Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦30年
水辺の音色
4
隊長にそんな特技があるなんて知りませんでした
まぁ、特に話すことでもないしな
ラムダは手の中でオカリナをもてあそんでいる。
ジャンは川縁に腰を落とし、片手を水面に晒しながらそんな様子を見ていた。
楽師にもなれるんじゃないっすか
ちょっとからかったつもりだったジャンの言葉。
考えないこともなかったが
あっさりと紡いだラムダの言葉に、ジャンは無意識にショックを受けた。
余計なことを言ったと思った。
英雄の剣を預かったんだ
そんなジャンの様子に気付いたラムダは、気を利かせて言った。
英雄の姿には憧れていたしな
俺はそれに向き合わなきゃならなかった
だから楽師の道を……?
なってもよかったんだが、諦めた
英雄の剣の重さには適わなかった
英雄の剣
ジャンは身を乗り出した。
それって、なんっすか?
英雄フェシス
聞いたことくらいあるだろう
あの、伝説の?
問いながら、首をかしげた。
ジャンは、かの存在を本の中でしか聞かない。
美化され脚色された物語の中でしか、英雄フェシスを知らない。
しかし、今目の前にいる隊長は、その人物を知っているというのか。
英雄フェシスを知っているのか。
かの存在はそもそも、生きていたのか。
あぁ。彼は確かに生きていた
すげぇ
思わず言葉が素になる。
レダ王の方が詳しいぞ
何せ、英雄と一緒に旅をしていたんだからな
ラムダはフッと笑った。
フェシスの背中に出会ったのはわずか5歳の時。
その剣を授かったのは17歳の時。
それから今までその剣を背負い、生きてきた。
まじすげぇ!
ジャンはレダ王には、まだ遠目でしか目通りがかなっていない。
それでも威厳と人望に満ち溢れ、悠々としたレダ王の姿を思い出す。
英雄と旅をしていた。
だからあんなに自信に溢れているんだ。
最初は、フェシスの後を追っていた
懐かしむように話し出したラムダを、ジャンは見遣った。
だがな、気がつけば自分の戦いをしている
もう誰かを追いかけるなんて出来ない
レダ王を陰ながらお守りしたり、ユニを拾ったり、お前達を育てたり
時々、自分を見失いそうになる
隊長……
……悪かったな
まだ若いお前にこんな話つき合わせて
あ、いや……
ラムダは立ち上がった。
要塞へ戻るつもりなのだ。
ジャンは、踵を返したラムダの背中を見送りながら、少し困惑した。
自分は、そんな強い想いを持って隊に入ったわけじゃない。
英雄の剣など大層なものを授かったわけではない。
だけど……
ジャンは、ラムダを追って走り出した。
やや早足のラムダに小走りで追いすがり、必死に口を開いた。
あの、隊長、俺、がんばります
ラムダはチラリとジャンを見た。
だから、いつか英雄の話、もっと聞かせてください
なんて稚拙な言葉なんだろうと思う。
しかし、他に思いつかなかった。
朝の光は、もう大分昇りかけている。
ラムダは、フッと笑った。
期待しているぞ、ジャン