目の前のロココが立っていた場所に鮮血よりも真っ赤な柱が立ち上がる。ロココはその柱に飲み込まれ視界から消えた。

リザ

ゴホッ、
馬鹿な……
なンというこトだ。

ハル

はぁ、は、早く、早く
助けるっす。

リザ

小僧、
止めてオけ、
モうオーバーヴォロゥは
止めラれン。

ランディ

チッ、なんなんだよ、
そのオーバーヴォロゥ
ってのはよ。

 突然、宙に浮く魔物の一体に異変が起こった。その身体に内側から穴が開き、やはり内側から切り開かれたような切り口が現れたのだ。

 あれほど苦戦した魔物が、宙で体液を飛び散らせぐらつく。次の瞬間には無数の切り口が魔物を襲いあっという間にグチャグチャになってしまった。



 ハル達はもちろんリザも何もしていない。そのリザは表情が殆ど分からないが、明らかに焦りと諦めらしき感情を抱いてるように見える。

ジュピター

ロココがやってるのか?

ランディ

それならチャンスかも
しれ――

アデル

きゃっ!

ハル

うぐ!!

 ロココの圧倒的戦力を目にし、チャンスと思った時、衝撃波が赤い柱の中心部から放たれる。

 それをまともに受けて後ろに吹っ飛ばされるアデルとハル。

ユフィ

ルグラが話してくれた昔話。
彼の仲間にも同じ事が
起こったって……

 ユフィはアデルを介抱しながら、呟くように言う。おそらくリュウとユフィだけが聞いた情報だ。

ユフィ

半魔半人……
魔人と呼ばれる存在。
魔気を纏いし人の向こう側。
そこに元の人間の意識は
殆どなく、比類なき力を
有する存在になる。

ランディ

俺達だってもう
認識出来ねぇってことかよ。

ジュピター

どうやったら
戻せるんだよ。

ユフィ

……戻せない。
そんな、
方法なんて……
ないらしいわ。

 ルグラから聞いていた話を語るユフィは、意識を失っているアデルに肩を貸した。反対側をジュピターが支える。

 ハルは自力で立ち上がったが満身創痍だ。

ハル

まだ助け、る
方法が……
ある、はずっす。

ランディ

ぅぐ!!

 次の瞬間、宙を浮く魔物とランディが巻き込まれる。ギリギリのころで後ろに飛びのいたランディだが、その胸部の傷は明らかに浅くなかった。

ランディ

駄目だ。
これ以上ここに居たら死ぬ。

ハル

ロココを、
置いていくって
ことっすか

ランディ

俺だってなんとかしてぇ!
でもこのままじゃ
全員間違いなく死んじまう!

ハル

置いていけないっす!
置いていけるわけないっすよ!

ジュピター

あれだけ強けりゃ
誰にもやられないはずだ!

ランディ

そうだっ!
方法がないから言ってんだ!
もうマジで時間がない!

ハル

ユフィ!!
本当にそれで
いいんすか!?

ユフィ

駄目……
私には分からない!

ランディ

ジュピター!
早くアデルを階段まで運べ!
マジで巻き添え食うぞ!

ジュピター

分かった。

ランディ

急げ!!

ハル

ロココッ!
目を覚ますっす!
お願いっす!

ハル

ロ、
ロココォ~!

 迷宮の通路に立つ赤い柱。その中心に居ると思われるロココ。どうする事も出来ない状況に、ハルは自分の無力さに、完全に打ちひしがれていた。



 全員傷付き、精魂果てていてもおかしくない。そして今迄の攻撃は、無差別の衝撃波と、その空間にいきなり見えない刃が現れるようなもの。その対象物は存在する者すべてで、ハル達だとか魔物だからとかではない。



『皆を認識する意識は残らない』



 そうロココが言っていた通りなのだ。



 それでもハルはロココがいる赤い柱に近付く。

 方法なんてない。
 攻撃を受けるかもしれない。
 何も出来ない。

 それでもロココを置いて帰るなど、ハルにはどうしても出来ないのだ。

ランディ

ハルキチッ!
しっかりしろ!
皆を傷つけたくないって
ロココが言ってただろ!

ハル

出来ない……
出来ないんすよぉ……

ランディ

地上に帰ることが
ロココの為なんだ!
分かってやれ!

ハル

ううぅううああ
ああおおあっ!

 ハルの絶叫とも言える声。それは赤い柱に居るロココには届いていないはずだ。その間も、周囲の宙に浮く魔物は、体内から発生する見えない刃に切り刻まれ一体づつ細切れにされていく。

 もう数体しか居ないあの魔物達がいなくなれば、間違いなくロココの攻撃対象はハル達に向いてしまう。

ハル

帰るって言ったっす。
不味いメシ……
食べに行こうって
約束したじゃないっすか!

 ハルが赤い柱にボロボロの手を伸ばし、訴えかける。

 確かに約束した。不味くて有名な食堂があるって。最初は嫌がっていたけど、段々と楽しみになってきたって。そんな小さな約束を思い出し、か細く訴えるしか出来なかった。

ハル

ロココォ~!!

ランディ

ハルキチ……
すまねぇ……

 ハルに当身をくらわせたのはランディだった。口に零した謝意は、ランディも充分にハルの気持ちが分かっていたからだ。

 それからハルは意識を失い、傷だらけのランディに背負われ迷宮を脱出した。





















 偶然にも出会う魔物は少なく、ジュピターが一人で戦い殲滅出来る相手ばかりだった。
























 ガーディアンズゲートに辿り着いたハル達は、全員満身創痍でその場で倒れた。



























 当然そこにはロココの姿はなかった。

 ~編章~     214、小さな約束

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