十二歳の日向が

十七歳の日向に重なる


淡い光に包まれて

十二歳の日向は姿を消していた



僕と葵さんの前には

枯れたヒマワリが横たわっていた

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

ヒマワリ……枯れていたんだ

葵 日向(アオイ ヒナタ)

うん、真っ黒だよね

葵 日向(アオイ ヒナタ)

きっと東野くんの目には、キレイなヒマワリが咲いていたんだね

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

葵さん、身体は大丈夫?

葵 日向(アオイ ヒナタ)

何だか、ポカポカする

葵 日向(アオイ ヒナタ)

それと色々思い出して、頭がパンクしそう

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

休んだ方が良いね

葵 日向(アオイ ヒナタ)

うん、少し眠ろうかな

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

そこに休憩所があるから行こう

葵 日向(アオイ ヒナタ)

うん、でも、その前に………

葵 日向(アオイ ヒナタ)

五年前、ごめんね……私、酷い事たくさん言って

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

気にしていないから、大丈夫だよ

葵 日向(アオイ ヒナタ)

ほんと、優しいんだから

葵 日向(アオイ ヒナタ)

それと………

葵 日向(アオイ ヒナタ)

………日向って呼んで

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

え?

葵 日向(アオイ ヒナタ)

太陽くんには、日向って呼んで欲しいんだ

葵 日向(アオイ ヒナタ)

思い出した………

葵 日向(アオイ ヒナタ)

太陽くんのことが好きな、日向の記憶……事故の怖い記憶は一瞬で。ほとんど太陽くんのこと、そればかりで

葵 日向(アオイ ヒナタ)

幼稚園でのプロポーズとか、一緒にお風呂に入って嬉しかったこととか、バレンタインのチョコを褒めて貰ったこととか

葵 日向(アオイ ヒナタ)

やだ、うわあ……恥ずかしい

彼女は突然、顔を赤らめると

手をバタバタさせながら走り出す。

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

えっと……葵さ

葵 日向(アオイ ヒナタ)

日向!

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

ごめん、日向……休んだら……ご両親に連絡しよう

葵 日向(アオイ ヒナタ)

私たちの交際の話?

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

………記憶が戻った瞬間にそんな冗談言わないでくれよ

葵 日向(アオイ ヒナタ)

ハハハ……太陽くん、膝枕してくれる?

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

仕方ないな………

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

えーっと

僕は、日向を膝枕しながら

持っていたタブレットを開いた

葵 日向(アオイ ヒナタ)

何しているの?

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

電子書籍で参考書をダウンロード……日向の為に良い大学行かないといけないだろ? 今からでも間に合うかな

葵 日向(アオイ ヒナタ)

太陽くんなら大丈夫だよ

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

ガリ勉生活を五年もサボっているんだ。たくさん頑張らないと

葵 日向(アオイ ヒナタ)

太陽くん、ありがとう

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

葵 日向(アオイ ヒナタ)

……五年間、十二歳の日向を大事にしてくれて

葵 日向(アオイ ヒナタ)

太陽くんが覚えていたから、十二歳の私はずっとここにいたんだよ

葵 日向(アオイ ヒナタ)

太陽くんが忘れてしまったら、十二歳の私は居場所がなかった

葵 日向(アオイ ヒナタ)

私も忘れていた、パパとママは忘れようとしていた、十二歳の私

葵 日向(アオイ ヒナタ)

誰の記憶からも消えてしまったら、十二歳の私は永遠に消えていたと思うの

葵 日向(アオイ ヒナタ)

繋ぎ止めていてくれてありがとう

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

臆病だっただけだよ

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

僕を覚えていない日向に拒絶されて……僕は居場所を求めていた

葵 日向(アオイ ヒナタ)

………

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

ここに来たら、十二歳の日向が微笑んで待っていてくれた

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

僕は日向を護れなかった、だからせめて、その笑顔を護りたくて

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

僕は毎年ここに来ていたんだよ

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

僕に微笑みかけてくれる、十二歳の日向に会う為に

葵 日向(アオイ ヒナタ)

優しい太陽くんが、私は好き

葵 日向(アオイ ヒナタ)

大好き

葵 日向(アオイ ヒナタ)

五年間、言えなかった分……たくさん言わせて………大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

恥ずかしいから、それぐらいにしてくれ

葵 日向(アオイ ヒナタ)

へへへ

五年、繰り返されていた夏が
幕を下ろした



もう、ここで
十二歳の彼女の笑顔は待っていない




でも、大丈夫


十七歳の彼女が
あの頃に負けない笑顔を浮かべて

ここにいる。

すぐ、そばにいる。

葵 日向(アオイ ヒナタ)

これからも一緒にいようね、太陽くん

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

ってことは、同じ大学に行くんだな

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

日向のレベルに合わせた大学を……

葵 日向(アオイ ヒナタ)

え? 大学には行かないよ! 私は専業主婦になるんだから

葵 日向(アオイ ヒナタ)

主婦だから「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」を言うのが仕事だよ

葵 日向(アオイ ヒナタ)

大学から返って来た太陽くんと夕飯の買い出しにスーパーのタイムセールに行くの

葵 日向(アオイ ヒナタ)

週末は一緒にお掃除洗濯しようね

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

僕は、どこを突っ込めば良いんだ?

葵 日向(アオイ ヒナタ)

突っ込むところなんて、ないでしょ

日向は僕の膝の上で、
ヒマワリのような笑顔を僕に投げかけると、
手を伸ばして来た。


僕はその手を握りしめていた。


あの時、僕が手を握ると、
記憶を失った彼女はその手を叩いた。






痛かった


叩かれた手と、心が痛かった。







それを思い出したから、

力なく握りしめていた。



また、叩かれるのか
そんな不安がよぎったから。




その手を彼女は力強く握る。

痛いぐらいに強く。


だから、僕も

力をこめて握っていた。















一度、離れた僕たちは
離れていた五年間がなかったかのように




互いの存在を確かめ合っていた。



葵 日向(アオイ ヒナタ)

離さないよ、太陽くん

東野 太陽(ヒガシノ タイヨウ)

僕も離さないから、日向

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