コノカ

え? 貴方は『セレス・クリティア』じゃないんですか?

 頷く。相対する『コノカ』は白く細い指を解(ほど)き、青い大きな瞳を開閉させた。

コノカ

じゃあ、貴方はいったい、何処(どこ)の何方(どなた)なんでしょう?

イチロー

僕はイチロー。『イチロー・山田』。このパーティーのリーダーしてる。で、こっちの金髪の彼が、キミの探してたヒトじゃないかな?

 左手で『セレス』を指差す。『コノカ』は『セレス』を見、フード越しに頭へ指を当て唸った。当の『セレス』は相も変わらず依頼書との問答を続けている。

コノカ

……?

 そして頭から蒸気を上げる『コノカ』を顧(かえり)みることなく、『セレス』は言葉で両断した。

セレス

おい、なんだ? この『ぽんこつ』は。

 ちらりと見ただけで『コノカ』を意にも介していない。

イチロー

おい! 出会い頭に『ぽんこつ』って! 仮にも女の子に向かって『ぽんこつ』言う事ないだろ! 勇者なら、こう、声高らかに名乗ってみせろよ!

『この刃(けん)に掛けた魔(ま)は幾万、比類なき勇者、我が名は『セレス』!』

とかさ。

『セレス』の尖った眦(まなじり)が僕を射抜いた。

セレス

……いめぇ。

イチロー

なんて?

セレス

いもい。って言ったんだ。

 思わずうな垂れる。そんな、心砕けそうになる僕の手を取る者が在った。

コノカ

……素晴らしき詩(うた)でした。イモローさん。心に染みました!

イチロー

イチロー、ね。

 指を組み、『コノカ』はギルドの天井へと祈りを捧げていた。

コノカ

嗚呼、戦の神『マリス』。

と唱えた後(のち)、ウットリとした表情で振り返る。僕は思わず後ずさる。

コノカ

嗚呼♪ わたしもイモローさんみたいに謳ってみたいです! 伝説を、後の世に伝えたいんです! それには、『誰も寄り付かない』悪の権化、悪の再来である『セレス・クリティア』に付いていかないといけないのに!

 天井を仰ぎ恍惚としている『コノカ』を観て『セレス』がキレた。とても自然に微笑んでいる。

セレス

おい、イモロー。こいつを黙らせろ。

イチロー

え! ぼ、僕が?!

 嗚呼、商人の神『マイン』よ許したまえ! 僕もまだ死にたくは無いんです! 祈り、僕は『コノカ』の首に手刀を叩き込んだ。

イチロー

てぃ。

コノカ

きゅー

『コノカ』が腰から崩れる。さすがに慌て、その細い腰を抱き白い頬を叩く。

イチロー

え? 何でそんな簡単に気絶を!

 ギルド内にザワメキが広がった。

キリングヒーローが、またか、

という声が聞こえた。そして舌打ちが幾つも起こる。見やった『セレス』はそれらの声に構わず『コノカ』を背負い、依頼書を脇に納めると出口へ向かった。

セレス

おっさん。俺達は、『赤龍【ガンクルルス】の討伐』を受ける。付けといてくれ。

イチロー

ほ、本気かよ! おいセレス!!

 僕の声にも『セレス』は振り返らない。

 テーブルへお金を置き酔っ払った『アリサ』を背負って僕は『セレス』を追いかけた。頭を往復し脳の領域を満たしたのは、何故だろう、赤龍ではなく、僕を視たコノカのキレイな瞳(あお)だった。

 気絶した『コノカ』と酔っ払った『アリサ』を連れて僕達は『山田』の家に帰りついた。空は紅く夕の頃合いを示している。『アリサ』は早々に復活を果たし、夕食前のデザートを喰らっているところだ。

コノカ

……こ、ここは?

イチロー

起きた? ここは僕の家。というより、僕らパーティの館と云った方が差支えないかも。はじめまして、コノカさん。

コノカ

は、はじめまして! 『コノカ・ステイツ』です! い、

イチロー

僕はイチロー。『イチロー・山田』。で、こっちの赤い髪の子が『アリサ・バドゥン』。あっちで寝ている金髪の彼が『セレス・クリティア』。キミが追っていた彼だよ。

コノカ

えっと、はじめまして皆さん! これからどうか宜しくお願いします! わたし、『赤龍』討伐全力で頑張りますから!

 頭を押さえベッドから足をおろした『コノカ』が改めて自己紹介を始めた。

 北の雪国『アスカリ』の出身で、詩人として活躍がしたくて『アスカリ』でも名の知れた勇者『セレス』を追ってきたそうだ。『ヒーラー』ランクは1級、と言っている。強力な回復魔法の使い手なのは恐らく間違い無かった。

『アリサ』も自身が極寒の地『サザリ』の出身だと説明。同じ北国出身の2人が大きく手を重ねる。似たような地に住む者同士心が触れ合ったんだろう。2人、にこやかに微笑みあう。よほど嬉しかったのか『アリサ』は自身の大事なオヤツである『揚げパン』を半分に分け慎ましくも『コノカ』へ渡そうとしている。あの腹ペコ魔王が! だ。そしてあろうことかそんな『アリサ』へ『コノカ』が反逆の牙を向いた。

コノカ

だがしかし! とやーー!

『コノカ』が『アリサ』へ手刀を振りかぶる。

が、『アリサ』の腕が遙かに速い。『コノカ』の首根っこに揚げパンを掴んだ『アリサ』の指が突き刺さった。

コノカ

きゅー

 青い髪の彼女、ヒーラー1級の『コノカ』は再び眠りに着いた。

イチロー

あ、アリサ! コノカちゃん殺す気かオマエ!

アリサ

つい、殺(ヤ)っちゃったゼ♪

『アリサ』がテヘペロする。

 10数分後。再び横にされていた『コノカ』が首を擦(さす)りながらベッドから降りてきた。本日2度目の起床だ。『アリサ』もチカラを加えていないらしく、『コノカ』の首には指3本の跡しか無い。あと、パンのクズ。

 そんな『アリサ』に一礼。『コノカ』は『アリサ』の目を視て言いのけた。

コノカ

先ほどはごめんなさいアリサさん! わたし、アリサさんこそがこのパーティの最底辺だと解ったんです。例え憧れのパーティといえども、わたし、底辺は嫌なんです! ヒエラルヒーの最下部は苦しいんです! アリサさん! アリサさんの苦手なものでわたしと再勝負です! そして貴女こそがこのパーティの最底辺へと君臨してください! だけど仲良しで居てください!

『アリサ』はお茶を飲む手を一旦降ろし、お茶請けの脇へそれを並べる。そして顎に手をやり思案、

アリサ

私の苦手なものかい? そだ。私、……あまり食事とか好きじゃないかも。乙女だからそんなに多くは召し上がれないの~♪ あと、仲良しさんは了解!

『アリサ』は指をいじいじ、ワザとらしくこね回している。一見(いっけん)乙女なその前に立ちはだかったのは自前のワンド(杖)を掲げ顔面に自信の火を灯した蒼き聖女(コノカ)だった。

コノカ

ふふふ。どうやらわたしの勝ちが決まったようですね! この『ライスイーター』コノカとお食事(フード)バトルです!

 急遽用意された早めの夕食に、『アリサ』は乙女顔で指をいじいじしている。腰に手を当て構えるはライスイーター『コノカ』! 鼻息も荒い。

 お椀いっぱいによそわれた白米とその上の『トンステーキ、レタス添え』を前に、彼女『コノカ』は言いきった。立ち上る湯気を払い、指に『ジャニーン』で一般的に使われる食器『箸』を握りしめて。

コノカ

いただきます! わたしの未来!

 そして、お肉を小さく一齧り、ご飯5口頬張ってからの、

コノカ

……すみません。負けましたわたしの未来。

 ……敗北宣言だった。『コノカ』は、お茶をすすりウォーミングアップを始めたばかりの『アリサ』を前に深く、深く平伏(へいふく)した。『アリサ』はまだ、まだ何も食べていないのに、トンステーキを前に『コノカ』の紙メンタルは一瞬で砕けたようだ。

『アリサ』はゆっくり『トンステーキ』を串刺すと世にも哀れなモノを見るような眼差しで『コノカ』を見下ろしている。

 テーブルに突っ伏し拳を打ち付け、

コノカ

『トン』は、『トン』だけは!!

と嘆く『コノカ』は、そう、圧倒的に、

 ……類い稀なる『ぽんこつ』さんだった。

 ちなみに、『セレス』は帰宅してからずっと寝ている。彼がこの茶番の顛末を知るのは明日の朝だろうか。何と云うか、これ話さないといけないのかと思うと、

 嗚呼、……胃が痛い。

【第2話】その性(さが)はぽんこつ?

facebook twitter
pagetop