【☆2015年、春☆ 柊なゆた】

 春の日の夜、数日後に高校入学を控えた私『柊なゆた』はゴミ捨ての為に暗い夜道を歩いていた。

 幼い頃リボンのお姉ちゃんから貰った一冊の絵本、それに描かれた出逢いを夢みて、湯船で火照った体をそのままに星の下へと足を進める。



 絵日記には自分と同じ名前の彼女に出会った数多くの人々が描かれていた。友情や、愛、正義、いろんな感情が織り成す時空を超えた『家族』のお話が其処には在った。

 タヌキ色のコートを羽織り躓きそうになりつつも走った。

 何故だろう。――この胸が高鳴る。

 空ではカラスがのん気に鳴いていた。黒い子猫が自分の足へ甘えすがりつく。

 私は光射すゴミ捨て場へ1歩、確かめるように1歩、果敢に近づいていく。

壱貫

――なゆた、俺も同行させてもらっていいか?

 いつの間にか隣りに『いっくん』が並んでいた。私からゴミ袋を奪い悠然と脇を歩む。

【拾ってください】

 大きな青のポリバケツにそんなプレートが立て掛けられている。
 外から視たそれはとても静かだった。中に居る子は己の現状も知らず深く眠っているのだろうか?



『いっくん』が真面目な顔で私へ物申した。

壱貫

これを開ける権利を、俺に、俺に半分だけ譲ってくれないだろうか?

 頭を下げる『いっくん』へ笑顔で頷く。これを開ける権利を彼に分けてあげてもいい。彼にはその権利があるような気がした。



 私達は手を合わせ蓋に指を掛ける。

なゆた

猫と出るか。犬と出るか?


 その出逢いの扉を開け放つ。

なゆた

お出でませっ♪


 空から堕ちるように星が流れた。

ただいま、でしゅ♪


 その煌めきに『その子』は映し出される。私達がずっと待っていた『その子』の笑みが、いつまでも、いつまでもこの世界で輝いていた。

【犬っ子モカと、ナユタの日々。完】

『犬っ子モカと、ナユタの日々2』へ続く。

【最終話】新しい旅路へ。

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