（この作品は『仮面ライダーＷ』の二次創作作品です。実在の人物、事件等との関係はありません）
（この作品は『仮面ライダーＷ』の二次創作作品です。実在の人物、事件等との関係はありません）
【2017年、風都。左翔太郎】
あ～あ、だりぃなぁ
俺、左翔太郎（ひだり しょうたろう）は午後の陽だまり（コーヒー）に束の間のミルクを垂らす。旧年を越えた今年２０１７年も、こいつのようになかなか香（かぐわ）しい。つまりは平和だ。
って、おい！ いい加減仕事こねぇと飢えるぞ。ああもう！ なんかやってねぇかな
午後１番のニュースは、俳優『ライト』を映している。
かつての相棒（フィリップ『芸名・ライト』）は、今じゃ世間をちっとは賑わす『アイドル』になっている。それが悔しくも恥ずかしくて髪をかきむしる。不意に気になり手鏡で確認。短く刈った癖毛に黒いグラサン、綺麗に整えたあご髭。なかなかにイイ男が映っていやがる。ちなみに教えておくが、グラサンは男のポテンシャルだ。
あいつに集（たか）るのもいい加減にしねぇとな。じゃねえと、イイ男が廃（すた）っちまう
２０１０年。今から７年前の大戦を境に、俺たち２人は『ライダーを辞めた』。辞めざるを得なかった事情もある。
まぁ、日常の仕事もちまちま入るが、やれ『猫探し』やれ『犬探し』だ。たまに高額なモノも無いわけじゃないが、ライダーの頃と比べたら桁が少ない。
だからと言って、『ドーパント』が出てきても何も出来ねえんだよなぁ
『ドーパント』とは、７年前世界を恐怖に陥れた怪人だ。俺たちはなんだかんだで『そいつら』を駆逐し平和を得ることに成功した。
デスクを前に最近小ぎれいにした天井を眺める。昔のぼろい天井も今じゃ白く綺麗にされている。
……あれから７年、か
机に置いてある愛用の黒いソフト帽を指で回す。
俺、少しは帽子が似合うようになってるかな。……おやっさん
今は亡き師、鳴海荘吉（なるみ そうきち）を想った。誰よりも強く、誰よりもカッコ良かった『風都（ふうと）の仮面ライダー』を。
翔太郎くん大変！ じ、事件だよ！
赤子を抱いた女性が事務所のドアを乱暴に開け放つ。息も荒く何かの『リード』を持っている。
おお亜樹子（あきこ）。依頼されてた猫ちゃん見つかったのか？ いいぜ！ 俺も手伝ってやる。なぁ～♪ 猫ちゅあ～ん猫ちゃあ～～ん♪ ッテ～なぁ！
歩み寄りハードボイルドな俺をスリッパで打ったのは俺の職場『鳴海（なるみ）探偵事務所』の所長『照井亜樹子（てるい あきこ）』だ。師、鳴海荘吉の娘で今じゃ立派にお母さんをやっている。こいつは誰が相手だろうとスリッパで叩きやがる困った猫ちゃんだ。
だ～れ～が猫ちゃんか！ おっさんになってもまだまだ『ハーフボイルド（半熟野郎）』なんだから！ そうじゃないよ！ ドーパントが出たんだよ！
ど、ドーパントだと！ 照井（てるい）も居ねぇこんな時に！ ど、どうすんだよ！
とにかく現場に向かうよ翔太郎くん！
※※※
ウァァアアアアッ！！
風都（ふうと）市郊外の線路上にそいつは居た。
炎を吐く魔人。辺り構わず炎を吐き出して路面を破壊している。間違いなく『ドーパント』だ。メモリは何だ？ 『ファイア』？ 『フレイム』？ 最悪の場合『ボム』か。
『Ｈ』ヒート・メモリドーパントだ。翔太郎
フィリップ！
フィリップ君。早いじゃない！
お前仕事はどうしたんだ？ 仕事を途中で抜け出すような奴を俺は許さないぜ？
仕事かい？ ああ、アキちゃんから話を聞いて辞めてきたよ
はぁ？ あ、アイドル辞めてきたのかお前！
ああ
だ、だってお前、姉ちゃんの跡を継いで園咲（そのざき）を、
御託はいいよ翔太郎。解ってるだろう。僕達は何だい？ この風都の
そうだ。俺たちがこの街を守らなきゃいけない。何故なら、今は俺たちがこの街の『仮面ライダー』だからだ！
早速変身だ。翔太郎
フィリップが変身の為のアイテム『サイクロン・メモリ』を懐から取り出してみせる。
仮面ライダー『わろす』に
っておいッ！ おまえ、芸能カブレも大概にしろよ！ 『グラ○ル』だか、『あ～う～』だか知らねえが、ちびちび売れてきたからって調子に乗りやがって！
そんな事より翔太郎。僕達の『ダブルドライバ』は何処だい？
そ、それは、
話せなかった。フィリップ（こいつ）にも。おやっさんに返したあの『ロストドライバ』の事は。それを聞いたら、こいつは命を賭（と）して心配してくれるからだ。『ダブルドライバ』を失ったのは、それよりも前の事になる。
おやっさんと『ロストドライバ』の事はいつか話さないといけないだろうが、今はダメだ。
って！ 俺たち、『ダブルドライバ』だって持ってネーじゃねえか！ 『エクストリーム・メモリ』も！ いったいどうすんだよ！
だからそう言ってるじゃないか？ あまりの売れなさに壊れたかい？
お困りのようだね？ お兄さん達♪
――ゆっくりと、歩み来る影が在った。茶髪あどけない顔の少女だった。
誰だ？ 嬢ちゃん、ここは危ない。とっとと御家に帰りな
『ハンフリー・ボガート』のように、渋くソフト帽を被って少女に避難を促す。どんな事をしても、この街は、人間は俺たちが守ってみせる！
すっごい間抜けな台詞だね？ 何の『チカラ』も持たないのに。ここは『助けておぜうさん！』でしょお？ 左翔太郎（ひだり しょうたろう）さん♪
……誰だお前？ なんで俺の事を？
まあいいからいいから！ あたしの『ドライバ』譲ってあげる。今ならトイチでいいからさ
少女が俺たち２人へ渡したのは、『ダブルドライバ』に酷似した２本のベルトだった。
２人で変身しちゃって。これは『ダブルドライバ』と違って、『２人が完全に１人になる』代物だから抜け殻の相棒を守る必要は無いよ。２人とも『メモリ』は持ってるんでしょ？
って、なんで、お・ま・え・が・それを知ってんだよ？ 園咲（そのざき）の人間か？
……違うな。彼女は僕の『本棚』に載ってない人物だ。キミ、これは今まで通りに変身してもいいのかい？
うん♪
って、なんでこの状況に順応できるんだお前ら！ まぁいい。行くぞ『フィリップ』！
ああ
謎の少女が足早に駆けていく。それを見送ってから俺たちは顔を見合わせた。
フィリップが左手に『サイクロン・メモリ』を構える。
【『Ｃ』サイクロン！】
長年大事にしまっておいた『メモリースティック』、Ｔ２『ジョーカー・メモリ』に息を吹きかけ、相棒の隣りに並び、右手に構える。
【『Ｊ』ジョーカー！】
駅のプラットホームから謎の少女が大きく手を振ってジェスチャーを送ってきた。
メモリをドライバに挿したら、ドライバを『開く』んじゃなくて、2人同時にドライバの本体を『左に倒して』！
フィリップは自身のベルトの右側スロットに、俺は左側に設けられたスロットに、それぞれメモリを差し込み、2人同時にドライバを左へ倒した。
変身！
【サイクロン×ジョーカー】
鋼の衣が俺たち2人を1つのライダーとして包み形成していく。
――この日、俺たちは７年前のあの日のように、『２人で１つのライダー』に変身したんだ。
プラットホームの高台から何処か俺たちを見下すように、あの少女の声が届いた。
……完成したよ、お兄ちゃん
『（Ｈ）ヒート』ドーパントの左手側、炎を背景に全てを見つめ慈しむような眼差しで。
あたし達の追い求めた究極のライダー。『仮面ライダーΣ（シグマ）』が！
