いてまうぞ、ごらぁ!

『イツカ兄(にぃ)』が男の拳を躱し、腹に一発、そして顔面に蹴りをくらわす。

 続いた男の股間を蹴り上げ、その後ろの男に回し蹴りを喰らわせた。

な、なんだコイツ? 能力者じゃねぇのか? な、なんで守ろうと?

 よほど痛いところに決まっているのか? 蹴りを受けた男たちは皆立ち上がれない。後ろに構えた数人が続くのを躊躇(とまど)っている。

イツカ

ああ、そうだな。

 3人が同時に覆いかぶさろうとした。『イツカ兄』はその1人の足を払い、1人の顎を跳ね上げ、1人の腹へ深々と蹴りを突き刺す。

イツカ

俺は能力者じゃないが、誰を守るかなんて俺が決める事だろ?

 男たちは輪を広げた。『イツカ兄』が見渡すと更に一歩、皆が後退していく。

な、ナメんのも大概にしろ! オマエもぶっ殺してやる!

 飛び出した1人が『イツカ兄』によって車道へと蹴り飛ばされた。通りがかった車が蛇行してそれを避ける。轢かれかけた男が悲鳴を上げて逃げていく。

コイツやべーよ、イカレてる!!

覚えてろよテメー!

 遠ざかる男たちを見て、腰が崩れ落ちた。

フミの母親

ありがとうございました! 本当に、本当にありがとうございました!

『鋼化』のチカラをくれた子のお母さんが駆け寄り頭を下げる。未だ『鋼化』の解けない私は、満足に応える事が出来なかった。


 不意に身体が宙へ浮かぶ。

 私は『イツカ兄(にぃ)』の肩へ担がれていた。

イツカ

まったく世話のかかる妹分だな。少しはダイエットしろよ?

ヒナ

な!

 顔が熱くなる。見えない『イツカ兄』を睨みつけた。私のイラつきも知らずに馬鹿でかい声が鳴り響く。

マチス

あ、兄貴!

イツカ

 マチスだった。マチスは『イツカ兄(にぃ)』の足元に這いつくばり懇願した。

マチス

兄貴! 俺を舎弟(しゃてい)にしてください! 俺を守ってください! 俺、俺、何でもしますから!!

『イツカ兄』の顔は窺えないけど、恐らく笑ってるんだろう。吹きだす音が聞こえる。

イツカ

あんた、『ヒナ』を守ろうとしてくれたろ? 一応。

マチス

は、はい! お、俺、この子守らなきゃ! って!

 身体が傾く。『イツカ兄』が笑いだした。かなりのツボに入ったみたいだ。あ、手が動く!

ヒナ

『イツカ兄』! 私はもう大丈夫! それより何処か休めるところ、安全な所は無いの? 状況も説明したいし、それ以上に私も知りたい!

……それには及び、及びませんわ、彼方ヒナさん。

 飛び降りて声のする方を見やると物陰から女の子が顔を出した。そして、辺りを見渡しながらこちらへ歩を進める。

ヒナ

貴女は?

 ここが安全だと思ったのか? 花柄ワンピースの女の子、恐らく私と同年代の彼女が優雅な足取りで向かってくる。

『イツカ兄様』の想い人、花雨(はなう)コンツェルンの息女、

 そして、胸元から白い手袋を取り出し、私の足元へと力強く投げつけた。

ララ

花雨ララ、ですわ!

【第5話】第4の能力者?

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