レジーナの心の内は大きく揺れていた。
これまでどのような苦境でも
感じたことのない揺らぎ。
侵略されたことに変わりがないが、
その発端は
信じてやまない自国にあると聞いたからだ。
正義は我にある。
侵略者は許さぬ。
その底辺を揺さぶる情報に
レジーナは動揺を隠せずにいた。
レジーナの心の内は大きく揺れていた。
これまでどのような苦境でも
感じたことのない揺らぎ。
侵略されたことに変わりがないが、
その発端は
信じてやまない自国にあると聞いたからだ。
正義は我にある。
侵略者は許さぬ。
その底辺を揺さぶる情報に
レジーナは動揺を隠せずにいた。
テキトーなこと言って
姫を攪乱させようと
しているのではあるまいな。
ご想像にお任せする。
勝者が歴史を作るもの。
都合良く話をでっち上げ
動揺を誘おうとしているのは
見え見えだぞ!
そう思う方が
お主達の気は休まるだろう。
グッ、おのれ……
信じるも信じないも自由。
私は敗者として
処遇を与えられるだけだ。
ギリアムは膝を折り床に付け、
言葉通りレジーナの処断を
受けようとしている。
レジーナはグッと眉を寄せ
思い悩んでいる。
ポジティブで明るく、
とぼけて見せている時も
答えを先に見出し、
先回りしてるような決断を下す。
常に自信満々のレジーナは、
誰からもそう思われてきた。
そんなレジーナが
ギリアムを前に
決断を曇らせている。
皆、レジーナの言葉を
静かに黙って待つしかなかった。
そんな空気の中、
ギリアムが静かに語り始める。
人の才とは欲求の強さ……。
誰に何を言われようが、
どのような苦境にあろうが、
その欲求を満たそうとする執念。
その達成に向け工夫が加わり、
飽くなき欲求は持続力を生み、
結果、実績に繋がる。
それは更に強い欲求に繋がり
良い循環になる。
無論、
その欲望の良し悪しはあるが、
才能の源泉は欲求なのだ。
…………
お主の欲求は人間を活かすこと。
人を活かすことに喜びを覚え、
その為になら
どんな苦労も惜しまぬ。
故に人が集まる。
求心力のあるところに
集まった者達の原動力は、
極端に活性化する。
優秀な者が集まるのでなく、
集まった者が優秀になるのだ。
だから兵に至るまで
優秀な者がいるのだ。
…………
強いわけだ……
我々が勝てぬのも無理はない。
レジーナは間違いなく葛藤していた。
思考を困惑させ
言葉を胸につかえさせていた。
それを引き出したのは
ギリアムであったが、
そこから言葉を引き出したのも
ギリアムだった。
ギリアムよ。
君は私以上に
私のことが見えている。
お主も私のことを
見えているだろう。
処断される前に
聞いておきたいものだ。
謀略に長け油断ならぬ噂が流れ、
降伏と口にしながらも
へりくだるわけでもなく、
国旗すら降ろさず、
顔を合わせば不遜な態度。
結果、我が祖国奪還は
一時間も遅れた。
全く迷惑な奴だ。
言葉もない。
それでいて民を蔑ろにせず、
我らを試す為とは
いえ部下を蔑んでみせたが、
実のところ部下を顧みている。
表には微塵にも出さないが、
部下を多く失い
心を痛めているのであろう。
レジエレナ王女……
ギリアム、
私の力になってくれんか?
身に余るお言葉……。
ギリアムは深々と頭を垂れ
レジーナの言葉を受け止めた。
そしてゆっくりと顔を上げてから
レジーナの目を見据え
張りのある声を返した。
私が心服するなら
お主で間違いない。
……だが、
その返事には首を縦に振れん。
なぜだ?
私も同じだからだ。
目の前の才ある若者を
活かしたくなる。
お主を見ていてその気持ちを
再確認したよ。
まさか……
私の元で働く気はないか?
勝者のレジーナが、
ギリアムを配下にしようとするのは分かる。
だが膝を付いている
敗者のギリアムが、
レジーナを才ある者だと言い、
配下になるよう誘っているのだ。
これには流石のギュダも
言葉を失っている。
ギリアム、君は実のところ
私に負けたと思っていない。
そのような者を
跪かせるのは無礼に値するな。
ギリアムはまるで
レジーナがそう口にするのを
知っていたかのように立ち上がった。
衣服を丁寧に正し、
城を明け渡した者とは思えぬ
堂々さでレジーナに向き直る。
兵には厚遇を……
いや、お主には無用の心労か。
次に相まみえるのは戦場だ。
そこでお主を打ち負かし
もう一度返事を聞くとしよう。
私の返事も
忘れないで頂こう。
約束しよう。
ギリアム様……
カイン、お前は
レジエレナ殿にお仕えせよ。
ギリアム様!
私は貴方にお仕えする身です!
このカインが身をおく場所は
貴方の傍以外ありえません!!
敗軍の将が決めることではない。
レジエレナ王女……
どうか慈悲を……
慈悲など請うなカイン!
主を思うなら
力づくでも付いて行くのだ!
レジエレナ王女……
強くなれカイン。
そうでなければ
我が兵には勝てんぞ。
レジーナの声に、心に、笑顔に、
カインは胸が一杯になった。
そしてギリアムと共にユベイル城を出た。
レジーナと再会した時に
必ず強くなっている決意を秘めて……。