(この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません)

【出逢いの言葉はこうだった。
 暗く陰った路地裏に伏せる僕を見下ろし、細くも優しい眼光で彼はのたまったんだ。

セレス

金を出せ。

と。

 僕はその美しい眼差しに金を差し出すしかなかった。寧ろ出したく思った。流れる金髪の下、鼻筋から零れ落ちた半円が吐き出す甘い暴言を前に、僕は頭(こうべ)を垂れたんだ】

 後ろから頭を小突かれた。めんどくさく思うも振り返る。僕を見下ろしていたのは金髪碧眼の見目麗しい青年。頭を掻き彼の訴えを聞くべく椅子を回すと、世にも邪悪な瞳が薄く淡々と僕を見下ろし、僕に向かって指を1本立て、その第2関節を艶に畳んだ。

セレス

そこ加筆な。俺はもっとイケてる。

イチロー

はいはい。


 忠告を終えると、保冷庫から豆乳のパックを取り出し手広いソファに細い腰を放り出す。レザーのジャケットから延びた長い脚が椅子のクッションの上で波打ちやんわりと組まれた。

 自身のソレと比べうな垂れたくなるが、堪え僕は紙へペンを走らせる。

【もう1人のキミ。気位の高い少女は僕へこう語りかけた。煉瓦色の髪を揺らし桃色の頬を緩ませ、瑞々しい唇で言葉を紡ぐ。その赤茶色の瞳が津々と物申す。

アリサ

おい♪ 腹が減った!

と。

 幾多の窮地から救った僕の頭をあろうことか足蹴にし、ぐりぐり、とその幼さの残る肌色の足の腹で器用に転がし連呼したんだ。

アリサ

私は腹が減ったんだ♪



と。悔しいが足の肌に嬲られ見えるのは足裏のみ。聞こえるのは愉悦と酔った少女の嘲笑だけだ。許すまじ、腹ペコ魔王!】

アリサ

……♪

 ちらり、お題にした少女を見やるが、彼女は端(はな)から気にしていないのか、純白のフードに赤茶のキレイな三つ編みを隠し、僕の作ったスパゲティーを美味しそうにちゅるちゅるやっている。その脇には僕の作ったポトフに炒飯、水餃子、1つ5人前はある料理の山を彼女のレンゲとフォークが行き来していた。

イチロー

……。

 此処は大陸『ユーラス』東端の街『ジャニーン』。
 足の長い金髪イケメンの彼、勇者4級の『セレス』と、白いフード帽を被った赤茶三つ編み髪の少女、(フード)ファイター8級である『アリサ』、そして僕、詩人見習い商人3級の『イチロー』で冒険のパーティを組んでいる。

 僕は、この大地『ユミル』での冒険の中、世界(ユミル)に響くたった1つの詩(うた)を奏でたいと思っているんだ。

 殺戮勇者(キリングヒーロー)『セレス・クリティア』と、
 腹ペコ魔王『アリサ・バドゥン』、

 そして彼らの財源(ひも元)である僕『イチロー・山田』の、破壊と創造の旅詩を。

【第0話】僕はきっとサーガを描(えが)く。

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