繰り糸は、今も切れぬ

01 美しいバラには棘も筋力も毒舌もてんこ盛り

路地裏。二人の人影を囲うように魔物の群れ。

BOGYAAAAAAA=======!#!$!

聞いた者を震わせる地獄のメロディー!

ファンバルカ

さて、ビエネッタ君。ここで一つ、問題だ。

ビエネッタ

なんでございましょうファンバルカ様。

ファンバルカ

退路はなし。前方にはたくさんの魔物の群れ。

ファンバルカ

君はこの先に、どんな未来を描く?

ビエネッタ

ファンバルカ様は撲殺され、わたくしはスクラップに。明日には2つの粗大ゴミが発見されるでしょう。

ファンバルカ

ち、違う。そういうことを言っているんじゃない。

ファンバルカ

君はただの、お淑やかな女性ではない――この場を切り抜ける策を、いくつも授けているんだ。

ファンバルカ

それを存分に発揮したまえよ。

ビエネッタ

わたくしとしては、スクラップになってみるのも興味深いのですが。

ファンバルカ

つべこべ言うんじゃあない。これは「命令」だよ。

ビエネッタ

拝命しました。

ビエネッタ

ならば迷うことなし、です――

ギヨーーーーーーーーーーーー!!?

取り出した剣を振るう、振るう。細身のその体にどれだけの力が隠されていたのか。刃にかすめたように触れた魔物は、ボカン――――!
グシャリと歪な断面を見せてへしゃげた。

薄暗がりに、女の体は杳として捉えられず。ただ、命を奪う白刃のみが暴風雨となって場を席巻する――――!

瞬くほどの時間の後、路地裏に動くものはもはやおらず。

ファンバルカ

ヒヒヒ、この「魔王」ファンバルカに楯突こうなんて浅はかとしか言いようがないねえ。力の差もわからないのかい?

ファンバルカ

ああォ!?

その時である。頭上から軟体生物が落下してきたのだ。男は早く逃げればよいのに高笑いしているものだから、再び退路を絶たれた形となった。

ファンバルカ

なんだ? やる気か? このぬるぬる。

ファンバルカ

形も保てん下等生物のくせに、このファンバルカ様に喧嘩か?

ファンバルカ

いい度胸だ。……よーし。

ファンバルカ

たた、た。

ファンバルカ

助けてくれーーーーー!

哀れ、力の差がどうとか言っていた男はどこに行ったのか。
うごめくごとに体を膨らせる魔物。もはや視界にはおぞましき軟体生物しか映らぬ。ああ、これが現世最後の景色か――

その、視界を切り開いて現れた怜悧な面。

ビエネッタ

お怪我は。

ファンバルカ

うむ! ない! 助かったぞビエネッタ君。

ビエネッタ

護身もままならないのに、なぜそれほど強気なのですか。多少は格闘を覚えてはいかがですか。

ファンバルカ

な、なんだって! 格闘!? なんのために君をそばに置いていると思っているんだ。

ファンバルカ

君が戦い、僕はいばる! 見よ、これが正しい世界のあり方なのだ!

ビエネッタ

わたくしがいなければ?

ファンバルカ

秒で死ぬ!

どうしてそこで自信満々なのか――

ファンバルカ

さて――今回の襲撃は予定にはなかったが。

ファンバルカ

検体が増えるというのは喜ばしい誤算だね……!

ブツブツとつぶやき魔物の躯に近寄ると――おお、なんということか。

目玉を! ブチブチとくり抜き始めたではないか!

ファンバルカ

ヒヒヒヒ、ワニーパットの目玉は潤滑剤として効果を発揮する!

 まだ僅かな息があったのか、単なる筋肉の反応かはわからぬ。ビクビクと手足を震わせるが知ったことではない。嬉々として素材の回収に勤しむ男。

ビエネッタ

――――

女はそれを諌めるでもなく手伝うでもなく、ただ黙して佇むのみ。

ファンバルカ

イーーヒッヒッヒッヒッ!

男の高笑いだけが裏路地に響く――

ファンバルカ

魔物退治の後の帰宅路は清々しいねえ。歌でも歌いたくなるよ。

ビエネッタ

どうぞ。耳をふさいでおきますので。

ファンバルカ

なんだか嫌な予感がするけど一応聞いておこうか。なんで耳をふさぐの?

ビエネッタ

過度なストレスによる心身の破壊は、最も避けねばならない事柄であります。

ファンバルカ

ジーザッ……!

ファンバルカ

さしもの僕でも殺人音波は出せないよ。

馬鹿な話に花を咲かせる――

   ――が!

ビエネッタ

!!

ファンバルカ

うぉおああ!?

なんの前触れもなく、ファンバルカを突き飛ばすビエネッタ。その狼藉に抗議の、

ファンバルカ

ビエネッタ君……!?

抗議の声を、あげる機会は奪われた。乱入者共によって。

おっとーーーー!? 男を昇天させるつもりが女をぶっ叩いちまったぜーーー!

派手に倒れやしたぜ兄貴。やっちまいましたなあ。

過ぎたことを言うなあ女々しぞアアン! やることは変わりゃしねえ!

ファンバルカ

何だ君たちは!?

見てわからんのかあ商人だよ!

てめえから金目のものを奪って、しこたま儲けさせてもらうぜ!

――すなわち強盗!

ファンバルカ

よくもこんな仕打ちを……外道極まりない……

ファンバルカは憤るが、それよりも彼女は大丈夫か。地に伏したまま――呼吸の気配すらない。

おうおう、睨むなよう。震えちまうじゃねえか。

気にするこたぁないぜ。殺せば、すべて解決だあ。

あばよおオッサンンン――――!

振り下ろされる戦斧――

ガツッッンンン―――鈍い、耳に残る嫌な衝撃音。理不尽な暴力の前に倒れたかファンバルカ――

――――

……!

いや! 眼前には異様な景色。斧を肩口で受け止めたのは先程までひれ伏していた――ビエネッタ! よかった、生きていたのだ。

――――生きて……生きて――?

くく、くくく、首! こいつ、首が、ありえねえ方向に……!

首は曲がり、目は虚ろ――どす黒い液体を額からぬらりと垂らし、また、呼吸の一つも聞こえぬ。

――――

いやそもそも……彼女は、元 か ら 呼 吸 を し て い た か?

き、気色悪い……! 何だその血……いや血か!? てめえもっ、さっさとくたば、

おぐぁ!?

ゼロ距離から放たれた、みぞおちをえぐるエルボー。大の大人が、ふわりと体を浮かせ……そのまま、重力に引きずられ地に叩きつけられる。

兄貴!!

何だてめえ何だてめえ……!

ファンバルカ

その仕草、佇まい、血肉を持ちし我らと少しも遜色なく。

ファンバルカ

人々を魅了し、時の権力者を楽しませ――また時には暗器として。

ファンバルカ

そうやって、人とともに影に闇に存在してきたもの――

ファンバルカ

ビエネッタ君。彼女は僕の最高傑作。「自律人形」さ。

は? にん、何? 人形……?

ファンバルカ

彼女の筋肉の組成は特製だぞ。体内を循環するビオラ=エイルと組み合わせれば、たわめたバネから放たれる力は、石柱すら容易に破壊する。

ギャアアアーーー!

ファンバルカ

さて……僕の危機は去った。ここまでにしておきたまえ、ビエネッタ君。

――――

横にねじ曲がった首を乱暴に、ゴリッ――――胸の痛くなる音を立てて、無理やり真っ直ぐに戻す。

ビエネッタ

――――

ビエネッタ

かしこまりました。

ビエネッタ

ですが、よろしいのですか? このチンピラ共、生かしておけば後々問題になりませんか。

ビエネッタ

禍根はここで断ってこそ。

ファンバルカ

よしたまえよしたまえ。いくら僕でも人の命をむやみに奪いはしない。

ビエネッタ

再び襲われるかもしれないというのに、捨て置くと?

ファンバルカ

そうさ? 何を怖がることがある。

ファンバルカ

さあて質問だ! 僕はどれだけ恨まれてもちっとも怖くない! なぜだと思う!?

ビエネッタ

生粋の嫌われ者だからですか?

ファンバルカ

ちがうちが~~う! 何を言っているのかな??

ファンバルカ

ビエネッタ君。君が、いるからさ!

ビエネッタ

つまり、歯向かう敵はわたくしが皆殺し。

ファンバルカ

そんなことは微塵も言っていないが、それが僕が怖くない理由だと思うのなら ふふん、それは正解の半分にも満たない。

ファンバルカ

まして、僕らには最終目標がある。――いいかいビエネッタ君。僕は君を、「人間」にしてあげるつもりだ。

ビエネッタ

ファンバルカ

そこにたどり着いたときのことを考えれば……フフッこんなもの、苦労のうちにも入らない。

ファンバルカ

僕はこの先へ向かうよ。ついてきてくれるねビエネッタ君!?

ビエネッタ

それがお望みとあらば。

ビエネッタ

ファンバルカ様が迷われないのであれば、わたくしに留まる道理はなし。

ビエネッタ

――お供いたしましょうどこまでも。

続く

01 美しい花には棘も筋力も毒舌も全部盛り

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