「ジア・エカーテ!」

レジーナ軍の全軍が

武器を地に刺し声を上げた。



それはレジーナに追従するわけではなく

自らの意志で行ったこと。



その証拠にレジーナは

まだジュヅヴァを

天に掲げたままだ。





そして

ナバールの大軍を包囲しているのは

レジーナ軍だ。

通常は包囲されれば敗北は必至で、

降参もやむを得ない。

武器を捨てるべきは

ナバール軍のはずだ。

レジーナ

これは私が命じたことではない。
一人一人の兵が自らの頭で考え
決断したものだ。

サウダージ大将軍

青臭い演説で図に乗りおって。
なんだかんだと御託を並べ
結局は我が軍と戦うのが
恐ろしいと見える。

レジーナ

青臭い理想が歴史を開く。
どんな軍や権力よりも
一番強いのは理想だ。
それは青臭ければ青臭いほど
人を惹き付けるものだ。

サウダージ大将軍

それで済むなら、
世に争いは起きん!
理想は成し得ぬから
理想と言えるのだ。

レジーナ

違うぞサウダージ。
なぜなら今、
この言葉の交わし合いは
何故続いている。

サウダージ大将軍

…………

レジーナ

交渉決裂すれば力対力で
ぶつかり合うしかない。
だがなぜそうせんのだ?

サウダージ大将軍

この包囲は
我が軍の圧倒的優位を
根幹から崩すもの。
この四面楚歌を
作り出した時点で、
その青臭い理想とやらは
達成されているとでも
言わしたいのか。

レジーナ

それは確かに必要なことだ。
実行力を持たねば
どんな理想も愚想と
呼ばれよう。
強大な力に負けぬ力を
示す必要はあった。
だがその力は
ただの戦力ではない。

ウル

その先はオレに言わせろ。

レジーナ

そうだなウル。
君が言うべきことだった。

ずっとレジーナの話を聞いていたウル。

敵味方合わせて

唯一ここで武器を持たぬ者だ。

ウル

兵役の為に率いられる者でも
金の為に戦う傭兵でもない。
自らの未来を勝ち取る為に
自らの足で前進する者、
理想を勝ち取る為に
覚悟を決めた
ここにいる兵卒達――
名もなき民の力だ!

サウダージ大将軍

調子づきおって……

サウダージ大将軍

!?

一人、二人、そして三人と、

ナバールの兵が武器を投げる。

それは連鎖を起こし

ナバール軍全軍に広がった。



包囲されているから――

そう思われても仕方がない

かもしれないが、本質は違う。



ナバールの兵も

ウルの理想に心打たれたのだ。

ナバール兵としてではなく、

一人の民としての選択を示したのだ。

サウダージ大将軍

馬鹿な!
軍令違反は死罪だぞ

そうなってもかまわない。

ナバール兵の目はそんな光を宿し、

サウダージの眼光を受け止めていた。

サウダージ大将軍

敵の言葉に
踊らされるなど……

ナバール兵

俺達は、どうせ戦っても死ぬ。
それなら軍令違反で
死罪になっても一緒。
そんな考えじゃない……
自らの意志で決め
剣を置いたんです。
俺達もあの少年の理想と
覚悟で目が覚めたんだ。

ウル

おい、誰が少年だ。

ギリアム

剣持たぬ一人の民に
武器を奪われたな、
サウダージ。

サウダージ大将軍

っぐ、ぅぬうぅ~。
気に食わぬ!
そういう貴様はなぜ
その剣を捨てない?

そうレジーナの手には

ジュヅヴァがあり、

まだ空に掲げられているのだ。

レジーナ

兵士達は戦いを避け
平和を望む。
だが私は違う……

ウル

!?

レジーナ

私は敵を完全に殲滅するまで
戦いをやめん!
お前の返答次第では
この剣を振り下ろす先は変わる!

ガンツ

レジーナ姫、
まだ暴れるつもりなんですか?

サウダージ大将軍

随分と勝手な奴だ。
いやもう訳が分からん。

レジーナ

お前はただ軍権を預かる
将軍であって王ではない。

サウダージ大将軍

まさかナバール王を
殺すつもりか。
軍の力を持って
殲滅するだけなら
我々のやり方と
変わらんではないか。

レジーナ

お前の事を私は先ほど
何と読んだが覚えているか?

サウダージ大将軍

……為政者と言ったな。

レジーナ

為政者は王が道を違えた時は
命掛けで諌めねばならぬ。

サウダージ大将軍

正直、為政者と呼ばれ、
私に期待を寄せる
民の顔を思い出した。
だが…………

サウダージ大将軍

剣による脅しをかける者の
口に踊らされる訳にはいかぬ!

四方を囲まれ味方は

武器を捨てているが、

サウダージは

剣を掲げるレジーナの勧告を

受け入れなかった。



 レジーナはサウダージの意志を聞き、

声を出さずに笑った。

レジーナ

サウダージよ。
やはりお前は
私が見込んだ者の
内の一人だ。

スダルギア

クックック、なるほど。

レジーナ

ギュダよ、長きに渡る戦い、
ひとまず御苦労であったな。

ギュダ

そのようですね。

サウダージ大将軍

私は降るとは言っていない!
その剣の行き先を問うておるのだ!

レジーナ

私はそもそも降れとは
一言も口にしていないぞ。
それに我が敵は
既に殲滅しておるではないか。

サウダージ大将軍

殲滅?
何が言いたい?
こちらは貴様等の青臭い
理想に辟易としているのだ。

レジーナはジュヅヴァを、

愛馬ナダレに乗りながら

地に向かって突き刺した。

レジーナ

我が前に敵は居なくなった。
これを殲滅と言わずして
なんと言うのだ。

サウダージ大将軍

な……

ウル

無茶苦茶だな、お前は。

レジーナ

で、王に停戦を
進言せねばならぬな。
私も一緒に行ってやろうか?

スダルギア

又、捕虜にでもなるか?
面白そうだろ。

レジーナ

それは面白そうだ。

ギュダ

姫っ!
まだふざけられるのですか!

レジーナ

あー、
もうそのうるさい口は
復活したのか。
さっき大軍相手に
無策の突撃を敢行しようと
していた男に言われたくないぞ。

ギュダ

それは姫が
私を騙して●*◇×$~

ガンツ

確かに俺も感動しましたよ、
あの潔さには。

スダルギア

そういやお嬢ちゃん
戦が終わったら
一緒になるって口約束してたな。

サリアス

は? 一緒?

レジーナ

ああ結婚のことか。
そうだな、
落ち着いてきたし
よいかもしれんな。

ギュダ

はぁっ!?

サリアス

口約束って……

レジーナ

そりゃ契約書とか
書くわけないんだから
普通口約束だろ。

ウル

いや言い方だろ、
普通婚約とかさぁ。
しかも一国の王女が
んなテキトーに。

ギュダ

なりませぬ!!
このギュダの
目の黒い内に、
このような俗物と
一緒になるなど、
本来同じ空気を
吸うことすら
許され――

レジーナ

ハッハッハッ、
ギュダらしく
なってきたではないか♪
よし!
スダルギア、
手を組んでナバール王へ
会いに行こうではないか。

ウル

ふ~、また予想外な事を。
マジでこれで良いのか?

サウダージ大将軍

そんな訳はない!

レジーナ

……

レジーナは仲間とふざけたまま、

目と耳と意識をサウダージに向けた。

サウダージ大将軍

王を諌めるのは私の仕事。
特権とも言える仕事を
何故部外者である貴様に
譲らねばならぬ。

レジーナは

サウダージが初めて見せる

好意的な眼差しを受け、

ニマリと笑顔を浮かべ返答した。

レジーナ

それもそうだな。
新しい友の活躍を奪っては、
友情にヒビが
入ると言うものだ。
我々は結婚式の準備でもして
知らせを待つとするか。

その言葉に更に錯乱するギュダ。

それに追撃で冷やかす

ガンツとスダルギア。



馬鹿騒ぎに飽きれながらも

微笑ましく眺めるウル。



ジャグラスが部下と余興をするとか

具体的な話まで持ち出した時には、

ギュダが槍で追い掛け回す

事態にもなった。

サウダージ大将軍

全く騒がしい奴等だ、
まるで子供ではないか。

ギリアム

その表現に違いはあるまい。
だがその子供のような青年達に
この戦は救われた。

サウダージ大将軍

そして我々もだろうな。

ギリアム

ああ、そうだ。
…………カインよ。
お前が見い出した彼の者は
時代を牽引するだろう。
そういう者を選ぶのも
またお前達のような青年なのだ。

カインは強くなれと

レジーナに言われた事を

脳裏に蘇らせていた。

そしてその時に叩かれた

背中の衝撃を思い出す。



遠目にはしゃぎ倒す

レジーナ達を眺めながら、

「はい、胸に刻みつけます」

と、生真面目に答えた。

 ――14日後。

イシュトベルト城は開放された。



ナバール本国で、

王に加え

並ぶ反論する百官を

サウダージが抑え込んだからだ。

否、抑え込んだのではない。

説得――心を変えたのだ。



レジーナが周りにそうしたように。







一人一人の兵が

自分の足で大地に立ち

意思を示したように。





































――さらに半年後。








































レジーナとスダルギアの婚姻。





































この話題でまだギュダは

おちょくられていた(笑)








ナバールとの停戦の後、

ナバール、イシュトベルトに限らず

周辺諸国も含めた合併が行われた。





その新しい国の名はリュエード。





初代国王は





レジエレナという名の女王。



















戴冠式にいなくなったかと思えば

飲んだくれの爺さんと

不味くて有名な団子を食べながら

とるに足らない世間話を

街角でしていたらしい。























重臣である片目の男は

体重がどっと減ったらしい。





























リュエードは平和だった。

一人一人の国民が平和を愛し

国を愛し

家族を愛した。






その礎を築いたのは理想であり

その理想を成し遂げようとする

意志そのものだった。

これは名もなき兵の物語。






















消えゆく歴史の中で名は残らねど


























奔放でいて強く生きた王女の

背中を追い掛け守り続けた



























そんな名もなき兵の物語。

47-名もなき兵の物語

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