持統天皇
じとうてんのう

 ある日の放課後、藤原トオルは忘れ物を取りに教室へと向かった。

トオル

あ・・・


 教室の自分の席には生物教師笹塚が、百人一首を手に座っている。

トオル

デ・ジャ・ビュ?


 幻覚を見ているのか、それともタイムワープか?トオルは一抹の不安とともに先生の元へ行く。

トオル

先生、なにしてんですか?

笹塚先生

ん? おお、トオルじゃないか、待ってたよ、そこそこ

トオル

え?


 待ってた? そこそこ? なんでそこそこなんだよ!

 しかし、トオルには一切身に覚えがない。昨日も今日も先生には会っている。

笹塚先生

じゃ、続き、やるか

トオル

続き?


 なんのことかと疑問に思いかけて、トオルははっとした。そう、先生の手にあるのは、百人一首。

トオル

まさか、続きって


 昨日、トオルは笹塚先生から百人一首についてなんとなく解説を受けた。今日は、その続きをやろうと言っているらしい。百人一首は正直どうでもよかったが、トオルは先生と話せるのが嬉しいのだった。

トオル

今日は、誰の歌ですか?

笹塚先生

今日は、こ・れ・だ


 春すぎて 夏来にけらし 白妙の
 衣ほすてふ 天の香具山

 はるすぎて なつきにけらし しろたへの 
 ころもほすてふ あまのかぐやま

トオル

あれ? 今回はずいぶんサクサクしてますね。読みまで丁寧に出して

笹塚先生

まあな! なにしろ百首もあるからな。ちんたらしてると終わらねーだろってことで

トオル

そんなの誰でも気づくだろ

笹塚先生

ん? なんか言ったか?

トオル

いいえ、別に

笹塚先生

で、現代訳だが

トオル

はい


 トオルは内心わくわくしていた。どうでもよいとはいえ、笹塚の説明は昔の人々の心を鮮やかに蘇らせるような感じがする。今回は、どんな話が聞けるのだろう。

笹塚先生

[あれ? もう夏じゃね?]

トオル

・・・え? 終わり

笹塚先生

はい、ということでこの歌はこれで説明終了です!

トオル

うそ!?

笹塚先生

うそです

トオル

おい!

笹塚先生

決まった!

トオル

なんかムカつく

笹塚先生

そんじゃあ、持統天皇についての簡単な説明をしていくぞ

トオル

お。さまになってる

笹塚先生

だろ?

「まず、持統さんは女性だ。で、第一首の作者、天智天皇の娘(第二皇女)にあたる。そして、天武天皇の奥さん(皇后)だった。天武天皇が亡くなったため、天皇になった」

トオル

へ~

「で、天皇になった持統さんの経歴は、律令体制の基礎を作ったりなど。ここら辺は飛ばすか」

トオル

ふぁあ

「さて、こっからが大事なとこだが、天智天皇と天武天皇は兄弟なんだ」

トオル

・・・ん?

「持統さんは叔父さんと結婚したわけ。んで、額田王っていうべっぴんさんを兄弟である天智と天武が取り合った」

トオル

は?

「つまり、自分の夫と父親が同じ女性に恋をしたっつーこと!」

トオル

ZZZ

笹塚先生

ねるな

トオル

トオル

ドロドロの三角関係・・・

笹塚先生

お前、難しい言葉知ってんな

トオル

やばくないですか? いいんですか? そんなんで。日本のトップがドロドロなんて

笹塚先生

んー。俺も詳しくは知らないんでな。ただ、当時の京を囲む三つの山にそれぞれをなぞらえて、この歌を詠んだ、ともいわれているんだと

トオル

なんか、切ないですね

笹塚先生

だよなー

笹塚先生

あ、ちなみに。万葉集にもともとあった歌が改変されて百人一首に採用された、らしいぞ

トオル

なるほど。それにしても先生、説明が[らしい]ばっかですね

笹塚先生

まあな。この調子で百首全部又聞きでお送りするんで、よろしく

トオル

誰によろしくなんだ

笹塚先生

んじゃ、明日も同じ時間に会おうぜ!

トオル

まじかよ

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