その夜。
その夜。
晶。
文化祭の準備が立て込んでいるのだろう、少し遅めに帰ってきた妹、晶に、なるべく簡潔に頼む。
文化祭のチケット、一枚譲ってくれ。
嫌。
返ってきたのは、予想通りの一言。
何で理なんかに。
頼む。
明らかに嫌そうな顔をした晶に、頭を下げる。
勇介と、勇介の婚約者のためなんだ。
頭を下げたまま、言葉を少なくして、理は勇介の事情を話した。
恵美、婚約者いたんだ。
理の言葉に、晶の顔が僅かにほころぶ。
それであんなに準備頑張ってたんだ。
……仕方ない。
晶の溜息に、ほっと胸を撫で下ろす。
父さんと母さんの分、使って。
二人とも、当日は仕事が入ったって言ってたから
あ、済ま
お礼は良い。
自分の部屋に向かう晶の背に、小さく頭を下げる。
そう言えば。
前世で、『弟』に相談を持ちかけたことなんて、無かったかもしれない。
戸の向こうに消えた『妹』の影に、前世の『弟』の影を重ねる。
前世では、理は、乱れた王国の下級貴族、そして晶は、理のただ一人の『弟』として、理が王国を立て直して新たな王になるのを助けてくれた。
もっと、あいつに、頼っていることをはっきりと示せば良かった、かも。
解消されない悔恨を、理は心の奥底にしまった。