21 引き篭もりの扉の前で2

コレット

あの子はひねくれているから……本当は助けて欲しいのに、自分からは助けを求めることができないの。

コレット

助けて欲しいから、貴方が扉を開けられるようにしているの

ソル

………

 ソルは俯いて奥歯を噛み締める。


 エルカとソルは同じなのだ。本当の気持ちを伝えることが出来ない。
 そもそも、自分の気持ちに自分が気付いていない。


 それなのに、相手に自分の気持ちに気付いて欲しいと思っている。


 傲慢で心の弱い彼女は、ソルと同じだった。
 

コレット

あの子は誰かが手を引っ張ってあげなきゃ這い上がれないの。だから、お願い

ソル

母親なんだろ! 貴女がやればいい

コレット

………

ソル

……あ、ごめんなさい

 ふいに、コレットは息を飲んだ。

 叫んだ言葉が、失言だったことに気付きソルは視線を逸らす。


 コレットには出来ない理由があるのだろう。魔女という驚異的な力を持っていても彼女には娘を連れ出すことが出来ないのだ。


 だから、こんなにも手が震えている。

コレット

残念ながら私は拒まれる。今のエルカにとっての家族はソルくんと、ナイトくんだけだから……ね。

コレット

今、ここにいるのは貴方なのよ。それに、この事件についてはソルくんが相手の方があの子も素直になれるはず。あの子の兄として、行ってあげて

ソル

…………わかったよ。さっきは酷いことを言ってしまってすみません。貴女にも事情があるのに

コレット

良いのよ。私がやっていることは、貴方に面倒を押し付けているだけだもの

ソル

オレで出来ることなら………って、病室でも誓ったのに情けないな。ほんと、臆病だよ。すぐに挫けて押し付けて逃げ出して………でも、もう一度踏み出したい

コレット

挫けても、貴方は前に進むと信じていたわ。ごめんなさいね、これ以上踏み込めば、貴方も無事では済まないのに

ソル

それは構わない……オレはオレが出来ることをするだけだ……もしもそれでオレも目覚めないままになっても……後悔はしないよ

 視線に押されながら、ソルは自分の意思で頷いていた。


 ソルには何の力もない。それどころか、役立たずで無能な男だった。


 そんな自分を変えなければと何度も思っていた。エルカの兄として胸を張れるような、ナイトの兄弟として恥ずかしくないような自分になりたかった。



 ソルは、両の手を握り締める。


 まだ、心の奥底では不安な気持ちが蠢いている。

 失敗することの恐怖は拭えない。その気持ちを抑えるように、強く手を握り締めた。

コレット

これはね、貴方にしか出来ないことよ。ナイトくんにはお父様の加護でエルカを護る力を得ている。でも、貴方は違っていた……

ソル

……オレは違う?

コレット

あの子と似ているからかしら。不思議なことに私がほんの少し手助けをすることで、あの子の本を開くことができるのよ

ソル

本……図書棺にあるという、人の人生や記憶が書かれた本か

コレット

そうよ………この扉の先にはあの子の本があるわ。まずは、それを開くのよ。貴方は無能でも役立たずでもない

ソル

人の心を読まないでくれよ………でもさ、これって……傍迷惑な力じゃないのか? 本人しか開けないはずの本を開けるって

コレット

これも、魔女がもたらす奇跡と思って。深く考えてはダメよ

ソル

はいはい

コレット

きっと貴方の知る真相とあの子の知る真相は同じもの。ただ、別の解釈をしているというだけ。

コレット

貴方は真犯人に心当たりがある。そしてあの子は真犯人を知っている。ナイトくんには見当もつかないでしょうね

ソル

………コレットさんは、全部お見通しなんだろうな

コレット

それは私の予想でしかないことよ。だから、予想の答え合わせをさせて欲しいのよ。さて、見せて頂戴……エルカの見た世界を

 コレットがしたり顔で微笑む。

 ソルは呆れ顔を浮かべながら扉の鍵を開いた。

 何処から、何処までがコレットの思惑通りなのだろうか。


 考えるだけで頭が痛くなる。


 彼女の言う通り、魔女のやることに疑問を抱かない方が良いのかもしれない。




 静かに開かれた重い扉の向こう。

 床の上に一冊の本が置かれていた。

 この本に、エルカの見た事実が描かれているのだ。


ソル

………

 ソルは手に取ると、息を飲みこんでから本を開いた。

第2幕-21 引き篭もりの扉の前で2

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