弁護人、何か言うことはあるか?

中学三年の僕と同じような体格ながら、その雰囲気に十分すぎる貫録を持つ閻魔大王がぎょろりとした目を僕に向けて言った。

何も、ございません。
この男にはその判決がお似合いでしょう、閻魔大王様。

僕は言いたいこと、言いたかったことのすべてを飲み込んで、ただ一つ、確実に目の前の男の罪を裁く言葉を口にした。

その言葉に男は証言台に倒れ伏して泣き叫ぶ。

嫌だ!納得できるか!
俺の処遇をこんな子供が決めるなんて認めないぞ!
やめてく……!

往生際が悪い。
等活地獄で500年の余生を過ごすがよい、愚かな人間よ。

閻魔大王が頭上の紐を引くと、床がガシャリと開いて男が地の底へと吸い込まれていった。

怨嗟に満ちた叫び声が部屋の中に木霊し、やがて静寂へ消えていく。

この仕事を始めてから早くも季節が二過したが、この瞬間だけは慣れない。

耳を塞ぎたくなるその気持ちの方を塞いで、僕は書類を整えて機密文書の箱へと投げ入れた。

本日はこれにて閉廷とする。

閻魔大王が高らかに木づちを二度鳴らし、本日の裁判はすべて終了し閉廷となった。


帰路につく準備をしていると、閻魔大王がいつも通り僕に声をかけてくる。

弁護人よ、この後時間はあるか?

やれやれ。先ほどの険しい顔はどこへやら。

振り返った僕の視線の先で、閻魔大王は「呑みに行こうぜ」ジェスチャーと満面の笑みを僕へ向けていた。

しかし、残念ながら僕にその時間は残されていない。

「申し訳ございません」と頭を下げ、僕は答えた。

私は命よりも大切な睡眠をとらなければなりませんので、丁重にお断りさせていただきます、閻魔大王様。

おお、そうであったな。
では、次の法廷もよろしく頼むぞ、カツキよ。

こちらこそよろしくお願いします。

挨拶もそこそこに僕は席を立ち、あてがわれた私室へと向かった。

そこには僕のために特別に用意されたベッドが一つ、ぽつりとたたずんでいる。

使用されている材質はリネンに気を使わない地獄の中では最上級品であり、人間界の上質なものと遜色ない逸品だ。

その手触りをできる限り味わうように、僕はゆっくりとベッドの上の柔らかい布団に身体を横たえる。

さて、……寝よう。

呟きの後、知らず知らずのうちに張りつめていた意識がすぐにまどろんでいくのが分かった。

こうして本日の仕事も終わりを告げる。

地獄での僕の仕事。



――それは人間代表として、また、『閻魔大王の良心』として、地獄に落ちる人間の弁護を行うことだった。

僕は地獄の弁護人

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