Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
コール歴5年
sky colors
第一話 ウルブールの空
抜けるように青い空がどこまでも広がり、両手を広げ心地いい風を受け入れると、空さえ飛べるような気がした。
あまり草も生えない荒地。
雨も降らず、所々乾燥でひび割れている大地。
風を受けて空を見上げる。
身に纏った民族衣装の裾がはためき、よく梳かれた髪が揺れる。
ずっとそこでそのままの姿勢でいたが、視界に動くものを見つけ、ユッカは前方から大きく手を振りながら駆けてくる人物を見遣った。
ユッカちゃーん!
甲高い声でユッカの名を呼ぶ彼は、ウルブール族の証である磨かれた大きなウル石を大切そうに抱えている。
表情は明るく、いきいきとしている。
オグ、どうしたの?
ユッカの半分もない背丈の少年は、つやのある髪を輝かせて、ユッカを見上げた。
お姉ちゃんと弟のような構図。
しかし血の繋がりはない。
オグは“ポスト”から持ってきた一通の手紙を掲げ、ユッカに差し出した。
手紙が来たよ!
今度、クローブのお兄ちゃんが来るって!
オグは嬉しそうに駆け回る。
手紙を受け取ったユッカは、封筒に書かれた文字をゆっくり追った。
これは確かにクローブの字だ。
そしてユッカには読めない文字。
クローブはいつの頃からかこのウルブールに顔を出すようになった。
それからだろうか、世界の歯車が狂い出した。
ユッカはオグに悟られないように小さく溜息をついた。
ユッカはクローブが苦手だった。
族長にも言わないと!
ユッカちゃん行こう!
オグは両手でユッカの右手を引っ張った。
行くから! ちょっと引っ張らないでよ!
オグに連れられるまま、ユッカは一緒に村まで戻った。
青い空はどこまでも広がる。
コール王が就任して5年。
空の色は変わらなかった。
だけど、大人たちの顔色は変わった。
ウルブールは孤島で、ユッカの知らない歴史があり、どういういきさつかセアト王時代からその配下に入っている。
コール王はウルブールに対して冷たかった。
いや、無関心だったといってもいい。
税をとるだけとって他のことは放置。
ウルブールには水や魚は豊富にあり困ることはないが、若干発展が遅く、武力にも乏しい。
コール王はウルブールを自国との認識が薄いのか、大切にしないのか、どちらにしてもウルブール族の者から見たらひどい王だった。
そのため、ウルブールの中には独立を提唱するものもいて、最近、その動きがあわただしい。
ダイオス~
オグがユッカの手を引っ張って、村の中心にあるダイオスの住む場所を訪ねた。
厚い布を二重にした入り口を開くと、中には誰もおらず、乾燥草が一角に敷き詰められていた。
壁に薬草の類がぶら下がり、大きくて低い机の端に、紙の束が積まれている。
ユッカとオグは手を離すと、その静けさに黙って辺りを見回した。
ガランとしていて、誰もいなければ狭いテントも広く感じる。
いないのかな
ダイオスは族長なので、ウルブール族の中では一番広いテントを所有している。
その中を、勝手知ったる様子でオグが動き回る。
召集じゃないの?
しかたないなー、ダイオスは
オグは口を尖らせて、隅っこに丸くなって座った。