十二歳の日向が
十七歳の日向に重なる
淡い光に包まれて
十二歳の日向は姿を消していた
僕と葵さんの前には
枯れたヒマワリが横たわっていた
十二歳の日向が
十七歳の日向に重なる
淡い光に包まれて
十二歳の日向は姿を消していた
僕と葵さんの前には
枯れたヒマワリが横たわっていた
ヒマワリ……枯れていたんだ
うん、真っ黒だよね
きっと東野くんの目には、キレイなヒマワリが咲いていたんだね
葵さん、身体は大丈夫?
何だか、ポカポカする
それと色々思い出して、頭がパンクしそう
休んだ方が良いね
うん、少し眠ろうかな
そこに休憩所があるから行こう
うん、でも、その前に………
五年前、ごめんね……私、酷い事たくさん言って
気にしていないから、大丈夫だよ
ほんと、優しいんだから
それと………
………日向って呼んで
え?
太陽くんには、日向って呼んで欲しいんだ
思い出した………
太陽くんのことが好きな、日向の記憶……事故の怖い記憶は一瞬で。ほとんど太陽くんのこと、そればかりで
幼稚園でのプロポーズとか、一緒にお風呂に入って嬉しかったこととか、バレンタインのチョコを褒めて貰ったこととか
やだ、うわあ……恥ずかしい
彼女は突然、顔を赤らめると
手をバタバタさせながら走り出す。
えっと……葵さ
日向!
ごめん、日向……休んだら……ご両親に連絡しよう
私たちの交際の話?
………記憶が戻った瞬間にそんな冗談言わないでくれよ
ハハハ……太陽くん、膝枕してくれる?
仕方ないな………
えーっと
僕は、日向を膝枕しながら
持っていたタブレットを開いた
何しているの?
電子書籍で参考書をダウンロード……日向の為に良い大学行かないといけないだろ? 今からでも間に合うかな
太陽くんなら大丈夫だよ
ガリ勉生活を五年もサボっているんだ。たくさん頑張らないと
太陽くん、ありがとう
?
……五年間、十二歳の日向を大事にしてくれて
太陽くんが覚えていたから、十二歳の私はずっとここにいたんだよ
太陽くんが忘れてしまったら、十二歳の私は居場所がなかった
私も忘れていた、パパとママは忘れようとしていた、十二歳の私
誰の記憶からも消えてしまったら、十二歳の私は永遠に消えていたと思うの
繋ぎ止めていてくれてありがとう
臆病だっただけだよ
僕を覚えていない日向に拒絶されて……僕は居場所を求めていた
………
ここに来たら、十二歳の日向が微笑んで待っていてくれた
僕は日向を護れなかった、だからせめて、その笑顔を護りたくて
僕は毎年ここに来ていたんだよ
僕に微笑みかけてくれる、十二歳の日向に会う為に
優しい太陽くんが、私は好き
大好き
五年間、言えなかった分……たくさん言わせて………大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き
恥ずかしいから、それぐらいにしてくれ
へへへ
五年、繰り返されていた夏が
幕を下ろした
もう、ここで
十二歳の彼女の笑顔は待っていない
でも、大丈夫
十七歳の彼女が
あの頃に負けない笑顔を浮かべて
ここにいる。
すぐ、そばにいる。
これからも一緒にいようね、太陽くん
ってことは、同じ大学に行くんだな
日向のレベルに合わせた大学を……
え? 大学には行かないよ! 私は専業主婦になるんだから
主婦だから「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」を言うのが仕事だよ
大学から返って来た太陽くんと夕飯の買い出しにスーパーのタイムセールに行くの
週末は一緒にお掃除洗濯しようね
僕は、どこを突っ込めば良いんだ?
突っ込むところなんて、ないでしょ
日向は僕の膝の上で、
ヒマワリのような笑顔を僕に投げかけると、
手を伸ばして来た。
僕はその手を握りしめていた。
あの時、僕が手を握ると、
記憶を失った彼女はその手を叩いた。
痛かった
叩かれた手と、心が痛かった。
それを思い出したから、
力なく握りしめていた。
また、叩かれるのか
そんな不安がよぎったから。
その手を彼女は力強く握る。
痛いぐらいに強く。
だから、僕も
力をこめて握っていた。
一度、離れた僕たちは
離れていた五年間がなかったかのように
互いの存在を確かめ合っていた。
離さないよ、太陽くん
僕も離さないから、日向