【2034年? 導きの園。飼葉タタミ】
【2034年? 導きの園。飼葉タタミ】
わ、わたひ、わたくしが、『サトウタカシ』ですっ!
ぎこちないなぁ。ワンモア!
……うぅ、楽々さんや、わたし疲れたよ。
弱音吐かないの! ちなみに、楽々ちゃんの事は『ヤマダハナコ』。OK?
うぅ、いえっさー、
『導きの園』から過去『西暦2000年』へ『真衣』と『なゆた』を送り出したわたし達は『DDD団』というチームを作り上げた。『化けクリ』の意志を、『先生』の意志を継いだ組織だ。
中立の地『導きの園』に属して、わたし達『DDD団』は世界中の人々を支援し、励まし、物資を送った。
そして時間を統括するこの地でわたしは知りたくもない事実も知ってしまった。
此の年2034年の旧日本で『ブラック・ダド』の息子『レッド・ボーイ』にわたしの子『なゆた』が殺されるという事実だ。
わたし達は『導きの園』の居候だ。かつ、わたし『飼葉タタミ』は園の創立者『ビンセット・シュガー』の娘でもある。時間軸に干渉することは、どうあっても許されないことだった。
何がどうあっても。
けれど西暦2034年、34歳にて『柊なゆた』が死ぬことは確定されていた。声を無くしたわたしを楽々とコージが励ましてくれる。そしてそれ以上の申し出を言ってくれた。
私が止めてくるよタタミ! 私がなゆちゃんを救ってみせる!
僕も行きます! タタミさんと緋色さんの子供、どんな事をしたって、僕が殺させません!
楽々はわたしの身体を揺らして訴える。必死にこの目を見て言い募った。
タタミ! 私達DDD団は『誰かの為に、どんな事でも!』な組織なんでしょ? なら、自分の娘は絶対に救わなきゃ! 助けなきゃ! どんな事をしてでも!
わたしは首を振る。
ダメだよ、楽々。ルークおじさんに迷惑をかける。それだけは、きっとダメ。
タタミ!!
けれど、わたしは初めからこんな決定を受け入れる気は無かった。鼻をこすって笑ってみせる。
どうしても、って言うなら、楽々は『楽々』の名前を捨てなきゃ!
え?
意味が理解できない楽々へ、この世界に『サムズダウン』をかまして教えてみせた。
わたしも、『飼葉タタミ』の名を、『草乃葉由香』の名を捨てないと、ね。
タタミぃぃ♪
ルークおじさんからもらったペスト治療用の仮面を被りテヘペロ。楽々も目に涙を溜めてテヘペロする。
おほん。ワタクシは、『タタミ』ではありません。DDD団執行部長『サトウタカシ』です。貴女の御名前は?
うん! 私はヤマダ! 『ヤマダハナコ』!
じゃ、じゃあ僕は?
私は愛用の鞭を手に取って、ホビロンの戦いの時に使用した銃をコージの前に差し出す。
貴方は、もうコブタじゃないんでしょ? 『スズキコージ』 ワタクシと一緒に来てくださいますか? この世界の禁忌の果てまで!
はい! タタミさん! 違った、『サトウ執行部長』!
そしてわたし達は調べた。長きに渡って園の情報をひとつ残らず調べ上げる。
なゆたの死後、『ある人物』が過去への跳躍を求め、それを園が拒絶した。以後『ホーム・ホルダー』の治世が進んでいる。分岐点があるとするならココだった。
園の皆に頭を下げた。地に頭をこすり付けありとあらゆる手段を用いてわたし達は彼らを懐柔した。だけど『ルーク・バンデット』、園の主任だけはその首を縦に振ることは無かった。
各地、各時間の人々を救いながらわたし達は暗躍する。全ては『柊なゆた』を救う為に動いた。
園の宝、時間軸の干渉から身を守る輝石『存在の石』も手に入れた。あとは記述に書かれた時間、西暦2037年における導きの園の時間『20XY年』へ飛び事を起こすだけ。
この時の為に地道に生産を続けた蟻型巨大ロボット『DONDONアント』も数が揃った。
決起の日、20XY年のその日へわたし達は赤い飛空船で時を渡った。
1人の少女が銀色のコイン『導きの園のパス』を持って園の中へ駆け込んでくる。皆が訝しげに見つめる中彼女は言い募った。
ボクを、ボクを過去に送ってくだしゃい!
少女『柊真紅(ひいらぎ まあか)』の訴えに首を横へ振ろうとするルーク、その背にわたしは幾分伸びた身体を重ねた。
……。
……いったい、何のマネだい。由香ちゃん。
わたしはその問いに『撃鉄を起こす音』で答える。
ルークは、
夜半過ぎまた来るように。
と真紅(まあか)へ答えると背中に銃口を押し当てたわたしを笑った。
そう簡単に歴史は変わらない。
と、苦々しい笑みで。
事実、真紅を過去に送ることだけでは歴史は何も変わらなかった。おびただしい数の『ホーム』の無人機が壊れただけ。それだけに過ぎなかった。
この歴史を変えるには、……わたしが『あの子』に会う事が、必要不可欠だった。
2015年、導きの園における20AA年の日本『ヒタチナカ』へわたし達は旅立った。
春の日差しが心地よい。そこで日向ぼっこをしている女性に
こんにちは!
と声を掛ける。
はじめまして。柊真衣(ひいらぎ まい)さん!
その女性は、頬に手を当ておっとりと、懐かしい顔つきでわたしに応えた。
同じ顔が『はじめまして』なんて、ちょっとおかしいですよ? おかえりなさい、お姉ちゃん♪
ずいぶん大きくなったね真衣ちゃん。お姉ちゃん、初めは何処の美人さんか解らなかったよ!
お姉ちゃんも元気そうでよかった。今お茶を淹れてくるね♪
とてとて、と真衣が家の中へ戻っていく。数分後、お盆にお茶を乗せて帰ってきた。
『ヒユイマギイナ』こっちでも作ってくれてたんだね。わたしの大好物!
流れるような動作でお茶菓子を開いて真衣は話してくれた。一口サイズの和菓子がお盆の上で花を咲かせる。
うん。いつか、いつかきっと会えると思ってずっと育ててたのよ。だけど、お姉ちゃん遅いから、私、おばあちゃんに成っちゃうかと思ったの♪
まずはね、真衣にこれを渡しておきたくて、
目的の1つを果たす。これを彼女に渡すことが、世界を変える1つの条件として在った。
キレイな石ね。宝石?
その手の中に握らせる。
これは、時間の干渉から身を守る石。お守り代わりに持ってて。
その身が危険になることはあえて言わなかった。彼女も『化けクリ』メンバーだから解ってくれると信じている。真剣な眼差しで緑色の名残が見えるその瞳を見た。
これから少し騒がしくなると思うけど、許してくれるかな? 真衣。
うん。それよりあれからの事いっぱい話して! 私、お姉ちゃんのお話聞きたいな♪
導きの園で真衣と別れてから、『DDD団』を創ってたくさんの人を助けた事、楽々は相変わらずおバカをやっている事、コージが親身になって家事を教えてくれる事、たくさんたくさん真衣に話した。そして、お盆に空の『ヒユイマギイナ』を置いて告げる。
……明日、あの子に会う事を。
雀がぴーちく、微笑ましく鳴いている。
翌朝。2階に在る『あの子』の部屋の外に立ち、立ち続けそのまま数刻が経ってしまった。黒のスーツの襟元を整えハットからはみ出た後れ毛を正すが未だに出逢いの文句が思いつかない。頭を捻っても、へんてこな文句しか浮かばない。
そんなわたしの前に影が過ぎった。大きな赤が空を舞っている。
オジョウチャン、ナニカオナヤミデ?
す、
あの子だった。もう一生逢う事は無いと思っていた!
スバリナぁあああああああ!
オオキナコエダスト、アノコオキチャウヨ?
あっ、いけないいけない。スバリナ生きてたんだね! どうして此処に? なんで?
ソレハアトデ、ネ♪ ソレヨリ、タタミ、スバリナノ名言ヲキイテ!
うんうん♪
スバリナはビブラートを利かせ言い放った。小さなオナラをぷすり、と出して。
ナヤミナンテ糞クラエEEEEE!
えぇぇぇぇぇ!
真面目に聞いたわたしがバカだった。スバリナがわたしの腕で足を休める。そして顔を見合わせ2人? 笑った。久しぶりに『化けクリ』メンバーでバカをやれた。
ガンバレ、タタミ♪
飛び立つスバリナと手を振って別れる。あの蒼い空へスバリナの赤が高く遠く去っていく。そうだ。悩みなんてクソ喰らえ。わたしは、わたし達はあの大戦を生き残った『戦士』だもの!
深呼吸、仮面を付けてわたしは徐に窓をノックする。
……は~~ぃ。どなた様ですかぁ。
あの子がこちらへ向かってくる。カーテン越しにでも何故かそれが分かった。彼女の気配をびりびりと感じた。
朝日を背に、味方につけて、わたしは『娘』に向かい合う。ここから始まる。始めてみせる! 仮面の下、ぎゅっ、と目を瞑った。
『先生。どうかわたしにチカラを貸して』
カーテンが、そして窓が開かれる。
……?
……。
わたし達は、2人、十数年ぶりに向かい合う。へんてこおさげが特徴的な少女『柊なゆた』は、――大きく、――世界一可愛く育っていた。
わたしは『世界を書き替える』為に話しかけた。黒き仮面をかぶって道化に成って、この子を、『柊なゆたを救う』為に、全てを敵に廻してでも、
どうか見ててね、先生!
――なゆたを『ホーム(正義)から救う』為に!!
【番外編2 タタミ、最後の冒険。終】
土御門つかささんへ。
\(//∇//)\コメントありがとうございます!! フォーチュンは、もう、本当におぞましく描いたつもりなので、なんか、^ ^すごい嬉しいです!!!