【2034年、モンガル。歯車フォーチュン】
【2034年、モンガル。歯車フォーチュン】
こんなものかな。ホーム・ホルダーも。
自室のホールにてしゃぶりつくしたチキンの骨を舐める。そこにはもう髄液すら残っていない。唾と一緒に屑箱へ放る。
飽きた。飽きましたよワタシ!
ホームに蓄えられたデータ、知識の全ては閲覧し、この頭に容れておいた。言ってみれば、あいつらの『ノウミソ』は舐め尽くしたようなものだ。
手に入れるモノももう無さそうですし。……主席、聞こえてるかい?
『はい。フォーチュン様。全て順調です』
モンガル大帝国新国家主席へベルを飛ばす。携帯端末の中央にその顔が映った。1秒で応えた彼へ私は笑顔で言ってやる。
年明けにアラスカへ核を5つ、それで終いにしよう。その後、私が新たな『ホーム・ホルダー』を結成する!
『仰せのままに』
端末を置くと『ハエ』キメラが窓から帰投してくるところだった。羽ばたきで表す報告を聴き、ソレを口へ放る。
『ウジたん』は実にイイ仕事をしたね。
側近に自室から繋がるホールへの暗幕を解かせた。
さて、『ウジたん』のかたき討ちだ。日本に残した『ゴミ屑』どもを片づけよう。
暗幕の先、律し並ぶモノ共が一様に応える。
ハイ。フォーチュン様!
迎え撃つよ。我が、フォーチュン『ファミリー』!
私の言葉に整然と並んだ幾万の『化け物』が敬礼する。こいつらは私が創った最強の部隊、私の遺伝子を継いだ『化け物』だ。
今、この『モンガル』の地にありとあらゆる『化け物』を集めた。
……役に立ってくれよ。雌豚ども。
……♪
私の前に幾つもの艶めかしいクローンが並ぶ。チカラ持ちし少女達はこぞり押し退けあいながら私の靴を舐めた。
【2034年、イバラキ。言霊みれい】
イジってごめん。けど、絶対強くしてあげるから!!
ミンナガンバレ! 『スバリナ』オウエンシタ!
あんたもよ! 『スバリナ』
私達はキメラの皆をあらゆる方法で弄り強化した。
資金は悲しいくらい溢れていた。
それは全て創が持ち帰ったもの。創のチカラがあってこそだった。
やっと銃が使えるー! 楽々ちゃん、圧倒的安堵だよっ♪
弾薬の詰まった銃を手に楽々が飛び跳ねる。銃弾や剣などの武器の補充も食糧の補充も申し分ない。
後方の創から言葉が在る。
そしてボク達には『切り札』が居る。……おいで!
創に招かれ、私達の居住区へ銀色の足が踏み込んできた。
現れたのは長身の騎士、銀の甲冑に身を包んだ者、――『化喰人魔(ばくら じんま)』だった。
人魔は片言の日本語で話した。
ワタシハ、……善ヲシラナイ。悪モシラナイ。ケレド、
その目は元と成ったあのヒトと同じ優しい光を宿している。
タオスベキハ『創』ノテキ。ソレダケハワカル。
チカラを貸してくれるのか? あんた。
人魔は緋色に向かって頷いた。緋色がその肩を手粗く叩く。緋色と並んで様になる仲間を私は今初めて見た気がする。
よろしく頼む! あんたなら申し分ない! 心強いよ!
あれから、何匹かの家族が『ペスト』で亡くなった。感染の危険を少しでも下げる為、私達の農場から近隣に住む皆を離すことにした。それでも、金内さんをはじめとした工房のみんな、贔屓の商店街のみんなが恐れずに私達をサポートしてくれた。
緋色は毎日お祈りをしている。毎朝、誰よりも早く起き、昇っていった魂へ祈りを捧げていた。もちろんその隣には『タタミ』の姿が在る。言葉無く2人で祈っていた。
その翌日、私達はあの『ヒタチナカ』の街を去っていた。農場の世話、学校の管理は信頼できる知人へお願いしてある。もう、心残りは無い。
月を頭上に仰いで貨物列車の荷台の上、飲みに飲んだ。食べた。歌った。美味しそうに『ヒユイマギイナ』を飲んで酔っ払う『タタミ』が居た。荷台に作ったお立ち台で踊る『楽々』が居た。『緋色』から教えを乞う『コージ』の姿が在った。『創』は最後の最後まで本を手に勉強をしていた。
そんなみんなを前に私は書きかけの物語の最後を描く。
【Fin.】と書いた文章を閉じる。PCの充電残量も残り僅かだ。
私はそのデータをメモリースティックへ移し、ポケットに押し込める。見上げた空は星の光で満ちていた。
戦士達は皆であの地に帰った。その手は永久(とわ)に離れる事はない。そして末永く末永く幸せに……
呟きは夜風に砕けて溶けた。儚く散ったモノ皆をまるで嘲笑うかのように。
夜明けを前に皆が目を覚ます。陸路を終えた私達は風に煽られながら港へ足を進めた。振り向き、私は檄を飛ばす。
行くよっ! みんな!
私達『化けクリ』のメンバーにはあの『真衣ちゃん』も含まれている。クルーザーの前に立つ船長、船員の皆へ一礼する。
私達は一路大陸へとその舵を切ったんだ。