曾根原 介司

さっきの若いのはお前のお願いのために外してるから俺で我慢してくれ。警部の曾根原だ

……そうですか。よろしく

曾根原 介司

いやぁしかし、最近の若い奴らはスゴいね。事情聴取を受けてるってのに警察と交渉しようなんて。肝が据わってらぁ

曾根原 介司

お嬢さん好みのイケメンじゃなくなったが、相手してもらえるかな?

ええ……けど、軟派な人は嫌いです

曾根原 介司

覚えておくよ。さて、改めて名前を伺おうかな?

名前は……ありません。失くしてしまいました

曾根原 介司

そいつは大変だ。どこかに落とした? それとも誰かに取られちゃったのかな?

……馬鹿にしてます?

曾根原 介司

お嬢さんこそ

…………

相変わらず上手いな……あの手のホシは鼻っ柱を折らないと何も喋らない。ペースを乱して自分の領域に引き込むのは曾根原の常とう手段だ

曾根原 介司

あの晩△△駅前のコンビニにいたよね?

……塾の帰りで

曾根原 介司

終電も過ぎたような時間だよ? 親御さんが心配したんじゃないかな?

両親は仕事が忙しくてろくに家に帰ってきません。ほとんど一人暮らしをしている状態でした

曾根原 介司

なるほど、それじゃあ今までの事件のあった時間もアリバイがなさそうだね

決めつけないでもらえますか

曾根原 介司

じゃあ、あるの?

…………覚えてません

曾根原 介司

お嬢さん、今一度自分の置かれた状況を理解しようか。俺たちが調べてるのはこの数か月で6人が殺された連続通り魔事件、お嬢さんは重要参考人だが俺は一番クロに近いと思ってる

曾根原 介司

場合によっちゃあムリヤリ家宅捜索してもいいんだ、だがそんな荒っぽいことはしたくねぇ。素直に吐いてくれねえか?

これ以上は……三上くんが来ない限り話しません

曾根原 介司

あのねえ……そもそも、その三上くんに会って何がしたいの? 告白?

謝り……たいんです

曾根原 介司

謝る? 一体何を?

…………

曾根原 介司

なあ話してくれねえか。じゃなきゃ力になれねえ

…………

三嶋 悠平

失礼します。警部、ちょっと

曾根原 介司

ん? あぁ……

…………

曾根原 介司

どうした? アイツと三上の関係でもつかめたのか?

三嶋 悠平

それ以上でした……とにかくこちらを

曾根原 介司

……噓でしょ

こいつぁ……恐ろしいな

曾根原 介司

三嶋、すぐに令状を取ってアイツの家をガサ入れしろ。上に何か言われたら俺の名前を出せ。絶対に証拠があるはずだ!

三嶋 悠平

分かりました!

曾根原 介司

よぉ、お待たせ

……何か分かりましたか?

曾根原 介司

まあね、けど先に聞きたいことがあるんだ。三上……蓮くんだっけ? 最後に会ったのはいつ?

2か月前……学校の屋上で

曾根原 介司

学校の屋上……甘酸っぱいねぇ。告白でもしたの?

……ええ

曾根原 介司

恋は実った?

……知りません。それより、どうしてそんなことを聞くんですか?

曾根原 介司

死んだからだよ、三上蓮くん

…………

……そうですか

曾根原 介司

知ってたんだろ、その様子じゃ

えぇ、その場にいましたから

曾根原 介司

……警察も今回の通り魔との共通点に気づけなかった。そらそうだ、三上くんの死因は――――

曾根原 介司

事故死、だからな

そうです、見てました……一部始終

私は三上くんが好きでした。けど彼を知ろうとするあまりストーカーだと思われて避けられるようになりました

ショックでした……同時に許せなかった。私は彼に好かれたくて、彼の好みに合わせようと努力してきたんです。そしたら……以前の自分がわからなくなった

曾根原 介司

それが……犯行に及んだ理由かい?

……はい

曾根原 介司

被害者はどう選んでた? 面識も全くなかったんだろ?

私は、三上くんにフラれてから自分が分からなくなったんです。自分が何をするのが好きでどの食べ物が嫌いなのか……そうしていたら、急に輝いてる人が見えるようになったんです

曾根原 介司

……輝いてる人?

オーラみたいな、その人の内側から溢れてくる人生を謳歌しているような輝き。内気で根暗だった私には出せないような……眩しさでした

それを見たら……嫉妬しちゃったんですかね。三上くんに好きになってもらいたくて、三上くんと釣り合うために頑張ってきて…………同じように輝きたかった。それを知らずに毎日を謳歌してる人が許せなくて

手伝ってもらおうとしたんです

曾根原 介司

……だから被害者を殺して皮を剝いだ?

私は自分が分からない、だから他の人を見て参考にしたかった。その人の内側に、皮の中に何が詰まっているのか、見たいと思うじゃないですか

皮を剝いだ中身を眺めてるとき、とても安心できました。のどが渇いてるときに水をもらえたような……満たされた感覚

曾根原 介司

だけど、また喉は渇いていく。だから犯行を続けたのか

……刑事さん、好きな人に理解されない苦しみが分かりますか? 好きな人に嫌われても、嫌いになれない辛さが分かりますか?

私は三上くんを嫌いになれませんでした。もう一度告白するために、自分を取り戻そうと頑張ったんです……でも、三上くんは目の前で死んでしまった

曾根原 介司

……なぁお嬢さん、ひとついいか

曾根原 介司

俺はずっと不思議だった。なんで三上くんが死んだときに偶然近くにいたのか。君はまさか、本当にもう一度告白したんじゃないか? 3人目を殺した後に三上くんを呼び出して

…………

曾根原 介司

恐らく人を殺したことも言ったんだろ? 彼にはすべてをさらけ出したいとか思ってさ。だけど当然三上くんが受け入れてくれるはずもなかった。逃げ出した彼を追いかけたら――――

目の前でトラックに轢かれました

曾根原 介司

……君、好きな人に理解されない苦しみって言ったよな?俺にもその苦しみは理解できる。だが、お嬢さんのソレは違う。それは愛じゃなくて憎悪だ。自分をはねのけた三上蓮くんを本当は許せなかったんだろ?

…………

曾根原 介司

三上くんに会いたいって繰り返してたのは、死んだのが受け止められなかったんだろ。ごめんな、ひどい形で思い出させちまった

曾根原 介司

だが君は、殺しの虜になってる。そうじゃなきゃ彼が死んだ後も3人も殺したりなんかしない。誰かの中身を覗いて満たされることに快感を覚えてるんだ

曾根原 介司

いいか、他人の外面を引っぺがして中を覗いたところで君自身のことは何も分からない。誰かに見てもらいたいなら尚更、じっくり君自身と向き合うんだ

それができたら……っ

曾根原 介司

苦労しないってか? そりゃ当たり前だ。だがな、人を殺さなくても頼ることはできる。方法を知らないから出来ないってのは言い訳でしかないんだ

…………

三嶋 悠平

失礼します。警部、彼女の自宅から6人分の皮の標本とPCを押収しました。PCには顔を剥した被害者の写真と三上蓮くんの盗撮と思われる写真が多数……

曾根原 介司

ご苦労。彼女も自供した。連れて行ってくれ

三嶋 悠平

はい!

…………

曾根原 介司

なぁお嬢さん、最後にひとつだけいいか

…………

曾根原 介司

仮に三上蓮くんと再会できたとして、何を謝りたかったんだ?

…………

好きになっちゃって、ごめんね

彼女の両親に連絡したが、ずいぶんと反応が薄かった。イタズラだと思われてるか娘に関心がないか……

曾根原 介司

後者だろうな。そうじゃなきゃあそこまで凶行に及んだ理由にならねぇ

ネグレクトってやつか……なんで三上って少年に惚れたのか知らんが、それだけの理由があるんだろうな

曾根原 介司

承認欲求……いや、あそこまで一人の人間に固執したら依存か。家庭でしっかりコミュニケーションがとれていたら、こんなことにもならなかったのかもな

はあーヤダヤダ。うちのガキとももっとスキンシップ取らねえとな

曾根原 介司

やめとけ、余計グレるぞ

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