視界がぼやけて色が滲んで見えるだけの景色。夢なのか現実なのかもわからない意識の中で体を動かそうとした。しかしまったく動かない。体中が何かに包み込まれているような感覚。
 瞬きを数度繰り返すと、滲んだ景色がその度に鮮明になっていく。
 

燈莉

……ここは?

 見慣れない場所だったが、ここがどこかは理解することができた。病院だ。
 まず自分はなぜここにいるのかと、考えを巡らせてみる。
 ライブで演奏をした。反省点が多かったが自分なりに楽しむことができた。ティモのライブを久々に見た。相変らず歌が上手かった。以前にも増して技術力が洗練されていた。
 そしてライブが終わり……

燈莉

あっ……

 断片的な記憶を辿り、脳裏にある情報をかき集めた燈莉は、自分が何故ここにいるのかを理解した。その直後に寒気に似た感覚と不安が錯綜する。
 楽観と悲観、様々な可能性を考えると、正気を保てなくなりそうになった。
 その時、部屋の扉を開ける音がした。足音からこちらの方に向かってきているのがわかる。

聖夜

と、燈莉!!

 最初は一切感情の張り付いていない顔をしていた聖夜だったが、意識を取り戻した燈莉を確認すると、堰を切ったように玉のような涙をこぼし始めた。

聖夜

よかった……よかったわぁ……

 聖夜はあたりかまわず大声で感情をあらわにする。

燈莉

なんか、心配かけたみたいでごめん

聖夜

とりあえずな、みんないてるからちょっと呼んでくるわ!

 言うなり聖夜は駆け出して行った。途中で走らないようにと看護師に怒られている声が聞こえたが、お構いなしに走って行ったのだろう。
 窓越しに外を見るとまだ明るい。自分の目に見える範囲に時計がないので時間がわからないが、大体昼前後だろうか。体を起こそうとしたが、少し動かそうとしただけで痛みが激しく襲うので断念した。
 そうこうしているうちに、部屋の外が騒がしくなっていることに気づいた。

都流樹

燈莉ーーーー!!!

天羽

目が覚めたのですね。よかったです

 都流樹と天羽が目を覚ました燈莉に駆け寄ってきた。 
 その中にもう一人……いつもいるはずの姿はない。

燈莉

都流樹さんと天羽ちゃんにも心配をかけてしまって……

都流樹

いやいや、話を聞いて一時期はどうなることかと思ったけどな。とりあえず安心したぜ

天羽

そうですよ!結構本気でご飯が喉を通らなかったのですよ!!

 燈莉が辛そうに声を出していることに気づいた聖夜は、喜びを隠せない二人を制した。

聖夜

燈莉はまだ目を覚ましたばっかりやからな。あんまり無理をさせたらあかんで

燈莉

みんなありがとう。ところで瑠華は……?

 燈莉のその一言で、全員の顔から微笑みが剥がれた。

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