結月の言葉に明彦はふと敬一との会話を思い出した。
ねぇアキ……今のわたし達って皆にどうやって映るかな?
ちゃんとこの関係が伝わると思わない?
結月の言葉に明彦はふと敬一との会話を思い出した。
何かしたというより何もしてなかったのが問題じゃないかな
ユズちゃんは乙女ゲーマー。そういったときめく展開をリアルでも求めてるんだと思うよ
……そうか
明彦が呟いたのにも気付いていないように……彼女は嬉しそうに笑っている。
そう言ったって彼女をときめかせるのは君だから出来る話だよ?
それとも俺がやってみれば良い訳?
敬一のその言葉に確かに明彦は絶対駄目だと答えた。
考えてみれば簡単な理由だった。
ユズがときめく相手は俺が良いんだ……
いつもなら重たくないか。それが彼女に対して迷惑にならないか考えてしまう所だった。
だけど目の前で笑っている彼女を見ていると……そんな考えは無粋だと思った。
明彦は彼女の手を優しく解き、今度は自分から握り返した。
アキ……
今まで笑っていた彼女はそれに照れた表情を浮かべ始める。
そんな姿が可愛い……なんて思った。
これでユズは嬉しいのか?
そんな事は問い掛けるまでも無い。彼女の表情を見ればわかる。
だけどどこか自信が無くて、問い掛けた。
……うん
彼女は照れながらも頷き、それから笑った。
アキは凄いね。やっぱりわたしの事誰よりもわかってくれる
そうか?
問い掛ける彼に頷き、それから彼女は繋いでいる手を思わずといったように振り回しながら言った。
うん。でもこれからはわたし……もっとちゃんと伝えるから。
言わなきゃわからない事もやっぱりあるもんね。わたしだってそうだもん
……そうだな
誰よりも彼女の事をわかりたい気持ち……それはこれからも絶対に変わる事は無いし、変わらないで欲しいとも思っている。
だけど彼女のその言葉は今回の件で身に染みていた。
それに俺はずっとユズを見ていたけれど……彼女はそうじゃない。だからこれからもっと俺の事を知って貰わないといけないんだ
それは今まで明彦が彼女に伝えてこなかったからだ。それで良いと思っていた。
俺がもっとわからない事に対してそう伝えていたら……このすれ違いだって無かったのかも知れない
明彦は彼女の事がずっと好きだった。想い続けてきた。
だから大きくなり過ぎた『好き』という気持ちが悪戯に明彦を焦らせて、その言葉以外を伝えるのを忘れていた……いや、伝えようと考えた事さえ無かった。
このままじゃ駄目だな。俺も……少しずつでも変わらないと
結月が歩み寄ってくれて明彦は確かに嬉しかった。彼女から近付いてくれる未来なんて考えた事も無かったから……尚更そうだったかも知れない。
伝えない事……確かにそれも気遣いだと思う。だけど伝える事、きっとそれも気遣いなんだろう
特にただの幼馴染からやっと彼氏になれたのだ。
今のユズにならきっと……俺の想いだってもう少し伝わる筈だ。
いや、伝わるじゃない。伝えようとしていかないといけないんだ
ユズ……俺も同じだ。伝えたいと思うようになった。
ユズのお陰だな、有難う
想いを言葉に出来ると胸のつかえが取れたような気がした。
……こうやってやっていくんだな
微笑んだ明彦に……結月も笑顔で頷いた。