……!

……え?


 廊下を出たところで、丁度良く、こちらに向かってくる晶を見つける。

晶、止めてくれっ!

え?


 しかしとっさの行動は無理だったようだ。

……!

え?


 晶の横をすり抜けて走って行ってしまった恵美に、晶は呆然と足を止めてしまった。

何があったの?


 しかしすぐに、晶は理の方に鋭い言葉を投げてくる。

あ、松岡が、倒れてきたパネルから恵美を庇った、んだけど。

それだけでなんで恵美が走り去っちゃうの!

知るかっ!


 理に向かって怒ったような表情を向けた晶は、しかしすぐに理に背を向けた。

行くとしたら、あの場所ね。


 余裕を見せる晶の声に、一瞬だけ、首を傾げる。

この校舎、一人になれる空間少ないの。

 そう言えば。

『弟』も、人が隠れることができる場所を探すのが意外と得意だったな。


 廊下にいる来場者に迷惑を掛けないレベルの早足で、迷い無く進む晶に、理は無意識に前世の『弟』の姿を重ねていた。

……。

 その『弟』の得意技に、何度か救われたことも。

 理が物思いにふけりながら歩いている間に、校舎の隙間に身体を埋めている恵美の小さな背中が見えてくる。

恵美。

あ、あいつは。


 理より先に到着した晶とほぼ同時に、理は、勇介を弁護する言葉を発した。

いつもチャラチャラしてるけど、本当は、良い奴で……。

分かってる。


 背中に汗をかきながらの理の言葉に、恵美が小さく首を振る。

びっくりしただけ。

良かった。


 俯いたまま、それでも僅かに微笑んだ恵美に、晶がほっとした表情を浮かべた。

でも。
……あんなこと言っちゃった。嫌われたかな。

大丈夫だろう。


 再び表情を曇らせた恵美に、意識して軽い言葉を掛ける。

一緒に、謝りに行こう。


 そう言って恵美の方に伸ばした晶の手を、恵美が掴んだのを確かめ、理はようやく安堵の息を吐いた。

 タイミング良く、高村先輩からのメッセージが理の携帯端末に入る。

松岡、保健室にいるって。

じゃ、保健室、行こう。

うん。


 晶の言葉に頷いた恵美と、その恵美を支えるように歩き始める晶に、微笑ましさを覚える。

これで、二人は大丈夫だろうな。
良かった良かった。

 根拠のない感情に、理は小さく、口の端を上げた。

『妹』と俺と、友人達のごたごたについて 5

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