31 少女の告白2
31 少女の告白2
私は物音が聞こえなくなっただけで、あの人がいなくなったと思い込んでしまったの。あの時は、私も冷静じゃなかったから……
あいつは……お前を待ち伏せしていたのか
多分ね………私はその可能性を失念していた。私が彼らを刺す直前に、あの人が声をかけてきたの。
驚いた私はナイフを血だまりの中に落としてしまったの。これで血塗れのナイフは出来たんだよ
ソルは目を細めて彼女の言葉に耳を傾ける。
現場で発見されたという血濡れのナイフ。
凶器の可能性が高いと言われていたそれの真相は、彼女が現場に落としただけのナイフだった。
それが凶器であると見られているそうだ。血塗れのナイフは、血だまりに落としたってだけだったのかよ。それで刺してなかったのか
そうだよ。そのナイフでは刺してない。あの人が使っていた凶器は、今もあの人が持っているはず。それが本物の凶器だね……
………
あの人は怪我をしていたよ。足を引きずっていた。それでも、私が子供で、相手が大人であることは変わらないよね?
正面で戦うなんて自殺行為はできない。かと言って、逃げるなんて選択肢もなかった
それで……
あの二人にナイフを突き立てるのは後回し。だって私にとって、あの人は邪魔な存在だったから。邪魔者をどうにかすることが先決だと判断した。
私の手ではどうすることも出来ないけど、地下書庫に突き落として閉じ込めてしまえば、時間が彼を殺してくれる。そう思ったの。幸い、父さんが放ってくれた炎もあるしね。
火事を起こしたのは父さんだけど、これも私の罪に差し替えられる
ソルはゾッとするものを感じて、彼女の頭から手を離していた。
エルカは離れた手を一瞬だけ、名残惜しそうに見ていた。しかし、すぐに表情を元に戻す。
先ほどからエルカは嬉々としていて楽しそうに話していた。幼い頃、物語の内容をソルに告げていたときのような無邪気な笑顔で。
早口で事件の内容を語る。
そ、そして………お前は
確認することが怖い。
そう思いながらソルは彼女に問いかける。
彼女に確認しなければならないことがあったのだ。
オレの父さんを地下書庫に閉じ込めたのか
その言葉に、エルカの笑みが深まる。
誇らしげな表情を見た瞬間、ソルの背中に寒気が走った。
そうだよ。あれはソルが来る直前だったね。あの人は怪我をしていたし、扉を開いてすぐに急な階段があるとは思わなかったのでしょうね。
簡単だった。私は地下に突き落として鍵をかけた。そこで、ソルと再会した。ソルが、それに気付くのは意外だったな………以上が私の告白です
エルカと再会したときに聞こえた物音、
あれは父親が転げ落ちた音だったのだ。
あの時、エルカは鍵をかけてそれを投げ捨てていた気がする。
話はこれで終わったのだろう。
エルカはソルから離れて、再び優雅なお辞儀をする。
これが、お前しか知らない真相だな
そうだよ……これを全部まとめて、一言にすると……
…………全員、私が殺したのよ
自らの罪の告白を終えたエルカは、嬉しそうに口元に笑みまで浮かべていた。
しかし、ソルを見据える双眸は濁ったままで光を失っている。
な、何でそうなるんだよ。お前はあの二人を刺していないのに、どうして……
言いながらソルはエルカに歩み寄った。
エルカは二人を刺す直前にあの男と接触した。
そして、その場を離れている。
だから彼女は遺体に触れていない。
それがどうして、全員を殺したことになるのだろうか。誰も殺していない。
困惑するソルの瞳に、エルカの無邪気な笑みが返される。
結果的にそれが真実になるからだよ。ちがう、私は、それを、真実にするの
違うだろ………やめてくれ
エルカが視線を上げると、涙でぐしゃぐしゃになったソルの顔があった。
年上の男の人に泣かれると困るのに、こんな顔をされたら、もう何も言えなくなってしまう。