暗黒展覧会 その8
はあ、はあ、このままじゃ追いつかれる。隠れなきゃ……!
外の廊下を通り抜けるたくさんの足音。
これで……少しは時間が稼げますかね。
――――
ちょちょ、ちょっ……! なに逃げようとしてるの! 捕まっちゃうでしょ!
何ということか。少年は、二人の手を逃れ、一人扉に向かって駆け出そうとしたのだ。
離してください……!
落ち着いて。話だけでも聞かせてもらえませんか。
……誘拐犯には屈しません。
誘拐? 何を……ああ……
無理もない。事情のわからぬ彼の目には、アルマドらの行動は誘拐と映ろうというものだ。
あたしが誘拐犯なわけないでしょ。
信用に値する根拠がありません……
ムカムカ
……まあ、押し問答をしていても仕方ありません。
明確な殺意を向けてくる外の連中と、正体不明でも今の所攻撃してこないわたしたち。
どちらについたほうが生き延びる確率が高いか? 考えてみるのはどうですか?
…………
わかりました。しばらくは……あなた達と一緒にいます。
そして誰にも届かぬくらい密やかに。
巻き込んで、しまいました……
さあて、閉じこもっててもしょうがないわ。脱出しなきゃ――
ククリ! 気をつけて! 外から話し声が……!
侵入されてはまずい。この部屋の扉には鍵などないのだ。慌てて駆け出すアルマド。
ぐうううう
悪しくもそのタイミングで乱暴に開かれる扉。アルマドは開閉に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまう!
いたァーーー! ここだーーーー!
成敗せよギルドの名のもとに!
アルマド! ちっくしょう、やるしかない……!
……!
出口は一つ。逃げ場は、ない! 絶対的なピンチ……!
一方、マルコック邸ではもう一つの戦いが終結を迎えようとしていた!
ぐぐぐ、ぐぐぐぐ……
さあ、もう逃げられないぞ。観念するんだな。
今までさんざんこの野郎、この野郎。
手足を縛られて地に転がされ、スネイクに足で抑えられる手繰り屋!
我を下したところで、主の目的はすでに叶っておるわ。貴様らの負けだ。
どうかな? 鍵となる言葉なら、さっき聞いたぞ。
解除キーワード! それが貴様の目的か……
獰猛に牙をむく……!
今更知ったところでもう遅い! 走って大講堂まで知らせに行くつもりか?
どう見積もっても20分はかかる。とっくに事が終わっておるわ!
ヒーッヒーッヒーッヒーッ!!
狂ったように笑う!
ここまで来て……もう手はないってのか!
道を走って20分……なら、直線距離なら、どうかな?
スゥ――大きく息を吸い込むと。
行け! 頼むぞアルマド……!
POOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
隠れていた鳥が羽ばたき出す。明かり取りの窓をくぐり抜けて、一直線に!
術の伝令か!? クッ……! だが、それとて間に合うか微妙なところ!
やれることはやった。勝敗はまだわからない。けどな、
俺は信じているんだ! あいつらの働きをな!
夜の王都を、飛ぶ、飛ぶ。一直線に。障害は何もない。
与えられし命に従い、ただ一つの機能となりて。弾丸のごとく、飛べ。飛べ……!
ええい、どーすりゃいいのよおおおお!
部屋が狭すぎる。弓を引く時間もなく、なんとか体術で敵を捌くが――
うおおおおぉァあああ!
覚悟ォーーーー!!!
キ・リ・が・ない!!
ぐ、うう……もう少しだけ耐えていてくださいククリ!
吹き飛ばされた衝撃からようやく立ち直ったアルマドが、フラフラと立ち上がる。
もう少しってどのくらいよ! 三年くらいかしら、ねッッ!?
おそらく……もう、すぐに!
根拠でも!?
ありません、ですが――
わたしは、信じていますからね! 彼の作戦を!!
一呼吸。その瞬間。
POOOOOOOOOOO!!
窓を突き破り弾丸のごとく飛び込んでくる小動物!
アルマドはこの鳥を生み出した術士本人。しからば、文など読む必要もなく、到着した時点で、全ては鮮明に頭の中へ――
竪琴を落とした哀れな羊使いの末路!!
その言霊が空間を支配し――
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――――
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襲いかかる依頼請負人は、“全て”意識を失った――
続く