ちょうど、入りたいって人が
急に出てね

記憶が微妙ではあるが
確かそんな感じのことを言われたはずだ。

それで、あの部屋は
その人に入って貰ったのよ

急に、ねぇ

畳が毛羽立つぐらい人の入りが無かった所に
二週間で、急に入りたいという人が見つかると

嘘だな

最初に思ったのは、それだった。そして――

失敗したな

手付金を払っとけば良かった

部屋を決めたあと、払おうかと思ったのだが
相手のことを信用しきれないこともあり
払わなかったのだ。

まぁ、払える額が
大したことないから

払ってても手付倍返しで
終わっただけか

うろ覚えだが手付金は契約代金の
一割ぐらいだったか?

そもそも手付金は契約成立時だったと思うので
契約をしてなかった、あの時点だと
払うこと自体が出来なかったとは思うが。

さて、どうするか?

退寮まで残り1週間。

引っ越し荷物は最低限以外
全部処分したけど

このままだとネカフェも
可能性があるから、荷物は全部処分するか?

いや、マンスリー契約の所
あったか?

どのみち、そこも
荷物の持ち込み難しいから
家財道具一式は全処分だな

予定していた所に入れないと聞いて
目まぐるしく頭を動かす。

怒っても何の意味ないしな

などと考えていると――

それで、代わりになる所を
紹介しようと思うのよ

たまたま偶然、運が良かったみたいに言った。

あ~、そういうこと

なんとなく理解した。

こっちが簡単に部屋借りるから

より塩漬けになってる所を
貸そうとしてるな

要は、足元見られてるってこと。

代わりの部屋ですか

ええ、そう

ふやけた笑みと一緒に、応えは返ってきた。

なんというか、茶番劇だな

向こうも、こっちが気付いてない
とは思ってないだろう。

その上で、他に選択肢が無ければ
選ぶしかないだろうと思ってる。

さて、どうするか?

一応、向こうとしても貸す気は十分なので
話を聞くだけ聞くぐらいは良いかもしれない。

もっとも、最初の部屋よりも
確実に普通じゃない所が提示されそうだ。

とはいえ――

ちょっと楽しみ

ここまでして勧めて来る物件なのだ。

どんな物件か
ワクワクする

などと、思っていると――

家賃なんだけど
三万なのよ

良いですね

交渉するまでもなく
前より安い物件を出して来た。

どんなところ勧める気だ?

やっべ、オラ、ワクワクして来たぞ。

三万ですか

……やめとく?

微妙に窺うように訊いて来たので
ハッキリと返す。

いえ、大丈夫です

安いなら、それに越したことは無い。

とりあえず、部屋
見せて貰えますか?

そうね










ということで、車で案内され付いた所は――

ここなんだけど……

なんだここ?

顔には出さずテンションが上がる。

そこは、煙突のような物件だった。

六畳一間を二つ重ねたような建物。

鉄製の階段が外についており、それを昇って二階に移動しなければいけない。

一階に、台所と
トイレと風呂が付いてるから

つまり雨の中トイレに行くことになったり
冬で雪が降る中、風呂に入りに行かないと
いけないってことだ。

これ、雨とか降ると怖いな

階段を見て、思う。
角度が急な上に、雑な作りの鉄製なので
滑り易そうだ。

外から見てるだけでも
中々『味のある』物件だ。しかも――

四方を囲まれてるじゃん

日照権? なにそれ美味しいの?
という状況である。

右手には、築云十年の古いアパート。
後ろ手と左手は、壁で覆われている。

これ、土地の境界線代わりの奴だな

ちなみに、壁の向こうは駐車場だった。

そして道路に面した前方は
2階が住居になっている個人経営の喫茶店。

その喫茶店とアパートの間
人ひとりが通れるぐらいしかない通路の先に
貸してくれるという物件はあった。なので――

メッチャ暗い

昼間なのに日当たり最低!

いかん、面白くなってきた

予想以上の面白物件にテンションが上がる。

中を見ても良いですか?

どうぞ

1階のドアを開けて入ると――

照明が裸電球!

40ワットでした。

一応、小さいながら台所がある。

風呂とトイレは――

そちらを確認すると

狭い。あと放置されとるな

風呂場に無理やりトイレを付けました
という感じだった。

全然大丈夫

え?

なんで引く感じになってる。

上の部屋も見る?

はい

勧められたので見に行くと

やっぱ畳、毛羽立っとるな

かなり放置されている。

そして部屋を見渡すと

照明のカバー、ごつい

シャンデリアを模した
ゴツいカバーの付いた照明だ。

地震で落ちてきたら死ぬな

そんな感じ。

そして部屋と言えば、畳は四畳半。

部屋の入口(玄関と言える物ではない)から
板張りが伸び、その先に何故か洗面台がある。

板張りの上には物置のスペースがあった。

これあれだ

押入れの壁、取っ払って
無理やり洗面台つけてるな

推測しながら部屋を見ていると

畳は変えるから

それで……借りる?

借ります

即答しました。

そう、良かった

なんか肩の荷が下りたみたいな顔になっていた。




そして、そのあとすぐ不動産屋の事務所に戻り

中身確認して

はい

契約書を交わした。

また、反故にされたら
かなわんからね

そのあとは、つつがなく
部屋を借りることが出来ました。





教訓

保証人がいなくても部屋は借りれる。
でも普通の部屋じゃないのは覚悟しよう。

そんな、割とどうでもいい
教訓を得る事の出来た

体験談でした



          終わり

借りれることになった所は煙突みたいな建物だった話

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