委員長

やあ。

永井蓮

どういう事だよ

委員長

他愛もないただの挨拶だよ。
チャットなんてましてやLIMEなんて初めての経験だからね。何かおかしかった?

永井蓮

お前のそういうところが嫌いだ

委員長

あはは、手痛いね。
ただの冗談のつもりだったのになあー。

永井蓮

いいから本題をさっさと話せよ
苦手なんだ、文字で会話するの

委員長

それは本当に文字でのやりとりだけ?

永井蓮

お前いい加減にしろよ……

委員長

あはは、ごめんね。
なぜ私が今日「君の連絡先を訊いたのか」
それでいいんだよね?

永井蓮

それだよ
俺たちにはなんの接点も共通点もないはずだろ
そもそもお前の名前と顔すらまともに思い出せないくらいなんだから

委員長

いやー、それは残念。
私はしっかりと君の顔も名前も分かってるよ。
有名人だもんね、永井蓮くんは……まあ、いろんな意味も含まれてるけど、さ。

委員長

そしてちなみに私は美少女です。

永井蓮

委員長の名前も顔も興味ない

委員長

うん。なんとも君らしい返答だ。

委員長

さてそれじゃあ、そろそろ君の疑問にもいい加減答えてあげよう。

理由はとっても簡単。だけど言葉にするのはとても難しい。

んー……強いて言うのなら
〝私と同じニオイのする君に興味があった〟
そんな感じかな?

永井蓮

永井蓮を知ってて近寄るなんて危ない好奇心だな

委員長

そこで〝恋愛としての興味〟とは微塵も考えない、抽象的な表現でもちゃんと理解してくれる。
だからこそ私は君にとても興味があるんだ。

永井蓮

わけがわからん
自ら委員長なんて損な役回りを進んでやるような堅物はみんなそうなのか

委員長

いいや、そんな事はないんじゃないのかな。
私は〝委員長〟なんて括りには属さない人間だからさ。
むしろ敢えて括るのなら君と同じなのかもね。

永井蓮

それこそありえない
お前は委員長で俺はただの不良だ

委員長

『ただの不良』ねえ……。

永井蓮

優等生様からしたら、きっと俺のようなヤツはゴミみたいな人間なんだろうし

委員長

そんなに自分を卑下する不良がいるのかな?
喧嘩もしない、誰ともつるまない、ただ漠然とした虚無感を日々呪っているだけ。
私にはキミがそんな風にみえるよ。
不良やヤンキーというよりかは、非行少年って感じかな?

永井蓮

どっちにしろ似たようなもんだろ……
そんなものただの言葉遊びだ
未成年飲酒も喫煙もしてたら立派な不良でいいだろ

委員長

『未成年飲酒も喫煙もしてたら立派な不良』ねー……。
だから私と君は似たもの同士なんだよ。

永井蓮

ますますわけが分からないんだが

委員長

演じてるんだよ、私も君も。
十代特有の環境でのフラストレーションに溺れていて、どんな浮木にしがみついてでもいいから自分を形成する場所を探している。

私達はしがみついた浮木が違うだけ。

永井蓮

……なんだか馬鹿にされている気分だ

委員長

今はまだ馬鹿になんてしていないよ?

永井蓮

これからする予定でもあるのかね

委員長

あはは、それはどうかな。

永井蓮

なんつーか今更だけどお前、学校と態度全然違うんだな
お前はもっとこう……周りから頼られていて、いつも自然と人が集まってきて……なんていうかうまく表現できないけど――

委員長

『人気者』?

嬉しいね、そんなに私の事を見てたの?
もしかしてさっきの『顔も名前も思い出せない』ってのは照れ隠しだったのかな?

永井蓮

うるせえよ
流石に俺でもお前の存在くらいは知ってる

委員長

一つ疑問に答えてあげたんだから、こっちも一つ君に訊いてもいいかな?

永井蓮

なんだよ

委員長

本当はね……君に連絡先を聞いた時断られると思ってた。
でも君は教えてくれた。あれはなぜなのかな?

永井蓮

気分だよ
特に理由なんてない

委員長

もしかして君も私と同じように〝ニオイ〟を感じていたんじゃない?

永井蓮

それはない
アンタの演技は完璧だったし、俺からみた委員長はただの優等生だったよ

委員長

そう……。
それじゃあ本能的なものだったのかもね。

永井蓮

……本能?
おまえ適当言ってないか?

委員長

そんなことはないよ。
人が人を惹き付ける力ってのは誰もが気づいていないだけで、とてもとても大きな力があるんだよ。

永井蓮

それはオカルトかなんかか?

委員長

違う違う。
仕草、口調、態度、その他諸々。
根底が似てる人間同士は頭では理解できていなくても、
それこそ顔も名前も思い出せないような相手だろうと、心が理解しているんだよ。「同じニオイだ」って。
きっとそれが君の言う『気分』とやらに現れたんだ。

永井蓮

なんつーか……やっぱオカルトだな、それは

委員長

そうかもね。
でもこの短時間のやりとりの中でも、
少しずつ私の話しに真剣に向き合ってきて、
長文まで返してくれるようになった。
あの永井蓮が。
学校で誰かと話しているところすら見たこともない君が。
これはもう無意識に同じニオイを感じている証拠にはならない? もしくは他に可能性があるとするならば私に惚れているとか。

永井蓮

お前みたいな猫かぶり女には惚れないよ

委員長

ふふふ、女という生き物は総じて猫かぶりなのだよチミ。

永井蓮

ああ、そうかい
とりあえず理由も分かったし俺はもう寝るから

委員長

あ、最後に一つ。
明日はちゃんと学校に来ること。

永井蓮

それは委員長の仕事ってやつなのか
答えようによっては俺はいかないからな

委員長

やっぱり君は素直で純粋で、そして聡明だね。
もし仮に本当にそうだったとしたのなら、私が嘘をつく事だってあるのに。
君が私をある程度信用しているからこそ出た言葉だよね、それ。
でも大丈夫。私は君を裏切らないよ。

それじゃあ、また明日。

永井蓮

……うぜえ

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