電車に乗って帰宅する途中、村瀬はあることを思案していた。朝倉が発表した論文は実はゴーストライターが書いたものだと大学やマスコミに告発してやろうか。そうやって朝倉を主任教授の座から追い落とせば、北沢も鹿島も沖田も救われるだろう。
だが、なぜそれを知っているんだと人から問われると、自分の立場も危うくなる。それに口外することは大恩ある郷須都への背信にもなるし、ゴーストライターを務めた以上は守秘義務があり、それを遵守しなければならないというプライドも捨て切れないでいた。どうするべきなのか。村瀬は苦悩した。
帰宅すると、ほどなく雪奈と対座して夕食を取ったが、その思念は脳裏にこびり付いて離れなかった。すると雪奈はそれを見透かしたように尋ねた。