『ふ~ん ―― その子が、たくみくん?』

その声は上の妹・麻子。

恐る恐る向けたアパートの階段脇に2人とも顔を
揃えていた。

咲耶

あ、なぁにぃ? 2人して学校帰りに寄ってくれるなんて珍しぃー

沙奈

カワイ子ブリッコで誤魔化そうとしても無駄っ

麻子

姉さん、これはどーゆう事かしら

目の前に突きつけられる戸籍謄本。

咲耶

ア、ハハハハ ―― (参ったな、バレるの早っ)

*****  *****  *****

妹2人へは、大学の合格発表を待って打ち明ける
つもりだった。
でも、バレちゃったんじゃ、しょうがない。

咲耶

そうよ。拓実は我が家の長男。父さんと母さんが引き取った養子なんですからね。2人共これからはそのつもりで宜しく

って、堂々と開き直った私が宣言したら。

来た時から少々興奮気味だった沙奈が遂に逆ギレ。

沙奈

なにが、宜しくよ! 私、そんな子の事なんて絶対
弟と認めないからね!

拓実

オレもあんたに認められようとは思ってない

火に油を注ぐ拓実。

沙奈

キィィィィ~~ッッ!! 何て生意気なガキなの?!
世話になるんだから少しはしおらしくしたらどーよ

拓実

しおらしく、とは、どうゆう意味だ?

沙奈

あんた私の事バカにする気ぃ??

かなりキレまくってる沙奈と、
いつものマイペースを崩さないクールな拓実。
まるで噛み合っていない。
でも、流石に年長の麻子は落ち着いて事実だけを
受け入れてくれた。

麻子

じゃあ、お姉ちゃんはこの先、この拓実くんと一緒に
暮らして行く気なのね?

咲耶

うん

沙奈

咲姉っ! 麻姉っ!

麻子

沙奈は煩いっ。ちょっと黙ってな。この子の事、弟と認めるか? なんて、この際どーだっていい事だと私は思う

沙奈

全然良くないじゃん

麻子

じゃあ、沙奈、あんた父さんと母さんが引き取った子が咲姉を頼って遥々アメリカから来たってのに、人としての情もかけずに追い返せって言うの?!

そう、強く麻子に言われると、
わがままプ~の沙奈も二の句が継げない。

それから 数十分後 ――

近所のお蕎麦屋さん ”伊勢久” から出前した
特製かつ丼で遅い昼食を済ませ。

麻子と沙奈は横須賀の家へ帰って行った。

で、ヤレヤレ ―― と、カウチソファーへ座ったら。
それまで、ダンマリだった拓実が不意に呟いた。

拓実

―― 同情、だったのか

咲耶

え?

拓実

だから……オレと暮らそうって決めたのは、オレに同情したからだったのか

咲耶

バカねぇ。ただの同情だけでこんな厄介者引き受ける
ワケないじゃん

拓実

厄介者……

咲耶

結城事務所で初めて会ったあんたをそのまま連れて
帰ったのは、あの時伸吾先生の言った通り
”しばらく一緒に暮らしてみてもいい” って思った
からよ。3月の末には引っ越してあの2人と暮らす予定
だったしね。その新生活におまけがひとり増えても
”ま、いいか” って

拓実

オレは厄介者のおまけ ……

咲耶

って事だから、いつまでになるか? は、分からない
けど。宜しくね~・おまけの拓実くん

拓実は ”チェっ” と小さく舌打ちして、
照れ臭そうに薄く微笑んだ。

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