世界公証人シリーズ
来訪者の羽化登仙

青空を駆ける飛空艇

その飛空艇の中にある休憩室。

三人がテーブルを囲んで話していた。

一人はシヴァ…本名は司馬春一
彼は、この世界にやってきた者で……いわゆる、異世界転生した男だ。
だが、この世界にすっかり慣れて、今では様々な場所に足を運んでは争い事を収める『世界公証人』という職についている。

もう一人は、シヴァのバートナーであるロイド。
彼は一見普通の人間であるが、魔法と科学の融合で動く……俗に言うアンドロイドだ。

最後の一人は、白衣をまとい、ずっと口をおさえている中性的な人物。彼はメルと言う。
ロイドを開発した人物で、特異多重人格という、性格だけではなく、その姿や性別まで別人になってしまうという体質の持ち主。

この3人がテーブルを囲い話をしている……いや、正しくはシヴァだけが喋っていた。

いいか?
ロイド。それと…メル……ちゃんと聞いとけよ。
俺は過去にこんな事を考えたんだ。
もしも、異世界に行ったらチートな能力を駆使して、俺強ぇ感だして美女にモテモテの日々。俺こそが神だぁぁぁ!
…みたいな…生活がおくれるってな!

だが、それと同時に不安もあった。
もしも、異世界でイケメンじゃなかったらどうしよう!
それこそ、人の姿ですらなく、スライムだったら!?……とかね。

そもそも、言葉は通じるのか?お金はどうするんだ?平和な世界なのか?
いや、世界が平和だったら、このチート能力はどうやって披露するんだ?
そうか、俺こそが魔王になるパターンか!!

…と、まぁ不安は山ほどあるわけだよ。…一部期待もあるがな。

異世界転生に憧れを抱くのは自由だ。
それは誰にも止められないし、俺も他人を止める事はない。

ただ…これだけは言わせてくれ。

ハーレムなど夢のまた夢なんだよ

シヴァ…キミは何の話をしているんだい?

わかってるだろ。…つまり、異世界干渉だ

キミの世界の話は、とても興味深いよ

そうだろ

キミの世界の人々は、他の世界に移動できると思っているのかい?

ああ…思ってるさ。思ってるとも。
退屈な日々を過ごす学生、満員電車に揺られるサラリーマン…男も女も、そんな日常から抜け出したくて…………抜け出したくて………

抜け出したくて?

異世界転生してぇ!って思うのさ

そういうモノなのかい?

だがな…そう思っても、できないのが異世界転生なんだよ

移動できると思ってるのに、移動できないのかい?

そうだ。移動のトリガーは解明されていないんだ。
一般的には現世で殺されたりとか、自殺しようとしたとか、ゲームを遊んでたら突然とか、こちらの意図など関係なしにやってくる

ふむふむ

つまり、現世で云う『神隠し』などは、これに当たると思うんだ

『神隠し』……子供などの、行方が突然わからなくなる現象だね

そうだ。きっと、俺も現世では『神隠し』扱いになってるんだろう……いや、待てよ…そのまま時間が止まっているパターンも考えられるし、逆に元の時間に戻れるとも限らない…つまり、浦島太郎。

ウラシマタロウ……?

…気にするな。異世界干渉だ。
それよりも、何よりもだ!俺はどうしても伝えたい!
伝えたいんだよ!

誰に何を伝えたいのさ

現世のみんなにだよ!
……チート能力など微塵もないパターンがあるぞぉぉ!ってな

『ってな』…と、言われても、ピンとこないよ

良いんだよ!お前はピンと来なくても―――ただ…その―――あれだよ……その…あれ―――……

言葉を最後まで続ける事無く、シヴァはそのまま、テーブルに突っ伏し…眠った。

はぁ……ねぇ。メル?

ロイドの言葉を、終始黙って聞いていた白衣を着た性別が判別できないほど中性的な顔立ちの者……メルが喋る。

はははは。やっぱり、司馬くんは面白い

これ……アルコール混ぜたね

ぐふふふふ…

ロイドはテーブルの上をじっと見てから言う。

コップのふち…それと、クッキーからアルコールの反応が見える。
ただ、アルコール特有の香りがない所から、キミが作った新しい何かと予測されるね

ははは。ご名答。
司馬くんは、元からアルコールが苦手だが、過去の経験から特定のアルコールに過剰なまでの酔いを見せたからね。
ちょっと、そのアルコールの匂いを消して、クッキーに混ぜたり、その辺に塗りたくってみたのさ
……ほら。こんな感じで

そう言うと。メルはロイドに自分の両の掌を見せつける。

その手にもべったりだね

いやいや。面白い

相変わらず趣味が悪いね

だって、退屈だもん。僕にも娯楽が必要でしょ

でも、シヴァを玩具にするのは納得ができない

ほぉ……ロイド……それは、敵意かな

わからない

…………キミも面白い

メンテナンスが必要かい?

いや、今は正常な反応とみなすよ……それより。
ロイド。司馬くんを奥の部屋のベッドに連れてってくれるかな?

ベッドに?

後は僕が優しく看病してあげよう

……メル

それは敵意とは異なるものだ。
…嫉妬かな

これは、僕にもわかるよ。
…軽蔑だね

ははは。
まぁ……ここまで酔わせれば、自動的に睡眠を取ってくれる。
異世界干渉…様々な事に興味を持つのは悪い事じゃないが、少しは休んでもらわないとな

そうか。解かったよ

ロイドはシヴァを抱えて、奥の部屋へと進んだ。
その場に残されたメルは一人呟く。

しかし…司馬くん……ハーレムを望んでたんだな…………

ぶっふぉ!面白っ

メル。シヴァを寝かせてきたよ

ありがとう。ロイド。
あぁ…目的地まで時間があるから、少し動作系のメンテナンスはしておこうか。

わかったよ。メル

じゃ、こっちに座って。
準備をするからね

メルの言葉に従い、ロイドは椅子に座ると……直ぐに首を下げ動きを止めた。

キミも休んだ方が良いからね

さて……まだ時間はあるが……。
この物語の続きは12月13日~16日に行う朗読芝居『スリーストーリーズ』で見る事ができるのさ。
是非とも会場に足をお運びください。

その頃には、司馬くんも目を覚ますだろうし、この飛空艇が、どこの大陸に向かってて何をするのか聞こうかな。


えっ?
誰に話してるかって?
キミだよ。キミ。
はははは。

続く……

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