『………ろそ………いりませ………』
……どこからともなく、声が聞こえる。
『……そろそ………いりませんか…』
誰かが呼んでいる……
『……そろそろ、まいりませんか?』
僕を呼ぶのはだれだ?
『………ろそ………いりませ………』
……どこからともなく、声が聞こえる。
『……そろそ………いりませんか…』
誰かが呼んでいる……
『……そろそろ、まいりませんか?』
僕を呼ぶのはだれだ?
すくらんぶる☆
‡リボーン‡
目を開けると、僕は水の中にいた。
もしかしたら水の中ではないかも知れない。
ゆらゆらと光がたゆたう景色に
ただ水の中を感じただけで。
でも僕は、
確かに流されていた。
やっと目を覚ましましたね。
さっきから誰?
僕の眠りを妨げるのは。
誰でもいいじゃないですか。
そんな事を言ったって
僕は君を知らない。
知らなくて当然です。
だったら、放っておいてくれよ。
のんびりしたいんだ。
……でも、せっかく
また出会えたのですから。
……また?
時間はたくさんありますし……
少し、お話をしましょう。
まあ、少しなら……。
あなたはこれまで、
実にたくさんの出会いを
経験したのですね。
たまたまですよ。
たまたま、いつもの道で。
たまたま、出会って。
たまたま、押しかけられて。
どなた?
旅の者です。
泊めて頂けませぬか?
たまたま、勝負を持ちかけられ……
たまたま、勝ってしまって……
今度は仲良くできるといいね。
……今度……。
たまたま、祀り上げられ……
たまたま、敬愛され……
待って下さい。
カベイロスがいなくなってしまったら、
私はどうしろと言うのです?
好きに生きればいいのです。
自由に。身勝手に。
ニケーの心の赴くままに。
それこそが神たる姿です。
たかだか一介の
土着の神ですよ?
そんな、最高神のような振る舞い
私には不敬すぎます。
大丈夫、きっと良い女神になれますよ。
ニケーなら。
あ……。
そうか。
全部……
僕……
全部の僕だったんだ。
僕が入り混じっていたんだ。
ようやく
思い出してくれましたね。
あなたは長い年月の中、
いくつもの生を受け、
いくつもの出会いを経験し
いくつもの運命を遂げました。
その中で彼女らはみな、
あなたに助けられたのです。
彼女らは、いつしかあなたに
恩を返したいと思い、
長い時の旅を続けました。
そして、ついに
あなたと再び巡り合ったのです。
そうだったのか……。
しかし、残念なことに
あなたの方が耐えられませんでした。
え?
お覚えですか?
あなたはなぜ、
日々会社を早退していたのかを
それは……。
だるい。
今日もやる気が起こらない。
……。
早退しよう……。
そうだ……。
僕は……うつ気味だった……。
それは、
あなたの魂と体の結びつきが
不安定だったからです。
あなたの魂は
これまで他人に喜びを
分け与えすぎてしまった。
その結果、
あなたの喜びの器は
その中身をほとんど失い、
穴が開いてしまったのです。
なんてこった。
そんなあなたの器を
喜びでいっぱいにすべく、
彼女らはあなたの前に現れました。
みんなが僕のために?
だからあんなにハイテンションだったのか。
確かに、みんなとの生活は
とても騒がしかったけど、
とても充実していた。
しかし、穴の空いた器では
それは叶いませんでした。
え?
喜びの器が
空っぽになってしまった
あなたの魂は
肉体との繋がりを
著しく失いました。
そこで、私は
散り散りになりかねない
あなたの魂を回収したのです。
つまり、死んだ?
半分ほど正解ですが、
半分ほど違います。
そうかぁ……死んだようなものか……。
……けど
せっかくまた巡り会えたのに、
今度は僕のために尽くしてくれたのに、
僕はただ日々を漫然と過ごしただけで
何も伝えることができなかった。
全てを無駄にしてしまった。
僕は……ダメな存在だ。
………。
ところで、今はどこに向かっているんですか?
なんといいますか……
新しい人生、新しい運命の
始まりの位置まで進んでいるのです。
そこには、みんなはいる?
……いません。
もしかしたら運良く
巡り会うかも知れませんが、
今とはまったく別の存在としてです。
お互いに気づくことはないでしょう。
そう……ですか……。
……彼女らに
会いたいですか?
……会いたい……みんなに。
つらい現世に
戻るとしても、ですか?
もちろん!
なによりみんなに会って、
こう伝えたい。
ありがとうって。
僕なんかのために来てくれて。
そうですか……。
一つだけ……
方法はあります。
それは、どんな?
最後の体を捨てて
新たな体を手に入れるのです。
彼女らの元へ戻れることは
保証します。
ですが、どんな体になるかはわかりません。
それでも良いのですか?
それでも、戻りたい。
わかりました……。
ダーリン、遅いでピ。
なにか胸騒ぎがするでピ。
……。
……。
あー……。
今回が初対面の下々の小娘は、
まだ何も知らないんですね……。
ピ?
どういう意味?
おやめなさい、ニケー。
それ以上はいけません。
そうね。
考えを送りつけちゃう
あけっぴろげな能力があるのは
多少仕方無いとして、
口まで軽いのは頂けないわぁ。
む……。
下々の分際でいま私のことを
小馬鹿にしませんでしたか?
あら、気に触ったかしら?
カチン
この浮かれドヤウサギ。
毛皮を剥がれて
塩を塗り込まれろ!
聞こえなーい
落ち着きなさい、ニケー。
モフ美もそこまでになさい。
同じ寓話系の出自とはいえ、
これ以上あなたに肩入れは出来ません。
ツーン!
もー!
ピー子を置いて
三人で盛り上がらないでください!
……。
!
矮小なる下々の小娘、
ピー子よ。
心を落ち着けて聞きなさい。
ピ?
いま私はあなたの心に
直接語りかけています。
なんか頭のアンテナに
変な電波が飛んでくるピ。
……。
いいですか、ピー子。
かの青年は、
試練を受けている最中なのです。
かの青年……?
もしかして、ダーリンこのと?
そうです。
いったい、なんのピ練を……。
それは、不安定な魂を
現世に留めるための
神代より伝わる習わし……
黄泉還りの試練
なんですって!?
……。
……。
かの青年のことです。
問題なく試練を
乗り越えることでしょう。
きっと、もうすぐ私の元へ帰ってくるに違いありません。
ホッ
わたピの元?
とにかく、良妻賢母は
ダーリン様の帰りをピんじて、
巣作りをすればいいのね!
いいのです!
ふぅ
……まったくもう、ニケーは。
最初からブロードキャストしてどういうつもりなんですか……?。
はて、なんのことですか?
見てはいけない、喋ってはいけない、がこの世の生まれ変わりの習わしでしょうが……。
しまいには、普通に喋ってましたしねぇ。リスクというものをもっと管理すべきですよ?競争中に昼寝したらどうなるかとか……。
私、隠し事は嫌いですから。
気まぐれな神が、反故にしたらどうするのですか。
そこは任せてください。
私は勝利の女神です。
ギャンブルに負けることは
ありません。
ダメだ……。
この神、早くなんとかしないと……。
それに、なにより試練はとっくに……
あら、お客さんみたい。
はーい。
あら。
卵いりませんか?
……あの、どちら様ですか?
ささ、温かいうちに
こちらをどうぞ。
……。
え?
きっと、貴方であれば適任でしょう。
この卵……。
なんだか温めたい……。
あ、あの……
あれ?
もう……いない……。
ゴソゴソ……
!!!
この子、生まれたがってる……!
早く温めないと!
ふふふ……、いい子ね。
もうすぐだからね。
……。
じぃー……
じぃー……
じぃー……
ピーン!!!
ああ、なんて温かいんだ……。
……。
う……生まれる……。
生まれた!?
どう!?
ピ……。
未成熟……?
そんな!
だって、生まれたがってるって……
フッフッフッ
この声は……。
ニケー!!!
残念、それは偽物です。
本物はこちら!
ゴソゴソ……
ピ?
小娘が温めている最中に
私の神ワザテクで
すり替えておきました。
うわぁ……。
なんて手癖の悪い……。
なんでそんな事をするピ……。
言いましたよね、
私の元へ帰ってくる、と。
あ!
あ!
その前振りだったのねぇ……。
私は勝利の女神……
私以外の誰かを
インプリンティングさせて
なるものですか!
させないピ!
その子は私が温めるピ!
この出来レース、
私の勝ち……
しまった、もう温めずとも
生まれる状態でしたか……。
こうなれば、仕方ありません。
この場にいる全ての者が
平等に権利を得ましたが……。
勝利の女神の名において、私は負けないのです!
タダイマ、ピーコ!
……おや?
……。
ま、仕方ないわねぇ……。
負けてナンボのウサギですしぃ。
ダ……
ダ……
ダーリンお帰りなさい!!
フェニックス、只今戻りました。
ご苦労様でした。
これであの方も無事に
現世の住人となれることでしょう。
まったく、ニケーの口の軽さと勝利への執着には驚きです。全てを破壊するのではないかと正直、ヒヤヒヤしました。
まぁまぁ。
元来、神とは身勝手なものですから、致し方ありません。
ところで、良かったのですか、
お伝えしなくて。
えぇ、仕方ありません。
あの方が自ら引き寄せた記憶に
現れなかったのですから。
もはや、あの方に
国産み、神産みの記憶を
戻す必要は無いのです。
これもまた、私の身勝手ですけどね。
そういうもの
なのですかねぇ……。
私には理解しかねます。
それに、時の流れは
限りある命あるものの営み。
その輪廻から外れた我々が
必要以上に干渉をすることは許されません。
お言葉ですが、
私は大きく干渉しましたよ?
ふふふ……。
それは違います。
と、言いますと?
フェニックスが干渉すること。
それ自体が
もともとのあの人の
運命だったのです。
つまり、私は利用されたということですかね。
まあまあ。
そのような無粋な話は
そろそろ終わりにしましょう。
ほら御覧なさい、あの方達を。
それで、これまでの記憶は
全てお残りに?
ピーコ、オツゥ、モフミ、アクマ、
大丈夫、みんな覚えてる!
……アクマ?
あらァ……。
じゃあ早速人間の時のように
もふもふしまくりましょうねぇ。
あ、こら!
抜け駆けは許さないピ!
何を言っているのだか……。
順序的に私が正妻に決まっているでしょう。
……ねぇ、与ひょうさま
アー!キュー 二
イロイロワスレタ
それは好都合です。
実は私が貴方の
永遠のパートナーなのです。
ピー!
嘘をついたら舌を抜かれるピ!
ギャーギャー!
ワーワーワー!
あーあー……。
あんなにもみくちゃになって……。
まるでスクランブルエッグにでもなろうと言わんばかりに……。
……でしょう?
ほら、肩の力を抜いて……。
そうですね……。
彼らのあの賑やかな様子を見ていたら、
悩んでいる私がバカバカしく思えてきました。
さあ、彼らのこの
温かくも騒がしい未来を……
ゆっくりと魅入りませんか?
すくらんぶる☆
完
>シン・アスカセラさん
コメントありがとうございます。
最初から繋がっていたわけではないですが、エピソードを追加していきながら徐々に繋がっていきました。
私の中では『りんかね シーズン2』という感じの立ち位置の作品になっています。