第5幕
帰還

翌日の早朝…チアキが見つけてくれた非常食を食べ、同じくチアキが見つけてくれた登山用の杖を持って小屋を出た。
ここから南の方角…川の下流見つかって歩いていけば、泉があるらしい。昨晩見つけた集落はそこに位置していて、普通に歩けば半日で到着できそうだ。

チアキ

なるべくゆっくり行くよ。足場最悪だから、杖じゃ辛いって思ったらいつでも言って!

キャラメリゼ

お気遣いありがとう、でも大丈夫だよ。レディに、これ以上迷惑をかける訳にはいかないからね…

チアキ

気にしなくていいのに…じゃあ、せめて疲れたら言ってね!

川の音があるだけで、昨日のまでとは随分違う。代わり映えしない景色の中に水があるということで、どれだけ救われるだろう…チアキは、私を気遣ってか、かなりゆっくりなペースで歩みを進めていた。もう少しスピードを上げてもらわないと、困るのは彼女なんだけどなぁ…

チアキ

大丈夫?疲れてない?

キャラメリゼ

大丈夫…もっとペースを上げた方がいい。これでは、辿り着くのは夕方になってしまうよ?

チアキ

夜じゃなきゃ大丈夫!街への交通手段さえあれば、夜のうちにそっちへ行って、帰りの予定日まで空港で待つことも出来るでしょう?

キャラメリゼ

入れ違いになってしまうかもしれないよ?そうしたら、君は置いていかれちゃうかもしれない…集落についたら、私とは別行動になるしね

チアキ

え?そうなの?

キャラメリゼ

当たり前だろう…私をなんだと思っているんだい?怪盗だよ?

キャラメリゼ

本来なら、私はその集落ではなく、こちらの仲間との合流地点に向かいたいところなんだ…そちらへ出向くメリットは、今のところ私には無い

チアキ

そ、そうなの!?もしかして、昨日その合流地点も割り出したっていうの…!?

キャラメリゼ

大雑把な落ちた地点と、方角さえ分かれば、あとは簡単だよ。そこと現在地、あとは合流地点を点で結べばいいんだから…

チアキ

……やっぱり君って、優しいよね

キャラメリゼ

こんな所を、レディ1人で歩かせるのは、至極不安でございます故。

チアキ

うわぁ、気色悪い

キャラメリゼ

ずっとこの口調でお話しして差し上げましょうか?

チアキ

やめてっ!鳥肌が止まらなくなるっ!!

一晩ゆっくり寝たおかげで、歩みにも余裕が見られる…ペースも少しずつ上がっていき、この調子で行けば、昼過ぎには向こうへたどり着けるかもしれない……

キャラメリゼ

っ……

多分、彼女にも、私にも…その方がいい。

チアキ

ふー…結構歩いたなぁ…足は大丈夫?キャラメリゼ

キャラメリゼ

……ああ、大丈夫。手当が的確だったんだろうね…全然、痛くないよ

チアキ

そう?よかったぁ…でも、そろそろ休憩しよう。慢心は怪我の大敵だからね♪

キャラメリゼ

君がまだ歩けるなら…今のうちに歩いた方がいいよ。私はまだ平気だから

チアキ

もう…それがダメなんだって!ほら、座った座った!!

キャラメリゼ

本当に!!大丈夫だから!!

チアキ

ひゃあ!?

チアキ

……そ、そんなに…?

キャラメリゼ

……あ…いや、ごめん…インターバル挟んじゃうと、キツい、から…だから、大丈夫!!

チアキ

……そっか、わかった。

チアキ

無理はダメだからね?絶対、なんか変だって思ったら、絶対に言ってね?

キャラメリゼ

……ああ。分かってるよ…ありがとう、チアキ

チアキ

……わ、分かってれば…いいんだよ、分かってれば…

とはいえ、次第に疲れが溜まってきたのだろう。チアキの口数はどんどん減っていき、最終的には黙々と歩いていく形になった。
……これは休まないと、私よりチアキが危険かな…?あまり長く2人でいたくはないけれど…そろそろ…

チアキ

あっ…

キャラメリゼ

…?

先導していたチアキが、久しぶりに声を発した。目線の先を追うと、白い煙が上がっているのが見えた…あれは…!

チアキ

……集落だ…!

チアキ

やった!!やったよキャラメリゼ!!これでなんとか帰れるよ!!

キャラメリゼ

……ああ、そうだね。もう少しだ…急ごう

チアキ

うん!!

焦がれ続けた生活感に安堵した私たちは、地面に足を取られながらも、小走りでその煙の麓を目指した…しかして、そこにはーー

ムチウ

ーー千秋!!

レンマ

うお!?千秋!!無事だったのか!!

チアキ

あっ……あ…い、五里さん…百戦さん…!

チアキ

う……

チアキ

うわあああああああん!!怖かったあああああああ!!!

ムチウ

っ……たく…後先考えずに行動するからだ…世話かけさせやがって

チアキ

あうっ!痛いですよ!ああ!でもこのデコピンすら懐かしいです!!五里さあぁぁん!!

ムチウ

ちっ…くっつくなガキ!!

レンマ

とか言ってぇ…さっきまで、キャラメリゼに攫われてないかとか、変なことされてないかとか、すげー心配して…

レンマ

っでえ!!っにすんだ五里ォ!!

ムチウ

てめえ後でぶっ殺す

チアキ

キャラメリゼ……あ、そう!そうだキャラメリゼ!!

チアキ

大変なんですよ!!キャラメリゼ、僕を庇って怪我しちゃって…!あれ、あのまま放っておいたら…!

チアキ

って、あれ…?いない…

ムチウ

一緒だったのか?

チアキ

は、はい…どこ行ったんだろう…改めて、お礼くらい言いたかったのに…

レンマ

……アレはアレで、お仲間んとこにでも戻ったんじゃねえの

チアキ

……そうだと、いいんですけど…

チアキ

キャラメリゼ…でも、痛くないって言ってたし……痛く、ない…?

チアキ

!!

レンマ

ど、どうした千秋?

チアキ

バカ!!どうして気づかなかったんだ…!!

ムチウ

……そんなやべえのか?そいつの怪我って…

チアキ

やばいです….やばいですよ!!だって、痛くないっていうのが、気遣いとかじゃなくて、本音だったとしたら…!!

キャラメリゼは、今…!!

チアキは、無事に戻れたみたいだ…よかった。やっぱり、集落に居たのか…あはは、よかった…

キャラメリゼ

……仮面、取るの…一日ぶりだな…

正確には、水浴びの時に取った、けど…そんなことは、どうでもいい…まず、考えるべきは…

キャラメリゼ

ポイントB…地図を見れば…

キャラメリゼ

………?

あれ…?この地図、こんなにボヤけてたっけ…?ぐにゃぐにゃしてて、よく見えない…

キャラメリゼ

……身体、重たい…

歩いてるのかな…うん。景色が変わるから、そうなんだと思う…ボヤけて、ぐにゃぐにゃで、ぐるぐるする、変な世界…寒いのに、汗が止まらない…呼吸が苦しい……

キャラメリゼ

あ…だめだ…倒れる…

下は土の地面…大丈夫、痛くない。

キャラメリゼ

……?

あれ、予想以上に柔らかいし、温かい…これは…

サクラ

サヴァランくん!!

キャラメリゼ

……さく、ら……

サクラ

っ……すごい熱…シオ、手を貸して!!

ああ…頭がぼーっとする…そうだ、ターゲット、盗めたよ…成功したよ…だから、安心してーー

サクラ

……サヴァランくん…?サヴァランくん、しっかりして!!サヴァランくん!!

ーーまったく、君は情けないなぁ

サヴァラン

…………?

聞いたことがある声…目を開くと、白い天井があった。ここは…

……サヴァラン…?

サヴァラン

………ぁ…?

声が上手く出ない…数日間、ずっと話していなかったみたいだ…あの後、一体何が…?

サヴァラン!!目、覚めたのね…よかった…!今、先生呼んでくるから…!

サヴァラン

…………

先生…ああ、ここは…病院か……そっか…俺、あの後すぐに運ばれたんだ…多分…それで今、手当を受けて、目が覚めた…と…あはは、なんて言い訳しよう…何も思いつかないや…
少しすると、医者がやってきて、俺の身体をあちこち調べ始めた。ただ、足だけは最後まで触れられることがなかった…一番重症なのはそこなんじゃ…
医者の説明によると、俺は、ファウストの家の前で倒れていた….ということになっているらしい。高熱を出していて、2週間意識が戻らなかった…らしい。高熱の原因は、運ばれた当日雨に打たれていたからだろう。ということになっていた…明らかな原因が、足にあっただろうに…どうしてそこまで…?
声が上手く出ないのは、さっき考えた通り、長期間声を発していなかったからだそう。これは問題ない。多分、今夜には戻るだろうとの事だ。しかし…2週間か…家を出てからで考えると…1ヶ月弱…
  

サヴァラン…あなた、今までどこで何をしていたの…?何があったの…!?

……まあ……そうなるよね…俺は咳払いをして、再度声を出そうと試みた…うん、なんとか出そうだ。

サヴァラン

……覚えて、ない……ごめん

こう言うしかない…これ以上の言い訳を、俺には思い付けない。

覚えてないって……本当に?本当に、ただ覚えていないだけなの?

サヴァラン

………うん

言いたくない、じゃなくて?

サヴァラン

……うん

………そう…

……ねえ、サヴァラン…貴方が、お父さんのこと、嫌いなのは知ってる…私のワガママで、今回何も言わなかったことは謝るわ…ごめんなさい…

でも、もう、こんなことはやめて…3週間も、何の連絡もよこさないで、危ないこともしてきて…

本当に…心配したのよ…!!

サヴァラン

………母さん…

サヴァラン…サヴァラン…よかった…無事で…!

サヴァラン

…………

サヴァラン

ごめん、母さん…これは…これだけは、絶対に言えない…ごめん…

俺を抱きしめて、子どものように泣く母さんを、俺はただ抱きしめ返すことしか出来なかった。
その後、俺は検査のために1日だけ入院し、帰宅した。改めて自分の足を見てみても、足の怪我などどこにも無く、あれは夢だったのかと錯覚させるほど、痛みすらも感じないのだったーー。

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