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奏多くんてさ、何でうちの高校来たのかな?


 オリエンテーションのグループ会議をしてる中、またも奏多くんの話しになる。

……え?

だってさぁ……。ほぼ満点の、入試トップだったらしいよ? そんなに頭が良いなら、他にもっと良い学校行けるでしょ

 確かに頭が良いのは知っていたけど、そこまでだとは思ってもいなかったので驚いた。

 確か……。

通学するのに、無駄な時間を使いたくないって……言ってた、かな?


 そう伝えると、

そうなんだー

と意外にもすんなりと納得してくれる。

夢ちゃんは、何でここにしたの?

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『セーラー服可愛いね』
『制服、気に入った? 』
『うん』
『夢なら絶対に似合うよ』

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 昔、涼くんとした会話を思い出す。

私は……。近いから、かな

 そう答えると、

朱莉

私も同じー

 とニコニコとしながら同意する朱莉ちゃん。

確かに、徒歩圏内はいいよね~

と羨ましがる由紀ちゃん。

楓くんは?

えー? それは勿論……。セーラー服が、エロ可愛いからだよっ

わかるーっ!

 楓くんの返答に同意した男の子達が、ゲラゲラと笑いながら騒ぎ出す。

朱莉

由紀は?

私は……。好きな先輩が、ここにいるから

朱莉

え~っ! 由紀って、超おとめ~!

もー! からかうの禁止だから~!

 二人の会話を聞きながら、私は涼くんを思い出して寂しくなった。

 私がこの学校を選んだ本当の理由は、昔涼くんが一緒に行けたらいいねって言ってくれたから。

 本当なら、今ここに涼くんがいたのかな……。私の横で、笑ってたのかな……。って、毎日考えてしまう。

あ! そうそう、この学校のジンクス知ってる?

朱莉

ジンクス? え、何なに?

屋上の外フェンスに一緒に鈴を付けた人は、一生離れず、仲良くいられるんだって

朱莉

それって、カップル限定じゃん。つまんなーい

 ブーブー言って、不貞腐れる朱莉ちゃん。

別に、友達でもいいんじゃない? 一生離れず仲良く、だから

朱莉

あ、そっか!

 そんな事を話していると、結局最後まで脱線した話しのまま、グループ会議は終了してしまった。

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朱莉

あっあれだ。……へ~意外と少ないんだね

優雨

まぁ、定期的に先生達が片付けてるんでしょ

朱莉

えー!? 片付けられちゃったら、意味ないじゃん……

奏多

とりあえず、出てみよう


『みんなで鈴付けよう』

 昨日、朱莉ちゃんにそう言われた私達は、昼休みに五人で集まって屋上へと来てみた。

 由紀ちゃんから聞いたこの学校のジンクスは、実際に見てみると私の想像とは少し違っていて、フェンスに付けられた鈴は三組みしかなかった。

優雨

本当にやるの?

朱莉

やるよー。鈴だって、ちゃんと買ってきたんだから


 そう言って皆に鈴を配り出す朱莉ちゃんは、私の掌に鈴を二つ置いた。

夢ちゃんは、二つ……?

 私の掌に置かれた二つの鈴を見た楓くんが、不思議そうな顔をする。

 昨日、鈴を買いに行くと言っていた朱莉ちゃんに、私は涼くんの分も欲しいと頼んだのだ。

うん。これは……涼くんの分

優雨

夢ってまだーー

 楓くんと私のやり取りを見ていた優雨ちゃんが何か言いかけて、

優雨

ううん。……何でもない

と少し寂しそうな顔で微笑む。

じゃあ、付けよっか


 楓くんの発した言葉を合図に、フェンスに取り付けた金具に皆で鈴を付けてゆく。

いつまでも、皆で一緒にいられるといいね


 ポツリと呟く優雨ちゃんの言葉を聞きながら、私は鈴を見つめてコクリと頷いた。

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 昼食の終わった私達が各クラスに戻る為に廊下を歩いていると、前からやってきた隼人くんがこちらに気付いて笑顔で近付いてきた。

夢ちゃん達、皆でお昼してたの?

うん

いいなー。今度俺も、誘ってい?

えっ……? あ……、うん

 ニッコリと微笑みながら腰を屈めて顔を覗き込む隼人くんに、やっぱりまだ少し苦手意識のある私は歯切れ悪く答えてしまう。

奏多

ダメだよ、夢。……こんな、よくわからない男と仲良くしたら

 突然腕を掴まれて引っ張られた私は、そのままよろけると奏多くんの方へと倒れ込んだ。

 そっと顔を上げてみると、私を受け止めた奏多くんと視線がぶつかる。
 優しい笑顔を見せる奏多くんは、

許さないよ

と言って私を掴む手に力を込めた。

よくわかんない男ってさー、酷くね? 俺、クラスメイトなんだけど。
……だいたいさ、二人はただの幼馴染なんでしょ? なんでそんな風に言われなきゃなんない訳?

 詰め寄る隼人くんを前に、鋭く睨みつける奏多くん。
 私の腕を掴む力は更に強くなり、ギリギリと腕に食い込んでゆく。

 廊下にいる生徒達からは、

え、何なに。……痴話喧嘩?

 などと言う声がチラホラと聞こえ、奏多くんと隼人くんのやり取りにオロオロと焦る朱莉ちゃん。

奏多

夢は、誰にも渡さない

……は? 何それ

 キリキリと痛み出した腕に耐えられなくなった私は、掴んでいる奏多くんの手を離そうとしてみる。
 けれど、隼人くんを睨みつけたままの奏多くんは、一向に離してくれる気配がない。

 痛さと恐怖で、涙が出そうになったその時ーー

優雨

奏多やめて! 夢が痛がってる!

 奏多くんの手を掴んで、離そうとしてくれる優雨ちゃん。
 それでも離れない手に、ついに私の瞳から涙が零れた。

奏多。いい加減にしな

 そう言って珍しく真顔になった楓くんは、奏多くんの手を掴むとアッサリと私の腕から離してくれる。

大丈夫? 夢ちゃん


 心配そうに私の腕をさすってくれる楓くん。

授業始めるぞー。皆、教室に入りなさーい


 いつの間にかやって来た先生の声で、廊下にいた生徒達が散り散りに教室へと入って行く。

夢ちゃん、行こう?

 優しく手を引いてくれる楓くんに連れられ、私はそのまま奏多くんを置いて廊下を後にした。



 その日の放課後、私は初めて奏多くんを避けて一人で帰宅したーー。

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 ーー次の日の朝。
 私は眠たい瞼を擦りながらも、早起きをしていつもより早く登校した。

 こんな風に避けていては良くないとわかってはいるものの、昨日の奏多くんを思い出しては溜息をつく。

 私、何か悪いことしちゃったのかな……。
 やっぱり今日、奏多くんに会ってちゃんと話そう。
 そう思いながら、目の前の下駄箱を開いた。

 下駄箱の扉を掴んだままの右手が、カタカタと小刻みに震えだす。


 目の前にある下駄箱の中には、ズタズタにされた私の上履きとーー

 その上に、鮮やかな赤文字が印刷された黒い紙が置かれていた。


 その黒い紙には、


【許さない】

 と、ただ一言だけが印刷されていた。

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