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 涼くん……私ね……。今、凄く辛いよ。
 学校に行くのが、凄く辛いの。

 閉じていた瞼を開くと、いつものように眩しい笑顔を見せる涼くんの写真を見つめる。

夢ちゃん、お菓子どうぞ

 そう声を掛けられ、席を立って仏壇前から移動する。

ありがとうございます

 お菓子と一緒に出されたグラスを手に取ると、中に注がれたジュースをコクリと一口飲み込む。

夢ちゃん。学校は、楽しい?

 そう言って優しく微笑む涼くんのお母さん。

 今でも勿論綺麗なのだが、その頬は痩せこけ、本来の美貌は影を潜めている。

 涼くんが亡くなってから、私は学校に行けなくなってしまった時期があった。それは、小学校を卒業するまで続いた。
 涼くんと共に過ごした学校。そこに涼くんがもういないという現実が辛く、私にはどうしても受け止められなかったのだ。

 私は家に籠《こも》るようになり、外出するといえば涼くんの家に行く時だけになった。


 中学に上がる前のある日、私は涼くんのお母さんに泣きながら言われた。


『夢ちゃん、ごめんね。おばちゃんも頑張るから……一緒に、頑張ろう』


 何も悪い事などしていないのに、泣きながら謝るその姿を見て、初めて気が付いた。
 涼くんを亡くして私以上に辛いはずなのに、私の不登校が更に追い詰めているのだと。

『ごめんね、ごめんね……』と何度も泣いて謝る姿に、私は学校へ行く決意をした。


 ーー私は、頑張らなくてはいけないのだと。

はい。楽しいです


 私が笑顔でそう答えると、涼くんのお母さんは嬉しそうに微笑む。

そう。良かったわ


 そう言って目の前のグラスを手に掴んだ涼くんのお母さんは、グラスに注がれたお茶を口の中へと流し込んだ。




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