十二月も中旬となり、テスト期間に入った結月と明彦は結月の家で勉強会をしていた。
 とはいえ二人の場合は教え合うというより殆ど明彦が結月に教えるという状況で、結月が教えるのは国語の一部位である。
 だからといって結月が勉強が苦手だという訳でも無い。結月は平均位なのだが、明彦が優秀過ぎるのである。

 昔から明彦はテストの点数では上位者で、負ける相手も敬一位であった。

 明彦は根が真面目で努力家なので、予習復習を欠かさない。結月と違って趣味らしい趣味も無いので、その分勉強に打ち込めるのもある。
 毎日コツコツとやっているからこそ上位の成績を継続して取れるのである。
 国語が少々苦手なのもあり、全てまんべんなくこなせる天才型の敬一には敵わないのだが。

白峰明彦(しらみねあきひこ)

それは公式に当て嵌めて解く


 結月の手が止まっているのに気付いた明彦が方法を教えてやる。

松原結月(まつばらゆづき)

公式って言うと……こう?


 教えられながらどうにか結月が解けば……明彦が頷く。

白峰明彦(しらみねあきひこ)

ああ、貴様にしては上出来だ

松原結月(まつばらゆづき)

うん、有難う

白峰明彦(しらみねあきひこ)

その後の問七も方法は同じだ。やってみろ

松原結月(まつばらゆづき)

うん。えーと……これは……


 言われた通りに問題を解きながら結月は密かに思う。

松原結月(まつばらゆづき)

……流石アキ。全然恋人っぽい空気にならない


 先程結月の手が時折止まるのは問題に苦戦している場合もあるが、物思いに沈みながらやっているからである。
 しかし彼女の彼氏は純粋故、そういった事に鈍感なので言うに言えない状況なのであった。
 何気なく時計を見れば十三時半。星華男子高等学校も星華女子高等学校もテスト期間になると半日になるので、こんな事でもう二時間も過ぎていたようだ。

松原結月(まつばらゆづき)

ね、ねぇアキ。そろそろ休憩しない?お腹も空いたからお昼買いに行きたいな。
今日はお母さんも締め切り明けで寝てるし、お姉ちゃんもお父さんも仕事で居ないから自分達で用意しないとだし


 このままのムードで明彦は構わないのかも知れないが、結月は少し物足りない。
 場所が変われば何かが起こるかも知れないと思い、外出を提案してみた。

白峰明彦(しらみねあきひこ)

ああ、そういえばそんな時間か


 時計を見上げた明彦はそう呟くと勉強道具を一端片付け始める。

白峰明彦(しらみねあきひこ)

行かないか【逆:行くか】

松原結月(まつばらゆづき)

うん!


 言葉は反対になっていたが、すぐに頷く彼に結月は内心で密かに燥(はしゃ)ぐ。
 元より明彦は結月の意見を否定する事も滅多に無いので、普通の事ではあるが……乙女ゲーム脳の結月からするとトキメキが転がるデートに漕ぎ着けたのはそれだけで勝利した気分になるのである。
 一緒になって片付け始めながら胸の鼓動が高まるのを感じた。

 明彦は自分の勉強道具を片付け終わると結月の片付けも手伝い始める。

松原結月(まつばらゆづき)

こういう所……昔から変わらないよね。面倒見が良いって言うのかな?


 そんな事さえ愛しく思っているのにきっと彼は気付いていないだろう。
 嬉しく思いながら片付けを続けているとうっかり教科書を取ろうとした手が明彦と触れた。

結月&明彦

あっ

 同時に声を上げ、続けて謝り始める。

白峰明彦(しらみねあきひこ)

ご、ごめん!

松原結月(まつばらゆづき)

わたしこそっ


 乙女ゲームで言えばお約束の光景だが、うっかり照れてしまったのが何だか嬉しくて、愛しかった。

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