今は成瀬家の戸籍に入り ”成瀬 拓実” 
と、名乗っているが。
諸々の大変込み入った事情から、彼の本当の
国籍は判明していない。

成瀬夫妻が拓実と初めて会ったのは、
ハワイ島にある田舎町の小さな教会だった。

夫妻の死後、拓実を預かった咲耶の実母・和泉
登紀子の説明によると ――

拓実はハワイ島の**山5合目付近で置き去りに
されていたのを、たまたま通りかかったハイカーに
発見され、地元警察へ保護された。

その時、拓実は自分の身元を証明する物はおろか、
置き手紙やメモの類も所持していなかった。
母親が育児に行き詰まって置き去りにしたのだろうが。
推定1才になるまで育てた我が子を手放すのに、
メモも手紙も持たせていないのは不自然だ。

その上拓実の体には、激しい暴行でつけられたと
思しき内出血痕や、タバコの火を押し付けられた痕、
ムチのような物で打ち付けられたミミズ腫れが
あちこちに残されていて。

警察は通常の身元不明人保護から 
”虐待被害者に対する緊急保護”へ切り替え、
ワイキキの本署へ拓実の身柄を移して。
この件に関しての細かな捜査も始まった。

結城が事務所で拓実を咲耶に会わせた時

”名前は拓実・歳は推定14才”
等と不確かな言い方をしたのは、
こうした事由が関係していたからだ。

実年齢不詳・国籍不明・名前にしたって本人が
告げたからだけなので確証はなし。

―― これではパスポートを取るにもかなりの時間と
労力を要したのだが。
国際弁護士のキャリアも持ち、アメリカでの貢献度も
それなりにある結城と、世界的に著名な地質学者で
人気女流作家の和泉登紀子が2人がかりで
拓実のパスポート所得に向け根回しした結果。
拓実はようやく、日本へ入国出来たのだ。

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