鎌鼬が不意に声を上げた。
その瞬間、ぐらりと彼の体が傾いて薙いだ煌炎の刃に向かう。
鎌鼬が不意に声を上げた。
その瞬間、ぐらりと彼の体が傾いて薙いだ煌炎の刃に向かう。
鈍い音。
そして血しぶき。
煌炎の刃は水平に鎌鼬の首を滑っていた。
そのままじ地面に倒れこむ鎌鼬。
その首からはとめどなく血があふれ出す。
・・・・。
・・・。
痛みすら感じないのか、苦痛よりも驚いた表情で自分の手先を見つめる鎌鼬。
・・・寒い。
その表情のまま、彼はぽつりとつぶやいた。
・・・寒い、冷たい、寂しい。
痛い、それに・・・怖い・・・?
・・・それが奪われた死だ。
・・・・これが、【奪われた】死?
誰かの手によって無理やり迎えた死、あんたが人間たちに与えてきたものだよ。
こんな・・・嫌な感じのものを・・・?
僕が・・・?
ひと際目を見開き、鎌鼬は驚きの念を隠せないでいた。
その瞳の奥には、今まで見えなかった罪悪感の念も映し出されていた。
そうか・・・、僕はこんなに嫌なものを人に与えていたんだね・・・。
母さんも、あの時こんな気持ちだったのかな・・・?
朦朧とし始める意識の中、彼は空を仰いで言葉を紡いだ。
いや、きっとあんたの親は安らかな死だったんじゃないか?
先ほどまで相対していた敵のその問いに、思いのほか柔らかい表情で答えたのは煌炎であった。
そ、ん・・・な死も、あるの・・・?
手放しかけた意識を引き戻し、最期の力を振り絞ってさらに問い返す。
生き物が自然に、眠るように迎える死だ。
そっか・・・その死だったら、いいな。
母さん・・・・、よかった・・・・。
その答えを聞いて、安堵の表情を浮かべた鎌鼬はそのままこと切れた。
彼の首飾りについている魔具に静かに亀裂が走るのを煌炎は見つめる。
正直、こいつが村のやつらにしてきたことは許せねぇ。
だが、こいつもある意味かわいそうな奴だったのかもしれないな。
あぁ、やり方は間違えど、死を迎えた母親のことを心配しているいい子だったのかもしれない。
物陰で煌炎と鎌鼬のやり取りを聞いていた矢田と歳三が、亡くなった鎌鼬の傍に屈んでつぶやいた。
そうして静かに手を合わせると、弔いの言葉を紡ぐ。
・・・許せねぇな。
今まで各地区の七雄を倒してきた煌炎は珍しく怒りを露わにしていた。
煌炎さん・・・?
・・・兄貴に何があったかはわからねぇ。
でも色んな奴の人生をひっかきまわし過ぎだ。
七雄の方々は何もなければここまで邪悪になるような方々ばかりではなかった。
青藍様・・・、いったい何を考えているのでしょう。
その後、一行は鎌鼬の亡骸を埋葬し、再び歳三の家にお世話になることになった。
鎌鼬の死が知れ渡ったのはその翌日のことで、四国の時と同様に村は歓喜の声で満たされていた。
その様子を目の当たりにして、鎌鼬と相対した歳三と矢田だけがなんとも複雑な気持ちになる。
一行は二人にお礼を言い、青森県を後にした。
煌炎の刀を修復してもらうため、兄玄奘のいる北海道を目指して。