容赦なく照りつける太陽に、ジワリと汗が滲む。
額に流れる汗を片手で拭うと、私は持っていた麦わら帽子をかぶりなおした。
容赦なく照りつける太陽に、ジワリと汗が滲む。
額に流れる汗を片手で拭うと、私は持っていた麦わら帽子をかぶりなおした。
晴れてよかったぁ
前日まで降っていた雨が嘘のように、雲ひとつない青空を見上げて呟く。
楽しみにしていた林間学校が中止にならずに良かったと、思わず笑みがこぼれる。
ジリジリと照りつける太陽に、心地よい風が吹いてフワリと髪を撫でてゆく。
ーー気持ちいい。
あまりに心地よい風に、そっと目を閉じると両手を広げてみる。
川の流れる音、鳥のさえずり、緑の匂い。
それらを肌で感じ、風に乗ってまるで空を飛んでいるかのような感覚。
本当に飛べたらいいのになぁ……。
そんな事を考えていると、少し強めの風にあおられ足元がぐらつく。
……あっ
倒れる。そう覚悟した時、後ろから誰かに肩を掴まれた。
ーー夢、大丈夫?
そう声を掛けられ、倒れないよう支えてもらったことに気付く。
うん。……ありがとう、涼くん
ホッと胸を撫で下ろしながら振り返ると、ニカっと爽やかに笑う涼くんと目が合った。
涼しげな目元に通った鼻筋、小麦色に焼けた肌がよく似合う。
整った顔立ちながら、その嫌味のない笑顔には思わず見惚れてしまう。
皆もう先に行っちゃったから、俺らも急ごう
そう言った涼くんの目線を辿ると、先生に引率された生徒達が楽しそうに話しながら川辺を歩いている姿が見える。
うん
背負っているリュックを軽く背負い直すと、私は涼くんと並んで歩き出した。
足元悪いから、気をつけて
うん、ありがとう
差し出された手に自分の手を添えると、涼くんはそれをキュッと握りしめた。
その行為が何だか凄く恥ずかしくてーーでも、凄く嬉しくて。
私はいつまでも、そうしていたいと思った。
ーーーーーーー
ーーーーー
夢ってさぁ、涼の事好きなの?
……えっ?!
突然の質問に、驚いた私は軽く地面に刺さっていたペグを引き抜いてしまう。
あぁ、やっと刺さったと思ったのに……。
なんて思っていると、少し強めの風にテントがぐらつく。
わぁー! ちょっ……夢。何やってるの!
焦る朱莉ちゃんの声に、ハッとする。
……あっ。ご、ごめんね
急いでテントの端を掴むと、またペグを打ち込む作業に戻る。
けど、中々上手く刺さってくれない。
ーーけどさ、涼は絶対に夢の事好きだよねー
カンカンカンカン
ペグを打ち込みながら、また朱莉ちゃんが話し始めた。
優雨もそう思うでしょ?
……そうだね
興味がないのか、素っ気なく答える優雨ちゃん。
私はこの会話が恥ずかしくて、ただ黙々とペグを打ち込む作業を続ける。それにしても、刺さってくれない。
カンカンカンカン鳴り響くだけで、ペグは中々埋まってゆかず、ただただ右手の疲れが増す一方。
できたー!
と言う朱莉ちゃんの声に焦って自分の手元を見てみると、ペグはまだ半分も刺さっていない。
ーー私がやるよ
いつの間にいたのか、自分の分のペグを刺し終わった優雨ちゃんが、すぐ隣にしゃがんで笑顔で右手を差し出してきた。
大人っぽい顔立ちの優雨ちゃんの、その整った顔から作り出される笑顔は、とても優しい表情をしている。肩まである髪の毛を耳にかける仕草が、妙に大人っぽく感じてドキリとする。
えっ。でも……
大丈夫だよ
自分の担当分くらいはやらなくてはと申し訳なく思っていると、優雨ちゃんは優しく微笑み大丈夫だと言ってくれる。
本当に頼んじゃってもいいのかな……?
そんな事を考えていると、優雨ちゃんの視線が私からその背後へと移動した。
どうしたのかとその視線を辿って振り返ってみると、そこには私を見下ろす涼くんが立っていた。
俺がやるよ
ニカッと笑った涼くんは、私の手に握られたペグハンマーを取ると、一気にペグを打ち込んでいく。
あっという間にペグを打ち込み終わった涼くんは、
はい、これで終わり
とペグハンマーを私の手に戻すと、その場を立ち去って行く。
あっ。……ありがとう!
少し離れたところにいる涼くんの背に向けてお礼を告げると、振り返った涼くんが笑顔で手を振ってくれる。
私が小さく手を振って応えると、それを確認した涼くんは自分のテントへと帰っていった。
……ね? 言ったでしょ? 涼は夢が好きなんだよー
小首を傾げながら、私の顔を覗き込む朱莉ちゃん。
その大きな目を上目遣いにしてクスクスと笑う姿は、とても可愛らしい。
私は恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じて俯いた。
もう、朱莉。いい加減、夢をからかうのはよしなさいよ
はーい
未だに朱莉ちゃんはクスクスと笑ってはいるものの、優雨ちゃんのお陰でやっとこの会話が終わる。
そう思うと、熱かった顔から徐々に熱がひいてくる気がした。
そっと自分の頬に両手で触れてみれば、それはいつもと同じ体温で……。
良かった、と一人胸をなでおろした。
テントが出来た班は、夕食の準備を始めなさーい
頬に触れていた両手を下へおろすと、声のした方に目を向けてみる。
すると、何やら遠くの方で先生が次の指示を出している姿が見える。
周りを見渡してみると、もう夕食作りに取り掛かっている子達がチラホラと目に入ってくる。
私達も行こうか
うん
うん
優雨ちゃんに促され、自分達の班に割り当てられた屋外キッチンへ行くと、そこには既に人数分の食器が揃っていた。
きっと、私達より先に来た誰かが用意してくれたのだ。
そう思って見渡してみれば、そこには見覚えある後ろ姿が……。
……あっ!やっと来たんだねっ
私達の気配に振り返った楓くんが、笑顔で出迎えて近づいてくる。
涼達は、炭と食材取りに行ってるよ
目の前でピタリと立ち止まった楓くんは、可愛らしい笑顔でそう告げた。
女の私よりも、可愛らしい顔立ちをした楓くん。
楓くんを初めて見る人は、女の子だと勘違いするかもしれない。
左目の泣きぼくろが、その顔立ちによく似合っている。
食器は楓が持ってきてくれたの? ありがとう
さすが、うちの班の男子達は頼りになるねー。楓、ありがとう
どういたしまして
優雨ちゃんと朱莉ちゃんがお礼を言うと、楓くんはにこりと微笑んだ。
楓くん、ありがとう。遅くなっちゃってごめんね
大丈夫だよ、夢ちゃん
来るのが遅くなってしまった事を申し訳なく思い謝ると、楓くんは優しく微笑んでくれる。
じゃあ、涼達が帰ってくる前に食器洗ってようか
そんな朱莉ちゃんの言葉を合図に、それぞれが食器を持って流しへと移動を始める。
涼くん達に準備させてばかりでは悪いと思った私は、その分料理を頑張ろうと小さく心の中で気合いを入れると、食器を持って流しへ持って行こうとした。
ーー夢
不意に後ろから名前を呼ばれ、食器を持ったまま振り返る。するとそこには、食材を抱えて戻ってきた奏多くんが立っていた。
澄んだ切れ長の瞳に、キリッとした表情と凛とした佇まい。抱えている食材が何だか似合わなくて、私は思わずクスリと笑みを漏らす。
奏多くん、食材ありがとう
? ……うん
一瞬不思議そうな顔をした奏多くんは、少しの間を置くといつも通りの表情に戻って頷いた。
その後、皆で食器や食材を洗っているとすぐに涼くんも戻ってきて、お腹が捩《よじ》れる程に大笑いし合った夕飯作りは本当に楽しかった。
私の顔に、泡を付けてくる朱莉ちゃん。
お返ししようとしたら、なぜか優雨ちゃんに付いちゃって。それを見て笑う涼くん。
夢中で火起こししていたら、いつの間にか顔中が煤《すす》だらけでーー。涼くんと二人、顔を見合わせ笑い合った。
私が包丁を握ろうとしたら、危ないからと使わせてくれない奏多くん。
そんな奏多くんに呆れ顔の優雨ちゃんは、優しく私に包丁の使い方を教えてくれた。
よくわからない虫が飛んできた時は、ビックリして少し涙が出ちゃったけど、大丈夫だよって優しく楓くんが追い払ってくれた。
料理が上手く出来たと、朱莉ちゃんと二人で喜んでハイタッチ。私がおたまを持ったままだったから……カレーが飛び散っちゃって、皆んなに少し怒られたりもしたけど。
初めてのキャンプでする料理はとても楽しくて、六人で作ったカレーは本当に美味しくて……。
また皆でキャンプができたらいいなってーー心から思った。
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