晶の指示通り、校舎の二階に上がる。
晶の指示通り、校舎の二階に上がる。
理数科のポスターが飾られている教室は、すぐに分かった。
あれかな?
おそらく晶が主導して作成したのであろう、他より字が大きめで見やすいポスターを、瞬時に見分ける。
あれだな。
そのポスターの前に立つ大人達に、自分たちが現在行っている研究の話をする晶の友人、日上恵美と砂原香澄の姿も、理にはすぐに見分けが付いた。
あ……。
偶然、理達三人の姿を見た香澄の頬が、理でも分かるほどに上気する。
高村さん、こっちです。
……。
その表情のまま手を振る香澄の横で、勇介の婚約者、恵美が俯いてしまったのを、理は見逃さなかった。
今、ここまで研究してるんです、私達。
腰が引けているようにみえる勇介を、無理にポスターの前まで引っ張っていった理の耳に、香澄の高い声が響く。
何かおかしいところ、ありませんか?
うん、そうだね……。
……。
はしゃいでいる香澄とは対照的に、隣の恵美は勇介を見ないまま、黙りこくってしまっていた。
……。
おい。
同じく黙りこくってしまった勇介のいつにない様に、何とか戸惑いを隠す。
どうすれば二人が会話を始めることができるのか、理の脳は普段とは違う回転を始めていた。
その時。
うわっ!
複数の声と共に、隣にあったポスター用のパネルが、斜めに倒れてくる。
危ないっ!
……!
しかし理が動く前に、隣にいたはずの勇介が、恵美を庇うようにパネルと恵美の間に割って入っていた。
きゃっ!
高村先輩に夢中になっていた香澄の声が、今更のように響く。
だ、だいじょうぶ、か?
ざっと見たところ、パネルを止めている勇介に怪我はなさそうだ。
そのことに、理はほっと胸を撫で下ろした。
だが。
なによっ!
高い声が、空気を破る。
こんな時だけ、許嫁の顔してっ!
え?
その声に一瞬だけ気を取られてしまった理の前で、恵美は勇介に向かってそれだけ叫び、さっと身を翻して教室を出て行ってしまった。
……?
パネルを止めたまま、当惑の表情を浮かべた勇介に、一瞬で心を決める。
高村さん、松岡のこと、お願いします!
その言葉を残し、理は、得意の足で恵美の小さな身体を追いかけた。