桜の花びらが舞う中、町中央にあるゴミ捨て場で、私は1人の女の子を前に立ち尽くしていた。
陽の暖かさと廃棄物の金属臭が混じる、日曜日午前9時のいつもの町のいつもの朝の香りがする。
お手伝いとしてゴミ袋を運んでいた私、その前に居たのは全身に黒い跡を残した女の子だった。
その女の子の頭には所々黒く染まった赤のリボンが座っていて、パッと見、黒く見えた部分は鎧を纏った胸から腰に集中していた。
逃がさないように、それでいて慈しむように彼女は私、先日幼稚園に上がったばかりの『柊(ひいらぎ)なゆた』を見ていた。私も彼女の姿と、彼女のその壊れそうなほど歪んだ眼差しを見ていた。
……私の胸は高鳴っていた。
不気味とか、そんな怖い想いじゃない。初めて手に取る絵本を開く、あの感じ。あのナニカが始まるような期待感を覚えていた。でも、……その期待がどういった意味を持つのか、私はまだ知らない。
ただ、彼女の存在は私の『始まり』であるように思えた。
黒に塗(まみ)れた彼女は背のバッグからソレを取り出し、こう口を開いた。