表紙にヨムナと書かれたノートがある時、あなたはどうしますか?

A氏

――って事で我々はいわく付きの廃病院Yに来てまーす!

友人

うーわ、雰囲気ありますね

カメラマン

良く、そんなテンションでいられるよな

A氏

まぁ、それが俺の長所なんで

 三人の若者が動画サイトの企画で有名な心霊スポット廃病院Yに来ていた。必ず幽霊が出ると噂されていた。

 どうやら廃病院になる前は普通の病院だった。ただし、ある医者が患者を虐待など医療の実験をしていた事件があったそうだ。その事件で亡くなった患者が数多く居るそうで事件が発覚した際は新聞やニュースに取り上げられている。

 後に廃病院となり亡くなった患者が幽霊となり夜な夜な何かを訴えるかのように現れると噂された。

 そんな噂を聞いたA氏は動画制作仲間を連れ幽霊の撮影を企んでいた。

友人

本当に入るの、やばいって

カメラマン

そうだな。本当に出そうだ

A氏

いいから撮影始めるぞ。こんなに取り高があるところなんて逃すのはそん

A氏

最高の動画が出来るぜ

 二人と違いA氏はやる気に満ちていた。

 動画の企画段階からやる気で勝負に出ていた。登録者の伸びに悩んでいた事もあったのだろう。A氏は三人の中で動画の事を考えていた。だからこうして再生数が稼げそうな廃病院Yに目をつけたのだ。

 内容がどうであれこの手の動画は再生されやすい。ここで面白い動画が撮れれば登録者にも繋がる。そう二人を説得していた。

 二人も何処かで大きな企画は必要とお互いに考えていた。

 結果、廃病院Yの噂は怖かったが誰も撮影を止める者はいなかった。

A氏

お邪魔しまーす

友人

すげぇ、意外と奇麗だな。ゴミだらけだと思っていた

カメラマン

そうか、廃墟ってこんなもんだろ

 廃病院Yの中は入り口に空き缶などのゴミが目立つだけで中に進むとゴミなど落ちていなく朽ち果てていた。

友人

でも見ろよ。あそこに呪いって描いてあるぞ

カメラマン

バカが描いたんだろ

 病室に入ると壁に赤いスプレーで呪いと描かれてあった。ただ、それ以外に目立つものはなく三人は奥へと進んだ。

 一階、二階と探索して大きな発見もなく時間だけが過ぎていった。時々、ふざけて大きな声を出して驚いたり、耐えしたことのない音で驚いたりして動画をお盛り上げた。

 何事もなく撮影が終わると誰もが考えていた。A氏は幽霊が出ないことに不満を漏らしたが二人は撮れ高に文句はなかった。

A氏

何か一つ、幽霊とか出ないかな

友人

もう十分さ、後は締めを撮って帰ろうぜ

カメラマン

ああ、そこの病室で撮ろう

A氏

ちぇ、絶対に出ると思ったんだけどな

友人

まあまあ、カメラに写っているかも

カメラマン

写っていればいいんだけどな

 カメラを回し病室に入る。

A氏

――はい。最後まで幽霊に会いませんでしたがこのぐらいで勘弁して……

 立ち位置を決めようと適当に周りを見渡しているとA氏がベッドの上に無造作に置かれたノートを見つけた。

A氏

なんだコレ?

A氏

おい、カメラ

 ミルナと荒々しい文字で書かれているノートを手にとった。随分長い間、放置されていたようで塵や埃が着いていた。ノート自体も風化して時間の経過を表していた。

A氏

ミルナ? 誰かのいたずらか

カメラマン

雰囲気作りで置いていったんだろう

A氏

さて、ミルナって書かれてて見ないヤツはいないよなぁ

A氏

俺は見るね。ミルナって書いているからよぉ

A氏

……………………

A氏

……………………

 無言でノートを見ているA氏に違和感を覚えた。

友人

どうした。何か書いてあったのか?

A氏

――あっ、何でもないんだ

カメラマン

なんか書いてた?

A氏

何も書いてない!!

 カメラにノートの中身を写そうとした時、A氏は声を上げてカメラマンを突き飛ばした。A氏は我に返り突き飛ばしたカメラマンに誤った。

 その後A氏はノートを元にあったベッドの上に置いて撮影を続けた。無事、撮影が終わり廃病院Yを後にした。ノートの事は気になったがA氏の様子を見て話はしなかった。

 撮影が終わって数日が過ぎた頃、家でカメラの映像を編集している時だった。廃病院Yに一緒に行った友人からA氏が亡くなったと連絡が入った。

 どうやら廃病院Yから帰ってから気分が悪くなっていたそうだ。日が経つ内に苦しくなり今日になって息を引き取った。後に死因は心臓麻痺らしいが体の至る所に殴られたような痣があったが死因とは別のようだ。

 そして奇妙な事にA氏が持って帰ったのか、あのノートが見つかった。

 表紙に荒々しい文字でミルナと書かれたノートを見て二人は恐ろしくなり中身を見ることは出来なかった。二人で相談した結果、近くのお寺に持ち込むと住職はノートを見て直ぐにお祓いをすると提案した。

 住職曰く見たくて良かった中身を見ていたらどうなっていたか。

 二人は燃えるノートを見て心が安らいだ。こうしてノートの中身を知るものは居ない。

 そして、動画も完成することもなかった。

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