
生きとし生ける者すべてを
慈しむことが肝要だ

郵便局員B

綺麗にまとめたのに
なぜ論点を大幅にずらすのかしら

そんなことはいいから早く
手紙を出させてくれ

郵便局員A

むっ。
では今一度聞くが、
俺が封を閉じていいんだな?

おねぎーしゃっす!
※お願いしますの意

郵便局員A

見よ!
この美しい封緘を!!

郵便局員B

あなた、
お客様への態度は悪いけど
仕事はいつも丁寧よね

郵便局員A

当然だ!

郵便局員B

いや当然じゃないでしょ。
態度を改めなさいよ

それじゃ、出しといてください。
おねぎーしゃっす!
※お願いしますの意

郵便局員A

待つんだ!

まだ何かあんの?

郵便局員A

まだ郵便料金を貰っていない

忘れてたわ。
で、いくら?

郵便局員A

俺との楽しい語らい料込みで、
一万円だ

郵便局員B

あなたのトークに
そこまでの価値は無いわ

むしろこっちが
話を聞いてあげた代金を
請求したい

郵便局員A

ふ、二人でフルボッコにするな。
わかった、郵便料金だけ
請求すればいいんだな?

郵便局員A

定形サイズ25グラム以内で、
84円だ。
※令和3年現在の料金です

はーい、84円ね

チャリ…

郵便局員A

あーがとーっ!
ざっしたーっ!
※ありがとうございましたの意

郵便局員B

ありがとうございました!
※感謝の意

 


 




──数時間後。

すいません。
これ出したいんですけど

郵便局員A

いらっしゃいま……
また貴様か

客に対してその言い方はなんだ。
今度はちゃんと封をしてきたよ

郵便局員A

指の怪我治るのはやっ。
どれどれ、今度は
定形外郵便ですか。
……むっ!?

郵便局員A

こ、これは……!
あて先の住所がまったく
書かれていないではないか!

駄目なの?

郵便局員A

駄目に決まってるだろ!
どうやって届けるんだ!

中に住所を書いた紙が入ってるし

郵便局員A

ば、バカな……。
封筒の中を透視しろというのか?
郵便配達員はエスパーではないぞ!

だってこれ、俺が通ってる
専門学校に提出するやつ
なんだけど、
中の書類に住所を書いて
下さいって言われたよ

郵便局員A

それは郵送上の話ではなく、
専門学校の事務処理で
使うだけの話だろう

はあ

郵便局員A

よく考えても見てくれ。
仮にお前が
郵便配達員だったとする。
住所が書かれていないこの封筒を、
どうやって届けるというんだ?

封筒を開けて、
中の住所を見る

郵便局員A

な・ん・で!
配達員が封筒を開けるんだ!
そもそも中に住所が
書かれてるなんて
わからないだろう!

じゃあ配達員さんに、
中に住所が有るって伝えてよ

郵便局員A

郵便の窓口と、
配達員が働いてる場所は違うの!!
すぐ伝えられる距離じゃないの!

電話で伝えればいいじゃん

郵便局員A

一日に何百通もの郵便物を
処理している配達員に、
一通一通の詳細を伝えるのは無理ー!!

あっ。
泡吹いて卒倒した

郵便局員B

代わりに私がご説明します

倒れた人は放置?

郵便局員B

『信書の秘密』に基づき、
郵便局員が郵便物の内容を
確認することはありません。
※内容証明、事故などの特例は除く

郵便局員B

それに、お客様が封をした物を
みだりに私たちが開けることがあっては
封緘の意味がありませんよね

そうですか。
えーと……
つまり……?

郵便局員B

封筒の表面にあて先の住所を
書いてください

おかのした!
※わかりましたの意

書きました。
じゃ、これ出しますね

郵便局員B

普通郵便でよろしいでしょうか?

はい

郵便局員B

定形外100グラム以内で、
140円です。
※令和3年現在の料金です

チャリ…

はい、140円ね。
おねぎーしゃっす!
※お願いしますの意

郵便局員B

お預かりします。
ありがとうございました

それにしても、
郵便出すのってな~んか
面倒くさいですね

郵便局員B

お手数をおかけします。
はっきり言って
郵便を引き受けるこちらも
面倒くさいです

は?

郵便局員B

あ、失礼。
今のは忘れてください

はい、忘れました

郵便局員B

お客様には複雑な郵便の
ルールを守っていただき、
お手数をおかけします

郵便局員B

ですがお客様にルールを守って
いただくというのは、
私どもの都合でわがままを
言っているわけではないのです

郵便局の人たちが
わがままなだけかと思ってた

郵便局員B

郵便のルールに
反していることを知りながら
郵便物をお引き受けしてしまうと、
正しく郵便物を
お届けできないなど、
お客様にご迷惑をおかけして
しまう事になります

郵便局員B

円滑に事務処理を進める事で、
郵便をより早く安全に
お届けできる……
それがルールを
守っていただくことの
一番の目的です

なるほど。
郵便局のために
やってるようでいて、
つまりは自分のために
ルールを守るんですね

郵便局員B

そういうことですね。
ご理解いただけて嬉しいです

これからも郵便を出しにくると
思うけど、よろしくね

郵便局員B

ぜひお越しください。
お待ちしております

郵便局員A

はっ!! 5時だ!
郵便局を閉めるぞ!

郵便局員B

ビックリするから
急に起きないでくれる?

1通目 普通郵便を出そう・その1

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