むかし、むかし、あるところに…………

 
 暗い森で、二人の人物が歩いていた。

グレータ

はぁ~、誰かさんのせいで、完っ全に道に迷ったわ

ヘルフリート

妹よ……どうせならはっきりと言ったらどうだい?その方が気が楽だ

グレータ

グズでマヌケで女好きで女ったらしの、今すぐにでも縁を切りたい私のお兄ちゃんのおかげで真っ暗な森の中で道に迷った。お兄ちゃんの所為よ!どうしてくれるの!!

ヘルフリート

……はっきり言われるのも、それはそれできついな……

 
 男はヘルフリートという名前で、女の子はグレータ。
ふたりはとっても仲良しな兄妹だ。

グレータ

目印を置いてきてたから、大丈夫とか言ってたくせに。気が付いたら無くなってるし。そのくせ大丈夫!とか言って自信満々に歩いて行くから、付いてきたらこのざまよ!

ヘルフリート

ご、ごめん……

 
 元気に話しているが、二人は長い時間迷っていたのでへとへとになっていた。

 そんな時、ヘルフリートが森の奥に何かをみつけた。

ヘルフリート

あ!あれ?何か光が見える!

グレータ

え?

 
 ヘルフリートの指さす先には、星や月の光とは別の灯りがあった。

 真っ暗な森の中、その光は炎の光のようで、ゆらゆら揺れていた。

ヘルフリート

灯りだ。あそこなら人がいるかも

グレータ

あんなところに人が?

 
 実はこの森は絶対入ってはいけないと言われている森なのだ。
 とても危険で人が寄り付かず、この森に入るような者は腕試しをしたい剣士や犯罪者くらいなのだ。

 しかし、二人が近づいてみると確かにそこには一軒の家が建っていた。

 
 その家はかなり古い建物だった。

 壁にはつたがからまり屋根には苔や雑草がはえていて、いかにもおどろおどろしい。

 しかし、家には灯りがついていて煙突からは煙が上がっている。
 誰かが住んでいるのは確実なようだ。

グレータ

……なんかこわいよ。やめておいた方がいいんじゃない?
この森には悪い魔女がいるって噂もあるし……

ヘルフリート

大丈夫だよ……たぶん……

グレータ

でも……

ヘルフリート

悪い魔女とか、大人が子どもを怖がらせるための常套句だよ

ヘルフリート

どっちにしろ、森の中でこのまま迷っているよりましだ。
取り敢えず行ってみよう

 
 そう言ってヘルフリートは家のドアをノックする。

……


 扉が開いて現れたのは怪しげな雰囲気の老婆だった。

グレータ

!!!

 
 その怪し気な雰囲気にグレータは思わず兄の後ろに隠れた。

どちら様かな?

ヘルフリート

あ、あの、すいません。森で迷ってしまって。……一晩でいいので、泊めていただけませんか?

 
 怪しい雰囲気だと思いながらもヘルフリートは申し訳なさそうに言った。

……

 
 老婆は二人をジロジロ見る。
まるで不審者でも見るような顔だ。

はぁ……まあ、いいだろう。お入り

 
 そう言って老婆は家に招き入れた。

 
 家に入ると中はとても暖かかった。
二人は少しほっとする。

 
 家の中には暖かい暖炉。それから重厚な棚があり沢山の瓶や本が並んでいた。

食べな

 
 そう言って老婆が出したのは、とてもおいしそうなスープだった。

ヘルフリート

!!

グレータ

!!

 
 とてもお腹が空いていた二人は飛びつくように食べ始めた。
 スープはとても美味しかった。

こんな状況で外に出すのも目覚めが悪い、泊まってもいいがベッドは2つしかないんだ。悪いけど2人で一つのベッドで寝ておくれ

でも一晩だけだよ

ヘルフリート

ありがとうございます

 
 老婆は無口で偏屈な感じだが、親切にも今夜は泊めてくれるようだ。

 ヘルフリートがお礼を言っても、老婆は眉を顰めて暖炉の前で編み物を始めてしまった。

レオ

……

グレータ

あ!猫ちゃんがいる!

 
 老婆の足元に猫がいるのをグレータが見つけた。

真っ白で柔らかそうな毛並みでとても神秘的な雰囲気のある猫だった。
 猫好きなグレータは、思わず触ろうとする。

その子はレオ。気難しい子だ。不用意に近づくと引っ掻かれるよ

レオ

シャー!!

グレータ

いた!

 
 猫は唸ってグレータを引っ掻くと、暖炉の上に登ってしまった。

 そして、猫の寝床と思われるかごにはいると丸くなって眠ってしまった。

グレータ

引っ掻かれちゃった……残念……

 
 二人がスープを食べ終わると、老婆は二人を寝室に案内してくれた。

 
 部屋はベッドと椅子、それから本棚や色々な用具が置かれている机があり簡素だが清潔で綺麗な部屋だった。

グレータ

お兄ちゃん、お婆さん怖そうだけど結構優し人だったね

ヘルフリート

だから、言っただろ?大丈夫だって

 
 二人は早速ベッドに入り、そう言った。

 そうして、明日からどうするか話合う。

 二人はどうにかして、森を抜けて街に出たかった。  

 とりあえず、老婆になんとかここから出る道を教えてもらおうと二人で言い合って決めた。

 そうしているうちに、二人はいつの間にか眠ってしまった。

ヘルフリート

ん?何の音だ?


 真夜中、何かの物音でヘルフリートは目を覚ました。

 何だろうと思ったヘルフリートはベッドから起き上がりその音の方に向かった。

ブツブツ…………ブツブツ…………

 
 暖炉の部屋に行くと老婆がブツブツ何かをつぶやきながら何かしていた。

ヘルフリート

 
 不審に思ったヘルフリートはそっと部屋に入ってみた。

ヘルフリート

……!!!

 
 老婆はなんと暖炉の前で包丁を研いでいた。

……な……もう……食べて……太らせて……だ……ない……

ヘルフリート

!!!!!

……ね……と………な……を……太らせて食べてやる

ヘルフリート

…………

 
 よく聞こえなかったが、太らせて食べてやると言ったのは聞こえた。

ヘルフリート

おい!どう言うことだ!

 
 そう言ってヘルフリートは老婆に掴みかかった。

キャー!!

  掴みかかった拍子に倒れてフードが取れた。
 そこには可愛らしい女の子の顔が。

ヘルフリート

え?どうして女の子が?

え?あ!しまった!魔法はもう解けてたんだった!

ヘルフリート

君だれ?おばあさんはどこ?っていうか今、魔法って言った?


 よく見るとその女の子は老婆と同じ服を着ていた。

ヘルフリート

君はあのおばあさん?魔法とか言ってたけど、本当に魔女っていたんだ………

ヘルフリート

…………

ヘルフリート

っていうか君、可愛いね……

え?な、なに?っていうか離してよっ……ぅわ!きゃー!

ヘルフリート

うわ!


 動転した拍子に二人は倒れる。はからずもヘルフリートが女の子を押し倒すような形になった。

ちょっと!何するのよ!

ヘルフリート

いや、足を滑らせたのはそっちだよ

ヘルフリート

でも男としては役得だな。こんな可愛い子を押し倒せるなんて

な、何を言っているの?そんな事より早くどいてよ!

ヘルフリート

さっき言ってた食べるってそっちの意味だったんだ、ごめんね気がつかなくて

ち、違うわよ。そ、そのまんまの意味よ

っていうか上からどきなさいよ。動けないじゃない!

ヘルフリート

そんなに照れなくても。じゃ、いただきまーす

い、いやーーー!!

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